日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT40] 最先端ベイズ統計学が拓く地震ビッグデータ解析

2022年5月30日(月) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (24) (Ch.24)

コンビーナ:長尾 大道(東京大学地震研究所)、コンビーナ:加藤 愛太郎(東京大学地震研究所)、矢野 恵佑(統計数理研究所)、コンビーナ:椎名 高裕(産業技術総合研究所)、座長:椎名 高裕(産業技術総合研究所)、長尾 大道(東京大学地震研究所)

11:00 〜 13:00

[STT40-P03] ノンパラメトリックベイズ法を用いた時空間点過程モデルに基づく地震イベントデータのクラスタリング

*遠山 瑠唯1倉田 澄人1矢野 恵佑2駒木 文保1 (1.東京大学、2.統計数理研究所)

地震イベントデータから地震活動を解析する統計的手法として,Epidemic-Type Aftershock-Sequences (ETAS) モデル (Ogata 1988) と呼ばれる点過程モデルが知られる.点過程とは,ランダムに生じる事象の発生時刻の集合を扱う確率過程で,各時刻での事象の発生しやすさを表す強度関数によって特徴付けられる.その後,ETASモデルは発生時刻に加えて震央の位置を組み込んで拡張され (e.g., Kagan 1991, Musmeci & Vere-Jones 1992),時空間ETASモデルとして統合された (Ogata 1998).地震の発生時刻をt1, t2, … とすると,時空間ETASモデルでは,強度関数λは λ(t,x,y)=μ(x,y)+Σi; tiγi (t,x,y) という形で表され,時刻tに依存しない項と依存する項の和になっている.ここで γi は t の減少関数であり,総和は時刻 t 以前に発生した地震全体について取っている.このように,時空間ETASモデルでは,地震活動を,時間が経っても強度の空間的な分布が変化しない定常的な地震活動と,時間が経過するとともに強度が減衰していく非定常的な地震活動に分けて考え,ここでは前者を背景地震活動,後者を余震活動と呼ぶ.地震の震源データから将来の地震の発生位置を予測するためには,非定常的な余震活動の影響を除去し,背景地震活動を解析することが重要である.Zhuang et al. (2002) は,背景地震活動の強度関数 μ(x,y) の推定にカーネル推定を用いた手法を提案した.
 本講演では,時空間ETASモデルにおいて,背景地震活動の強度関数の推定にノンパラメトリックベイズ法を用いる方法を提案し,モデルに従ってシミュレーションした人工の震源データに対して適用することで,提案手法の性能を評価する.また,気象庁の地震カタログの震源データを用いて,日本の本州中西部のデータに対して提案手法を適用し,結果を考察する.提案手法では,背景地震活動の強度関数の推定に,無限混合ガウスモデルを用いる.無限混合ガウスモデルは,推定したい関数が無限個のガウス分布の重み付き和になっており,1つ1つのデータは無限個あるガウス分布のうちの1つから生成され,データセット全体としては有限個のガウス分布から生成されている,という仮定に基づくモデルである.通常の有限な混合ガウスモデルでは混合数をハイパーパラメータとして固定するが,無限混合モデルでは混合数自体も推定するので,現象に対するモデリングの柔軟性が高く,音響信号のクラスタリングや文書のトピック分析など幅広い応用が存在する.ブロック化ギブスサンプリングと呼ばれる近似アルゴリズム (e.g., Ishwaran & James 2004, Shibue & Komaki 2017)を用いて,強度関数をベイズ的に推定する.
 提案手法の性能を検証するため,時空間ETASモデルに従って地震活動をシミュレーションし,地震イベントデータを生成した.このデータを従来手法(Zhuang et al. 2002)と提案手法で解析し,両手法で推定した背景地震活動の強度関数と真の強度関数との誤差を計算した.その結果,提案手法が従来手法に比べてより良い推定を与えていることがわかった.従来手法では,大地震の発生した付近の狭い領域で余震がクラスター的に多発する影響を受けて,背景地震活動の強度の推定結果も特定の領域で値が急激に大きくなるような分布になったが,提案手法では,背景地震活動の比較的まばらな分布を反映した強度関数を推定することができた.