日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC29] 火山・火成活動および長期予測

2022年5月31日(火) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (25) (Ch.25)

コンビーナ:長谷川 健(茨城大学理学部地球環境科学コース)、コンビーナ:上澤 真平(電力中央研究所 地球工学研究所 地圏科学領域)、及川 輝樹(国立研究開発法人産業技術総合研究所)、コンビーナ:清杉 孝司(神戸大学自然科学系先端融合研究環)、座長:上澤 真平(電力中央研究所 地球工学研究所 地圏科学領域)

11:00 〜 13:00

[SVC29-P10] 放射状から平行状に遷移する岩脈群に対する応力解析の妥当性:天草の中新世岩脈群からの検討

*牛丸 健太郎1山路 敦1 (1.京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)


キーワード:マグマ移動、造構応力、マグマ圧、弾性体モデル

岩脈群の方向から,その形成時の応力場を推定することができる.最近の手法では,岩脈の極の分布をクラスター解析することで,3本の応力主軸 (σ1 ≥ σ2 ≥ σ3) の方向と応力比(Φ = (σ2 − σ3)/(σ1 − σ3)),そして駆動流体圧比(p = (pf − σ3)/(σ1 − σ3), pfは流体圧)を推定することができる(Jolly and Sanderson, 1997; Yamaji and Sato, 2011).これを以下,3次元応力解析法と呼ぶ.

他方,岩脈群の地質図規模の方向パターンも応力場の指標となる.しばしば岩脈群が地質図規模で放射状から平行状に遷移するパターンを示すことがある(e.g., Knopf, 1936).この遷移は,放射状の中心に位置するマグマ溜まりの圧力と造構応力の重ね合わせで説明されてきた(e.g., Odé, 1957; Nakamura, 1977).そこで,2次元の弾性体モデルから予測される理論的な応力軸跡の方向を,岩脈群の位置とトレンドにあてはめることで,水平面内での広域応力の方向を推定できる(e.g., Muller and Pollard, 1977; Baer and Reches,1991; McKenzie et al., 1992; Koenig and Pollard, 1998).
では,放射状岩脈群に対して3次元応力解析は適用できるのだろうか.これまでの研究で,天草地域の珪長質岩脈群の方向を測定したところ,放射状から平行状への遷移を示すことを発見した(Ushimaru and Yamaji, 2022).この岩脈群の分布と方向データを使えば,この問題を検証できる.

そこで本研究では,天草の岩脈群のデータを2つの方法で解析した.まず,放射状から平行状への側方遷移を説明する2次元弾性体モデル(e.g., Odé, 1957)を,岩脈群の位置とトレンドに最小二乗フィッティングすることで,水平面内の応力軸跡と広域応力の方向を推定した.次に,岩脈群の部分ごとに方向分布をクラスター解析し,各所の3次元応力を推定した.その結果,上記2つの方法で,整合的な応力場が得られた.すなわち,3次元解析が示した最大水平圧縮方向は,岩脈群のそれぞれの部分において,2次元モデルが示す応力軸跡とほぼ平行であった.また,平行部分の解析からは,共通して南北引張の正断層型応力が得られた.

本研究の結果から,放射状から平行状に遷移する岩脈群に対する3次元応力解析法の妥当性について,以下の2点が分かった.(1)放射状岩脈の各部分のローカルな応力を正しく推定できる.本研究の2つの解析結果が一致したことは,両手法の仮定に不確実性を含んでいるものの,互いの妥当性を支持している.平行部分の解析からは,共通した応力が得られたことから,広域応力を検出できた可能性がある.(2)マグマ圧を評価できる.3次元解析で推定された,主応力に対する相対的なマグマ圧の値は,中心から離れるにつれて小さくなる傾向が見られた.これは,中心の高いマグマ圧によって周囲にマグマが注入していくという描像と整合的である.