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[SVC29-03] 吾妻火山,燕沢火口列周辺に分布する巨大な火山弾の古地磁気年代測定:1893年噴火がマグマ噴火であった可能性について
キーワード:古地磁気年代測定、吾妻火山、火山弾
地質試料の残留磁化と地磁気永年変化曲線を利用する古地磁気年代法は,放射年代測定法とは独立した手法であり,両者を組み合わせることで,より信頼性の高い年代決定ができる.しかし,火山岩の熱残留磁化を用いる場合,噴出物が高温で定置し,磁化獲得後に二次移動していないことが重要であり,従来は溶岩や溶結凝灰岩が主な対象であった.火山弾は,飛来中に冷却・回転し,着弾後も移動する可能性が高いため,研究対象にはなりにくかった.しかしながら,特に安山岩質火山が多い日本などでは,ブルカノ式噴火による火山弾が火口周辺に多数認められる場合が多く,その有効性が確認できれば,古地磁気学や火山学,編年学的研究に大きく寄与することが期待できる.本研究では,福島県吾妻火山,浄土平の燕沢火口列周辺に認められる大型の火山弾を対象に古地磁気方位の決定を試み,その噴出年代に関する新知見を得ることができたので報告する.
吾妻火山,浄土平燕沢(つばくろさわ)火口列から数百m南に位置する登山道沿いにて,着弾後に二次的な移動が無いと判断した径1~3 mのパン皮状火山弾を4つ選定し,電動ドリルにて,それぞれから複数の定方位コア試料を採取した(Fig. 1).合計16の試片について,630°Cまでの段階熱消磁実験を行って古地磁気方位を測定した.いずれの消磁曲線も150℃前後から原点へ向かって直線的に減衰する傾向を示し,570℃までにほぼ消磁された.これらに対して主成分解析を適用し,得られた方位(特徴的残留磁化方位:ChRM)から,サイト(火山弾)ごとの平均方位(Dm)とその95%信頼限界(α95)を算出した.
火山弾のDmは,偏角(Dec)が350.6~358.0º,伏角(Inc)が48.9~50.8ºと,ほぼ同様の値を示し,信頼限界 (α95 < 2.4)を考慮すると,互いに区別することはできない.このことから,いずれの火山弾も,キュリー点温度(磁鉄鉱の場合約580℃)より高温で定置し,磁化獲得後は二次的な移動や目立った被熱をほとんど受けていないと判断できる.16試片から求めた全平均方位は,Dec = 355.3º, Inc = 50.0º, α95 = 1.1ºであり,この方位がほぼ堆積時の地磁気方位を示すと考えられる.この全平均磁化方位を,過去2,000年間の地磁気永年変化曲線(日本考古地磁気データベース:畠山,2013)と比較すると,西暦1850年~1900年の期間に近いことが分かる(Fig. 2).吾妻火山では,歴史時代に少なくとも三回の噴火(西暦1331年,1771年,1893~1895年)が記録されている(山元,2005).西暦1331年あたりの日本の地磁気は東偏しており,西暦1771年あたりは比較的浅い伏角(< 45º)で特徴づけられる.史料記述によると,1893~1895年の噴火(明治噴火)では,燕沢火口列から噴石と火山灰が放出し,火口付近を調査していた2名が殉職されている(Fig. 1).この噴火は,マグマの噴出を伴わない水蒸気噴火とされているが,史料には「大きな噴石は着弾後も激しい熱で周囲の水を蒸発させた」といった記述もある.以上のことから,本研究で採取した火山弾は,明治噴火の噴出物である可能性が高く,明治噴火はマグマ噴火であった可能性が指摘できる.同じ手法で那須茶臼岳火山の山頂部に分布する4つの巨大なパン皮状火山弾から古地磁気方位を求めたが,それらの方位は一致せず,1つの火山弾だけが歴史記録のある噴火(西暦1410年)と整合的な方位を示した.茶臼岳火山の場合は,試料採取地が山頂の急斜面であった上に,吾妻火山の例(約100年前)よりも古い(約600年前)噴出物と考えられるため,有用な試料を採取できる確率が低下したと結論できる.火山弾を古地磁気編年に用いる際は,周辺の地形に留意しつつ,多量の試料を採取・処理するのが有効的であると考えられる.
吾妻火山,浄土平燕沢(つばくろさわ)火口列から数百m南に位置する登山道沿いにて,着弾後に二次的な移動が無いと判断した径1~3 mのパン皮状火山弾を4つ選定し,電動ドリルにて,それぞれから複数の定方位コア試料を採取した(Fig. 1).合計16の試片について,630°Cまでの段階熱消磁実験を行って古地磁気方位を測定した.いずれの消磁曲線も150℃前後から原点へ向かって直線的に減衰する傾向を示し,570℃までにほぼ消磁された.これらに対して主成分解析を適用し,得られた方位(特徴的残留磁化方位:ChRM)から,サイト(火山弾)ごとの平均方位(Dm)とその95%信頼限界(α95)を算出した.
火山弾のDmは,偏角(Dec)が350.6~358.0º,伏角(Inc)が48.9~50.8ºと,ほぼ同様の値を示し,信頼限界 (α95 < 2.4)を考慮すると,互いに区別することはできない.このことから,いずれの火山弾も,キュリー点温度(磁鉄鉱の場合約580℃)より高温で定置し,磁化獲得後は二次的な移動や目立った被熱をほとんど受けていないと判断できる.16試片から求めた全平均方位は,Dec = 355.3º, Inc = 50.0º, α95 = 1.1ºであり,この方位がほぼ堆積時の地磁気方位を示すと考えられる.この全平均磁化方位を,過去2,000年間の地磁気永年変化曲線(日本考古地磁気データベース:畠山,2013)と比較すると,西暦1850年~1900年の期間に近いことが分かる(Fig. 2).吾妻火山では,歴史時代に少なくとも三回の噴火(西暦1331年,1771年,1893~1895年)が記録されている(山元,2005).西暦1331年あたりの日本の地磁気は東偏しており,西暦1771年あたりは比較的浅い伏角(< 45º)で特徴づけられる.史料記述によると,1893~1895年の噴火(明治噴火)では,燕沢火口列から噴石と火山灰が放出し,火口付近を調査していた2名が殉職されている(Fig. 1).この噴火は,マグマの噴出を伴わない水蒸気噴火とされているが,史料には「大きな噴石は着弾後も激しい熱で周囲の水を蒸発させた」といった記述もある.以上のことから,本研究で採取した火山弾は,明治噴火の噴出物である可能性が高く,明治噴火はマグマ噴火であった可能性が指摘できる.同じ手法で那須茶臼岳火山の山頂部に分布する4つの巨大なパン皮状火山弾から古地磁気方位を求めたが,それらの方位は一致せず,1つの火山弾だけが歴史記録のある噴火(西暦1410年)と整合的な方位を示した.茶臼岳火山の場合は,試料採取地が山頂の急斜面であった上に,吾妻火山の例(約100年前)よりも古い(約600年前)噴出物と考えられるため,有用な試料を採取できる確率が低下したと結論できる.火山弾を古地磁気編年に用いる際は,周辺の地形に留意しつつ,多量の試料を採取・処理するのが有効的であると考えられる.