日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC29] 火山・火成活動および長期予測

2022年5月23日(月) 13:45 〜 15:15 国際会議室 (IC) (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:長谷川 健(茨城大学理学部地球環境科学コース)、コンビーナ:上澤 真平(電力中央研究所 地球工学研究所 地圏科学領域)、及川 輝樹(国立研究開発法人産業技術総合研究所)、コンビーナ:清杉 孝司(神戸大学自然科学系先端融合研究環)、座長:馬場 章(山梨県富士山科学研究所)、柴田 翔平(茨城大学大学院理工学研究科)

14:45 〜 15:00

[SVC29-05] 三宅島火山,南部沿岸域に分布するマグマ水蒸気噴火堆積物の層序とマール群の噴火活動史

*渡部 将太1及川 輝樹2下司 信夫2長谷川 健1 (1.茨城大学大学院 理工学研究科、2.産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)


キーワード:噴出物層序、マグマ水蒸気噴火、マール、テフラリング、三宅島火山

マグマ水蒸気噴火は外来水などとマグマが接触して発生する噴火様式であり,玄武岩質火山のような静穏な溢流型噴火が卓越する火山では最も爆発的な噴火様式として発生する可能性がある1.特に火山島など,沿岸域などに水が常に存在する環境では,マグマが地表付近に貫入する際に頻繁にマグマ水蒸気噴火が発生する.火山島において沿岸域は居住地域や観光地としても重要であり,火山活動に伴うリスク評価のためにも過去のマグマ水蒸気噴火の発生履歴を復元することが必要である.三宅島火山は,伊豆ボニン弧に位置する活動的な玄武岩質火山である.本火山の沿岸域にはマグマ水蒸気噴火で形成されたと考えられるマール火口が多数認識できるが,特に南部地域に密集する(約2 km四方に少なくとも5つ).本研究ではこれらのマール群を含む三宅島南部地域の地形判読や野外調査を実施し,採取試料の放射性炭素年代測定や全岩化学組成分析を行なった.層相や岩石学的特徴による正確な対比を基に,噴出物の層序,分布,噴火年代を明らかにし,本地域の噴火活動史を議論した.
 本地域には,5つのマール(鶴根,水溜り,古澪,山澪,ココマ)が認められる(図1).これらは,いずれも円形〜楕円形の火口とその周囲に裾野を形成するテフラリングからなるが,地形的特徴から3つ(鶴根マール,水溜りマール,古澪―山澪―ココママール)に分類できる.鶴根マールは,南北方向に約1 km以上の長さの火口列を形成し,東側の火口縁と比較的大規模なテフラリング(裾野の幅が約400〜500 m以上)が残存するが,西側の火口縁とテフラリングは消失している.水溜りマール(径約1 km)は,周辺にテフラリング(裾野の幅約300〜400 m)が分布し,火口地形は比較的新鮮である.古澪(径約1 km),山澪(約300 m),ココマ(約500 m)マールは,鶴根マール列の内部に南北方向に配列して分布する.これらのマール周辺には比較的小規模なテフラリング(裾野の幅約200〜300 m)が分布し,火口地形は比較的新鮮である.
 噴出物の踏査では,土壌や侵食面などの顕著な噴火の休止期を介して区別できる少なくとも3層のマール形成噴出物を認識した.ここでは,給源マールの名称からそれぞれ鶴根テフラ(Tr),水溜りテフラ(Mz),古澪テフラ(Fr)と呼ぶ.これらの層序関係は,下位から,Tr(3.4 ka),スコリアや土壌を挟み,Mz(3.0 ka),溶岩・スコリアや土壌を挟んで,Fr(1.9 ka2)である.
 3つのマール形成噴出物は,いずれも下部の降下スコリア層と上部の不淘汰で基質支持の火砕物密度流(PDC)堆積物や降下火山灰層からなる.下部スコリアは発泡形態からマグマ噴火に由来するものと考えられる.上部PDC堆積物中の本質物質は,発泡が悪くブロック状で,ガラス質の急冷縁も認められることから,マグマ水蒸気噴火で形成されたと考えられる.それぞれのマール形成噴出物の層厚や粒径は,Trは鶴根マール列に,Mzは水溜りマールに,Frは古澪―山澪―ココママール列に向かって大きくなることから,それぞれのマールが給源と考えられる.例えば,TrのPDC堆積物は,近傍(火口縁から約150 m)では層厚15 m以上で最大径数mの火山岩塊を含むが,遠方(火口縁から約750 m)では層厚5 mで構成粒子は最大径約1 mになる.
 本地域のマールの形成活動は,次のようにまとめられる.3.4 kaに山腹〜沿岸にかけて少なくとも約1 kmにわたって鶴根マール列が形成され,3.0 kaには,直径約1 kmの水溜りマールが形成された.1.9 kaには,鶴根マール列とほぼ同じ位置に古澪―山澪―ココママール列が形成された.これらのマールは,標高約200 m以下の沿岸域に限って形成されている.三宅島の沿岸域には地下浅部にまで帯水層の存在が確認されており3,沿岸域における帯水層とマグマの相互作用によりマグマ水蒸気噴火が発生してマールを形成したと考えられる.3回のマール形成噴火では,いずれもマグマ噴火からマグマ水蒸気噴火に移行しているが,同様のパターンは,9世紀の雄山噴火2,1983年噴火4でも認識されている.上昇したマグマは,最初に山腹から噴出して溶岩噴泉のような静穏な噴火様式をとるが,割れ目が沿岸域にまで拡大するとマグマが帯水層に接触して爆発的なマグマ水蒸気噴火に移行する,というモデルが想定可能である.また,マール形成に伴うPDCは,径1 mの粒子を火口から1 km程度運搬するような高いエネルギーの爆発的噴火に由来することも示唆される.三宅島火山では,山腹で割れ目噴火が開始した場合でも,火口が沿岸まで拡大してマグマ水蒸気噴火に移行する場合があり,マール形成やPDC発生による被害の拡大にも十分注意が必要であると指摘できる.

引用文献:
1. Lorenz, 2007, JVGR; 2. Geshi et al., 2022, EPS; 3. Gresse et al., 2021, JGR, 4. 荒牧・早川, 1984, 火山