日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC29] 火山・火成活動および長期予測

2022年5月31日(火) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (25) (Ch.25)

コンビーナ:長谷川 健(茨城大学理学部地球環境科学コース)、コンビーナ:上澤 真平(電力中央研究所 地球工学研究所 地圏科学領域)、及川 輝樹(国立研究開発法人産業技術総合研究所)、コンビーナ:清杉 孝司(神戸大学自然科学系先端融合研究環)、座長:上澤 真平(電力中央研究所 地球工学研究所 地圏科学領域)

11:00 〜 13:00

[SVC29-P09] 阿蘇火山の阿蘇-1前後の火山噴出物の全岩化学組成とSr同位体比

*新村 太郎1荒川 洋二2可児 智美3森 康4三好 雅也5 (1.熊本学園大学経済学部、2.筑波大学 生命環境系 地球進化科学専攻、3.熊本大学大学院自然科学研究科(理学)、4.北九州市立自然史・歴史博物館、5.福岡大学理学部地球圏科学科)

キーワード:阿蘇カルデラ、Sr同位体比、先阿蘇火山岩類、古閑溶岩、外牧溶岩、阿蘇-1火砕流

阿蘇火山は,九州-琉球弧のほぼ北端の火山フロント上に位置し,日本では2番目に規模の大きいカルデラ地形を有する.阿蘇カルデラはAso-1(約266 ka),Aso-2(約141 ka),Aso-3(約123 ka),Aso-4(約89 ka)の4回の大規模火砕噴火によって形成され(小野・渡辺,1985;松本・他,1991),中部九州はこれらの火砕流堆積物に広く覆われている.カルデラ壁は主として大規模火砕噴火の堆積物とそれに先行して噴出した先阿蘇火山岩類から構成されている.先阿蘇火山岩類の活動のほとんどは約400~800 kaの間に集中している(小野,1965;小野・渡辺,1985;渡辺・他,1989;NEDO, 1991;三好・他,2009;三好・他,2013;渡辺・他,2021).現在のカルデラ中央部にはAso-4噴火直後に活動を開始した中央火口丘群がほぼ東西方向に分布している.中央火口丘群のうち,中岳第一火口は現在も活動中である(小野・渡辺,1985).
カルデラ期以降の火山噴出物は根子岳火山など一部の例外を除いて,K2Oなどの液相濃集元素に富むが,先阿蘇火山岩類ではそのような傾向はない.また,Sr同位体比は全体を通して約0.704を下限として上限が時期によって異なり,報告されている時期ごとのSr同位体比の上限値はそれぞれ先阿蘇火山岩類では0.704462(古川・他,2008,新村・他,2013など),火砕流堆積物の本質物では0.70422(Hunter,1988),根子岳や丸山など一部の高Sr比を除く後カルデラの火山噴出物で0.704355(Miyoshi et al., 2011,新村・他,2013など)である.先阿蘇火山岩類で最も高く,大規模阿蘇火砕噴火で低くなって後カルデラ期で再び上昇する.また4回の大規模火砕噴火では最大値は阿蘇-1から阿蘇-4まで順に0.70422,0.70415,0.70412,0.70409であり,全体として徐々に低くなっている(Hunter,1988).本研究では傾向が大きく変わる先阿蘇火山岩類から阿蘇-1大規模火砕噴火前後における6個の火山噴出物の試料について全岩化学組成およびSr同位体比を測定し,阿蘇カルデラ噴火全体の開始期におけるマグマ組成の変化を明らかにすることを試みた.
試料は立野渓谷岩戸神社参道の沢に分布する先阿蘇火山岩類(渡辺・他,2021)3個,カルデラ東壁の一部に分布する年代が275±11 kaの古閑溶岩2個(田島・他,2017),立野渓谷瀬田神社付近に分布している外牧溶岩1個(阿蘇-1/2溶岩,渡辺・他,2021)を採取した.すべて安山岩である.全岩化学組成は北九州自然史歴史博物館設置の蛍光X線分析装置(Philips PANalytical MagiXPRO),Sr同位体比の分析には筑波大学の表面電離型質量分析装置(Finnigan社製MAT262)および熊本大学の表面電離型質量分析装置(Thermo Fischer Scientific社製TRITON Plus TIMS)を使用した.
主要元素組成のSiO2 wt.%,K2O wt.%,Sr同位体比(87Sr/86Sr)はそれぞれ,先阿蘇火山岩類で57~61,2.3~3.0,0.70422~0.70424,古閑溶岩で55~58,1.8~2.7,0.70405~0.70421,外牧溶岩で60,2.9,0.70399であった.
古閑溶岩および外牧溶岩はカルデラ期以降の噴出物と同様にSiO2量に対するK2O量が比較的高い傾向にある.古閑溶岩のSr同位体比は阿蘇-1火砕流噴火堆積物の上限値にほぼ等しく,外牧溶岩の値は阿蘇に先阿蘇火山岩類から後カルデラ期にかけての火山噴出物の下限付近である.これらは全岩化学組成がカルデラ期以降の噴出物と同様の傾向にあるということと矛盾しない.また今回測定した先阿蘇火山岩類ではいずれもSiO2量に対するK2O量が多く,一般的な先阿蘇火山岩類の特徴ではなく,上記の古閑溶岩などと同様にカルデラ期以降の特徴である.またこの先阿蘇火山岩類の3つの試料ともSr同位体比は阿蘇-1火砕流噴火堆積物の上限からやや高い程度であり,先阿蘇火山岩類全体の上限値である0.70446に比較してずっと低いことから,カルデラ期以降の特徴であることと矛盾しない.今回測定した阿蘇カルデラ西部の立野渓谷に分布する先阿蘇火山岩類の年代値は測定されていないが,これらが分布する地域では先阿蘇火山岩類は阿蘇-1や阿蘇-2と接している(渡辺・他,2021).よってこれらは先阿蘇火山岩類の中でも比較的若く,阿蘇-1の活動時期に近い時期に活動した,すなわちカルデラ東部に分布する古閑溶岩と同様に,阿蘇-1の噴火以前にカルデラ西部でも地下で同様の性質をもつマグマが存在し,阿蘇-1に先駆けてこれらを噴出する活動があったと考えられる.