日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC30] 火山防災の基礎と応用

2022年5月27日(金) 15:30 〜 17:00 303 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:宝田 晋治(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)、コンビーナ:石峯 康浩(山梨県富士山科学研究所)、千葉 達朗(アジア航測株式会社)、コンビーナ:宮城 洋介(国立研究開発法人 防災科学技術研究所)、座長:宝田 晋治(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)、宮城 洋介(国立研究開発法人 防災科学技術研究所)

16:45 〜 17:00

[SVC30-12] 御嶽山地域と他の火山地域における火山防災リテラシー向上に関連する活動の比較

*堀井 雅恵1山岡 耕春2、國友 孝洋3、竹脇 聡3 (1.名古屋大学大学院環境学研究科、2.名古屋大学大学院環境学研究科附属地震火山センター、3.名古屋大学大学院環境学研究科附属地震火山センター御嶽山火山研究施設)

キーワード:火山防災、防災リテラシー、教育普及、御嶽山、高リスク小規模噴火、質的研究

御嶽山地域においては、2014年の噴火以降、2017年に地域と火山専門家との顔の見える関係を維持・発展させるため名古屋大学御嶽山火山観測施設が設置され、また同年から火山マイスター制度が発足して火山防災と地域振興のための活動が行われている。本講演では、これまでの御嶽山火山マイスターによる啓発活動と、火山防災リテラシー向上に関して実績のある他の火山地域の先進事例(有珠山、磐梯山、雲仙岳、桜島、その他)とを比較し、火山防災の普及・啓発活動における共通の課題や相違点、また御嶽山地域に特有の課題解決のために有効な方策について考察する。

多数の登山者が犠牲になった2014年の御嶽山噴火以降、火山活動が比較的不活発で、山頂から居住地が遠い火山地域においても防災のあり方が見直されることとなった。
御嶽山地域では「臨床環境学の手法を応用した火山防災における課題解決法の開発」プロジェクトにおいて行われたワークショップ(1-3)や長野県火山防災のあり方検討会(4)等で地域の火山防災が議論された。それらを踏まえて、専門家と登山者・住民とをつなぐ火山防災教育の担い手の必要性から名古屋大学御嶽山火山観測施設が設置されるとともに火山マイスター制度が発足した(5-6)。また、麓の木曽町および王滝村の田の原登山口の二か所で御嶽山ビジターセンターの開設が2022年度に予定されている。
 御嶽山火山マイスター制度は、先進的事例である「洞爺湖有珠火山マイスター制度」を参考にしつつ、有珠山と御嶽山の相違点や木曽地域の現状を踏まえた長野県の独自制度である(4)。マイスターは御嶽山周辺地域において、火山や火山防災に関する知識の効果的な普及・啓発を担い、火山と共生する木曽地域の素晴らしさを内外に伝える(7)。マイスターは原則として、登山ガイドや山小屋経営者、教育関係者など普及・啓発に関わる本業やライフワークを持っている人材が想定されており、それらの業務に付加価値をつけることで火山や火山防災に関する貢献が期待されている。マイスターの認定・審査は御嶽山火山マイスター審査委員会の合議によって行われている。現在、16人のマイスターが活躍しており、うち13名が木曽郡内在住、2名が長野県内のその他の地域在住、1名が県外在住である(2022年2月)。噴火後7年が経過したが、近年、御嶽山火山マイスター認定審査の受験者が少ないなど、地域において災害の記憶が薄れてきているなどの課題が出てきている。
普及啓発の活動形態の異なる他火山の事例を参考にするために、すでに訪問調査をした有珠山に加え、2021年度は火山防災の啓発普及やリテラシー向上に関して活動実績のある先進地域として磐梯山、雲仙岳、桜島において、火山防災教育やジオパークの活動の拠点となっている施設、組織の代表者等に対してインタビュー調査等を行った。主な調査項目は、火山防災や観光における役割や効果、火山研究者や地元行政、地元住民、観光客、登山者、小中高生との交流の状況、施設の活用方法、地元の人たちの火山に対する意識とその変遷についてである。
調査の結果、各地域の火山防災教育についての考え方の共通点として、防災を前面に出さずに火山の恵みを伝えることを通じて、火山特有の景観を形作った噴火災害について考える契機をつくる、子供に対する啓発教育を通じて、周囲の大人にも火山防災の意識を高めてもらうというものがあった。また、御嶽山地域においては、御嶽山火山マイスターの活動拠点と火山研究施設が同一箇所にあることがメリットになることがわかった。

*本研究は文部科学省による「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画(第2次)」の支援を受けた。

(1) 中村秀規・山岡耕春・堀井雅恵(2017)臨床火山防災学の試み, 地理, 62, 25-31.
(2) 山岡耕春(2018)現場から考える臨床火山防災学, 学術の動向, 23(3), 88-90.
(3) Nakamura, H., Yamaoka, K., Horii, M., Miyamae, R. (2019) An Approach to Volcano Disaster Resilience and Governance: Action Research in Japan in the aftermath of Mt. Ontake Eruption, Journal of Disaster Research, 14, 829-842.
(4) https://www.pref.nagano.lg.jp/bosai/kurashi/shobo/bosai/bosai/kazanarikata/chukanhokoku.html
(5) 國友孝洋・田ノ上和志・山岡耕春(2018)名古屋大学御嶽山火山研究施設, 日本火山学会講演予稿集, B1-11.
(6) 窪田 優希, 田ノ上 和志 (2018) 御嶽山火山マイスターが創る新たな“火山防災”の取組, 日本火山学会講演予稿集, P119.
(7)https://www.pref.nagano.lg.jp/bosai/kurashi/shobo/bosai/maister.html