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[SVC29-P11] 降灰層厚の距離減衰パターン解析:火口からの直線距離-降灰層厚点群の特徴
キーワード:降灰層厚、等層厚線図、デジタル降灰分布図、指数減衰関数、べき乗則
降灰層厚分布図を作成することは、①降灰量を推定する、②降灰分布特性に基づき爆発的噴火のダイナミクスを理解する上で重要である。従来、降灰層厚分布図は、地質学者が収集した層厚や単位面積当たり質量の地点データを平面地図にプロットし、手書きで等層厚線や等値線図を作成していた。しかし、近年、コンピュータ演算による分布図作成の試みがなされている(例えば、 González-Mellado and De la Cruz-Reyna, 2010; Green et al., 2016; Yang and Bursik, 2016; Tajima, 2021)。これらの方法を基に、噴火直後に迅速に分布図を得て、噴火推移予測に活用する取り組みが行われ始めている。地点データを入力することにより、降灰分布図やそれに基づく総体積を、客観的かつ迅速に少ない情報からでも計算できる方法になっている。また、このようなデジタル降灰分布図は、データベース化することで、履歴に基づく降灰ハザード曲線の作成にも応用できる(Uesawa et al., 査読中)。我々は、須藤ほか(2007)を再デジタイズしたデジタル降灰データベースを拡充するために、降灰層厚の観測地点データからコンピュータによって分布図を作成する手法の改良に取り組んでいる。 観測地点データから分布図を計算する手法の先行研究は、次の通りである。González-Mellado and De la Cruz-Reyna (2010)は、規模の異なる14の噴火事例について、風向きからの角度毎に火口からの距離と降灰層厚の減衰を調べ、指数減衰関数よりもべき乗則がより当てはまりが良いことを明らかにし、拡散の効果を取り入れた半経験的降灰分布モデルを提案した。その後、Yang and Bursik (2016)は、火口からの直線距離と降灰分布主軸に沿った火口からの距離(風下距離)が降灰層厚と指数減衰関数に一次近似的に当てはまると仮定し(トレンドモデル)、観測値と関数による予測値との残差を地球統計学的手法に基づく数値予測モデル(クリギング)によって解析し、その残差の予測値をトレンドモデルに足し合わせることにより補正することで、複雑な降灰分布を再現する手法を提案した。また、Yang et al. (2019)では、降灰層厚分布や降灰粒径分布から火口の位置を逆解析的に推定するために、指数減衰関数とべき乗則の両方を用いており、べき乗則モデルは González-Mellado and De la Cruz-Reyna (2010)の降灰の拡散に関わる項を単純化したものである。このように、降灰層厚の距離減衰特性は、降灰層厚分布図のモデル作成にとって最も基礎的情報である。そこで我々は、降灰層厚距離減衰の多様性や一般的特性を把握するために、規模の異なる国内外の最近の6事例について、既往文献の降灰分布図の降灰地点データを 、GISを用いてデジタイズし、降灰層厚と火口からの直線距離の関係を点群として調べた。その結果、点群上限の減衰特性に着目すると、規模や様式、火口からの距離の違いによって、点群の減衰特性は次のように大別された。a)プリニー式~サブプリニー式噴火では、火口近傍で指数減衰関数またはべき乗則的減衰、遠方ではべき乗則的減衰を示す。b)ブルカノ式(マグマ噴火1事例、水蒸気噴火2事例)では、べき乗則的減衰傾向であった。また、より遠方まで追跡した事例では、層厚-火口からの距離の両対数グラフにおいて、規模の大小に関わらず、点群の分布上限が2直線で近似される特徴があった。以上の解析結果から、降灰層厚距離減衰特性が噴火の規模や火口からの距離によって異なることから、降灰層厚特性をモデル化する際には、それぞれの降灰層厚距離減衰特性に応じた関数の選択が必要であることが示唆された。今後はより多くの噴火事例を解析し、噴火規模や噴火様式と降灰層厚距離減衰特性との一般的関係を見出したい。