16:30 〜 16:45
[SVC29-11] 噴火はもっと起こりやすい:天草の中新世岩脈群からの示唆
キーワード:マグマ供給系、マグマ圧、応力、岩脈
マグマが亀裂を伝わって地表まで達すると噴火がおこる.火山学では,そうした亀裂はローカルなσ3軸に直交すると考えるのが普通である(e.g., Acocella, 2021, “Volcano-Tectonic Processes,” Chapter 3).しかし実際には,マグマ圧が高ければσ3軸と斜交するものや,極端なときはそれと平行な亀裂もマグマの通路になるのではないか.それならσ3軸に直交した亀裂だけがマグマの通路になるという前提では,噴火のリスクを過小評価するだろう.このことを,マグマ輸送系の化石である,中新世の岩脈群にもとづいて論ずるのが本講演の目的である.
後者の仮定に立脚するのが,岩脈の方向から貫入時の応力を推定する近年の逆解析法である(山路, 2012, 地質雑).すなわちこの方法は,亀裂にはたらく法線応力よりマグマ圧が大きければ,この亀裂にマグマが圧入して岩脈ができると仮定している.
さて,天草地域では15 Ma前後の珪長質岩脈群がある.われわれは約250枚の板状貫入岩体をマッピングすることにより,さしわたし5 kmのストック群を中心とし,そこから40 kmほど離れたところにかけて,それらが放射状から平行状に遷移する岩脈群をなすことを発見した(Ushimaru & Yamaji, 2022, J. Struct. Geol.;牛丸・山路,本セッションポスター).平行状の部分の卓越方向はおおむね東西である.この岩脈群では,たとえ空間ウィンドウを小さくとっても,岩脈の走向と傾斜は多様である.岩脈がσ3軸に直交してできるとするならば,したがって,時間的空間的にきわめて複雑に変化する応力場を要請することになる.はたしてそうだろうか.
放射状から平行状へとパターンが遷移する岩脈群について,われわれはまず,1)弾性岩盤中に円筒状マグマだまりがあって,広域応力とマグマ圧が岩盤中の応力場を支配するという,Odé (1959)にはじまる古典的モデルを使い,σHmax応力トラジエクトリが岩脈群のローカルな卓越トレンドに合うよう,同モデルのパラメータを調整し,このトラジェクトリの理論的最適分布を決定した.2)つぎに,岩脈群の部分ごとに岩脈の極の方向分布を逆解析したところ,最適解のσHmax方向が上記の理論方向と,岩脈群の様々な部分でほぼ一致することを見いだした.上記のモデルは,直接的には検証できない仮定をおいている.すなわち,地表に存在したはずの火山体の荷重や,低摩擦の既存断層や母岩中の密度不均一などによる,応力場の擾乱がなかったという仮定である.
しかし上記の一致は,それらの仮定が天草の岩脈群ではおおむね妥当だったことを意味する.またさらに,3)この逆解析により,マグマ圧がσ3の値をこえて高まった頻度が,中心のマグマ溜まりからの距離とともに減少することも見いだされた.これは中心のマグマ溜まりからマグマが周囲の亀裂に注入されるという描像と合致する.
これらのことは,σ3軸に直交した亀裂だけがマグマの通路になるのではなく,マグマ圧が高ければそれと異なる方向の亀裂も通路になりうることを示す.したがって,ローカルなσ3軸と直交しない亀裂もマグマの通路になりうるという前提が,噴火予知に重要であろう.
後者の仮定に立脚するのが,岩脈の方向から貫入時の応力を推定する近年の逆解析法である(山路, 2012, 地質雑).すなわちこの方法は,亀裂にはたらく法線応力よりマグマ圧が大きければ,この亀裂にマグマが圧入して岩脈ができると仮定している.
さて,天草地域では15 Ma前後の珪長質岩脈群がある.われわれは約250枚の板状貫入岩体をマッピングすることにより,さしわたし5 kmのストック群を中心とし,そこから40 kmほど離れたところにかけて,それらが放射状から平行状に遷移する岩脈群をなすことを発見した(Ushimaru & Yamaji, 2022, J. Struct. Geol.;牛丸・山路,本セッションポスター).平行状の部分の卓越方向はおおむね東西である.この岩脈群では,たとえ空間ウィンドウを小さくとっても,岩脈の走向と傾斜は多様である.岩脈がσ3軸に直交してできるとするならば,したがって,時間的空間的にきわめて複雑に変化する応力場を要請することになる.はたしてそうだろうか.
放射状から平行状へとパターンが遷移する岩脈群について,われわれはまず,1)弾性岩盤中に円筒状マグマだまりがあって,広域応力とマグマ圧が岩盤中の応力場を支配するという,Odé (1959)にはじまる古典的モデルを使い,σHmax応力トラジエクトリが岩脈群のローカルな卓越トレンドに合うよう,同モデルのパラメータを調整し,このトラジェクトリの理論的最適分布を決定した.2)つぎに,岩脈群の部分ごとに岩脈の極の方向分布を逆解析したところ,最適解のσHmax方向が上記の理論方向と,岩脈群の様々な部分でほぼ一致することを見いだした.上記のモデルは,直接的には検証できない仮定をおいている.すなわち,地表に存在したはずの火山体の荷重や,低摩擦の既存断層や母岩中の密度不均一などによる,応力場の擾乱がなかったという仮定である.
しかし上記の一致は,それらの仮定が天草の岩脈群ではおおむね妥当だったことを意味する.またさらに,3)この逆解析により,マグマ圧がσ3の値をこえて高まった頻度が,中心のマグマ溜まりからの距離とともに減少することも見いだされた.これは中心のマグマ溜まりからマグマが周囲の亀裂に注入されるという描像と合致する.
これらのことは,σ3軸に直交した亀裂だけがマグマの通路になるのではなく,マグマ圧が高ければそれと異なる方向の亀裂も通路になりうることを示す.したがって,ローカルなσ3軸と直交しない亀裂もマグマの通路になりうるという前提が,噴火予知に重要であろう.