日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC28] International volcanology

2022年6月1日(水) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (23) (Ch.23)

コンビーナ:Conway Chris(Geological Survey of Japan, AIST)、コンビーナ:松本 恵子(産業技術総合研究所地質調査総合センター)、山田 大志(京都大学防災研究所 火山活動研究センター)、コンビーナ:Chamberlain Katy Jane(University of Derby)、Chairperson:Chris Conway(Geological Survey of Japan, AIST)、松本 恵子(産業技術総合研究所地質調査総合センター)、山田 大志(京都大学防災研究所 火山活動研究センター)


11:00 〜 13:00

[SVC28-P08] 口永良部島火山の2019年以降のモノクロマティック・ハイブリッド地震活動と火山活動との関連

*山田 大志1井口 正人1中道 治久1 (1.京都大学防災研究所 火山活動研究センター)

キーワード:火山性地震、火山活動、N型地震

モノクロマティック微動(モノクロ地震),T型地震,N型地震,LP-event, Tornillo等と呼ばれる火山性地震は,特定周波数の卓越する減衰振動によって特徴付けられる.世界中の火山で観測事例が報告されているが,特に熱水系の発達した火山において発生頻度が高いのも特徴の一つである.減衰振動を示す波形的性質を説明するために,流体で満たされた共鳴体の振動に基づく物理モデルなども提案されている.しかしこうした火山性地震の活動と火山活動の関係の理解はいまだに不十分である.口永良部島火山では2014年8月3日に1980年以来34年ぶりの水蒸気噴火が発生して以降,最大で数年程度の休止期間と活動の活発化が繰り返されている.本発表は2020年の噴火活動を含む期間(2019年9月から2021年11月)を対象に,モノクロ地震の特徴と火山活動の関係を議論する.この期間には減衰振動とは異なる5 Hz以上の信号が重畳するハイブリッド地震(井口, 2007)の性質を有するモノクロ地震も発生しており,こうした高周波の信号が重畳する特徴にも着目する.
図には火山性地震日別回数,モノクロ地震地震動エネルギーEmncと積算値の推移,モノクロ地震卓越周波数(基本モード)f0,SO2放出量(気象庁計測)を示す.地震記録は京都大学古岳下観測点の短周期地震記録を用いている.灰色区間は気象庁発表に基づく噴火活動期間に該当する.地震動エネルギー積算は2020年1月初旬から顕著に上昇する.2020年1月から2020年4月末まで(Period 1)の平均地震動エネルギーレートは3.8×103 J/日である.その後の2020年5月から2020年9月末まで(Period 2)は8.9×102 J/日に低下する.2020年10月以降(Period 3)は5.2×102 J/日程度の状態で推移するが,これは噴火活動発生前の2019年12月末まで(Period 0)にほぼ等しい.一連のモノクロ地震の活動は,Period 1後期をピークとするSO2放出量の時間変化と良い対応関係にあり,両者の密接な関係を窺わせる。
モノクロ地震のf0に着目すると,4.5 Hzを境に二つのグループに分けることができる.f0が4.5 Hz以下のイベント(Group LF)は,Period 1の期間に集中して発生している.1イベント当たりのEmnc平均値は,f0が4.5 Hz以上のイベント(Group HF)の6.6×102 Jに対し,Group LFでは1.6×103 Jである.噴火活動期を含んだSO2放出量の増加に同期するモノクロ地震活動は,主にGroup LFの増減を反映していることがわかる.Group LFのf0はPeriod 1初期前後に3 Hzから2.5 Hz程度に低下する.Period 2, 3の期間では,発生頻度の低下と共にf0は徐々に上昇し,2021年11月のイベントでは4 Hz前後である.Period 2, 3の期間の多くのイベントはGroup HFに分類される.Group HFのf0はGroup LF に比べるとばらつきが大きいが,その上限は2020年5月以降徐々に増加する傾向にある.他の火山ではf0と合わせて振動減衰を表すQ値の時間変化が報告される事例もある(Molina et al., 2004).本発表が着目するモノクロ地震では,期間全体を俯瞰するとその最大値が300から200程度に低下する傾向が見られる.
図のf0において橙色ないし青色で示したイベントは,高周波成分の重畳するモノクロ地震である.橙色イベントではコーダ部の減衰振動の途中に高周波成分が重畳し,2020年10月末までの期間に多く発生している.一方で青色イベントでは高周波成分は初動とほぼ同時に出現し,その後に減衰振動のコーダ部が後続する.こうしたイベントは2021年以降に見られる.周波数の観点から高周波成分が剪断破壊によって励起されているとみなすと,以下のような解釈が想定される.火山ガス放出量増大期のイベント(橙)では,モノクロ地震の振動ないし体積変化によって震源周辺で剪断破壊が誘発されている可能性がある.一方で火山ガス放出量減少後のイベント(青)では,最初に剪断破壊が発生し,続いて単色的振動に関与する流体の移動が引き起こされたという解釈が可能である.この仮説に基づけば,モノクロ地震の規模と剪断破壊のスケールに比例関係が期待されるため,地震記録から検証する必要がある.