日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT39] 合成開口レーダーとその応用

2022年5月25日(水) 13:45 〜 15:15 101 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:阿部 隆博(三重大学大学院生物資源学研究科)、コンビーナ:木下 陽平(筑波大学)、姫松 裕志(国立研究開発法人 防災科学技術研究所)、コンビーナ:朴 慧美(宇宙航空研究開発機構)、座長:木下 陽平(筑波大学)、阿部 隆博(三重大学大学院生物資源学研究科)

13:45 〜 14:00

[STT39-07] 国土地理院におけるALOS衛星シリーズを利用した地殻・地盤変動監視の成果と今後の展望

★招待講演

*小林 知勝1、佐藤 雄大1、石本 正芳1、島﨑 久美1、石倉 信広1三木原 香乃1市村 美沙1山下 達也1森下 遊1 (1.国土交通省国土地理院)

キーワード:ALOS衛星シリーズ、国土監視、地殻・地盤変動、SAR干渉解析、時系列解析

■はじめに
国土地理院では,SARによる地表変位の検出を高精度地盤変動測量事業と位置づけ,ALOS以降,SAR干渉解析により全国を対象とした地殻・地盤変動監視を実施している.現在は,火山活動や地盤沈下等による全国の地殻・地盤変動の定常監視と地震等の災害時における緊急解析を事業の柱とし,その結果は,地理院地図を通して情報提供されているほか,地震予知連絡会,地震調査委員会,火山噴火予知連絡会等の専門機関に提供され活動評価に利活用されている.こうした背景の下,本発表では,現在運用中のALOS-2による変動検出・監視の効果を振り返るとともに,ALOS-4を見据えた国土地理院の取り組みについて紹介する.

■ALOS-2がもたらした国土監視への効果
 ALOSからALOS-2へのスペック向上の中で監視上最も重要な項目の1つは高空間分解能化であろう.その効果の1つは火山活動の監視能力の向上に見られる.2015年の箱根山・大涌谷での水蒸気噴火の事例は象徴的で,200mほどの局所変動の空間分布の詳細を噴火前に検出し,その後の変動推移を追跡できた点は従来にない画期的な観測であった.ごく浅部の圧力状態を直接反映していると考えられるこうした変動は,火山活動評価に大きく貢献する情報となり,その後も霧島山・硫黄山や吾妻山などの変動監視で効果的に機能している.地震においては,特に内陸地震に伴う地表変位把握への貢献は大きい.2016年に発生した熊本地震は、そのことを示す近年の重要な観測事例であった.高い空間分解能により,主要な震源断層やお付き合い断層とも呼ばれる副次的な断層の位置・広がり・変位量を網羅的かつ詳細に捉えることに成功し,従来の観測手法では捉えきれなかった内陸地震の複雑性や多様性を新しい地震像として獲得した.さらに高分解能化は,干渉画像のみならず,振幅画像の利活用の場も広げた.西之島や福徳岡ノ場の噴火では,陸地の生成・成長の詳細把握を可能とし,国土の拡がりを監視する目的でも活躍した.
ALOS-2による監視では,こうした変動結果が,地震や火山の公的な活動評価に利用されるようになったことも大きい.例えば,2015年の桜島のマグマ貫入活動における火山噴火予知連絡会拡大幹事会見解ではSARで推定された地下の力源膨張量が,2018年北海道胆振東部地震における地震調査委員会ではSARによる地殻変動量がそれぞれ活動評価文に組み込まれた.ALOS-2の登場により,SARが社会の安全を支える社会基盤の1つになりつつあることを意味している.

■ALOS-4によるこれからの国土監視
次期国産LバンドSAR衛星であるALOS-4の最大の特長は,干渉解析に可能な画像が2週間毎に撮像される高頻度観測の実現であろう.これにより,干渉SAR時系列解析による国土の地殻・地盤変動の時間推移の面的な把握・提供が実用的なレベルで可能となることから,時系列解析が今後の事業で中核を担うプロダクトとなる予定である.
国土地理院では,ALOS-4での事業を見据え,2021年より,従来の標準的なSAR干渉解析に加えて,時系列解析を火山の定常的な監視業務に導入し,国内の活動的な38活火山(2022年2月現在)の結果を地理院地図上で一般公開している.ALOS-2は観測頻度が年に数回にとどまるものの,口永良部島の長期的な収縮や焼岳の膨張等,観測困難な山頂域において局所変動が検出されており,その有効性が示されている.今後はALOS-4による高い時間分解能での監視やALOS-2を組み合わせた長期変動把握の実現が強く期待される.国土地理院では,今後も対象火山を拡大し,その結果を地理院地図を通じて公開していく予定である.
これに加えて,時系列解析の結果を国の位置情報(国家座標)の管理に活用していく試みを強化させる予定である.我が国は複雑な地殻変動にさらされているため,近年の高精度測位社会において正確な位置を測るためには,地殻変動によるズレを正確に補正する仕組みが必要とされる.国土地理院ではGNSSデータから見積もられた補正情報の提供を実施しているが,この補正情報の空間分解能向上等に時系列解析結果を組み込む試みも行っており,本発表ではこうした取り組みの事例も紹介する予定である.

謝辞
本報告で使用したALOS-2データの所有権は,(国研)宇宙航空研究開発機構(JAXA)にあります.これらのデータは,国土地理院とJAXAの間の協定,地震予知連絡会SAR解析ワーキンググループ,火山噴火予知連絡会衛星解析グループの活動に基づいて,JAXAから提供されたものです.