11:00 〜 13:00
[SVC30-P01] 衛星SARを用いた降灰量分布推定手法の研究:降灰シミュレーションによる広域分布推定
キーワード:合成開口レーダー、移流拡散モデル、戦略的イノベーション創造プログラム
当セッションにおいて既報(小澤・藤田, 2019, 2020)のとおり,戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期「国家レジリエンス(防災・減災)の強化(平成30年度~令和4年度)」のテーマII「被災状況解析・共有システム開発」では,研究開発項目の一つとして「衛星SAR解析および降灰シミュレーションによる広域降灰厚分布把握技術の開発」を行っている.SAR干渉解析の干渉性劣化成分から抽出された狭域の降灰等層厚線から,移流拡散モデル(ATM)を活用した降灰シミュレーションにより広域の降灰量分布を推定する手法を実装したので報告する.
本手法においては,まずATMの初期値を作成するために,噴火規模の異なるパラメータを仮定した供給源(ESP)から複数の狭域・短時間の降灰シミュレーションを仮実行する.この仮結果とSAR解析されたあるしきい値の降灰等層厚線から,そのしきい値以上の面積比がもっとも小さくなる場合のESPを最適値として選択する.そして,このESPからより広域・長時間の降灰シミュレーションを本実行する.シミュレーションの実行に必要な大気場は,気象庁局地モデル(LFM)の毎時初期時刻の格子点値(GPV)で,同じくSIP第2期のテーマV「線状降水帯観測・予測システム開発」でNetCDF化されたGPVを利用する.またESPおよびATMは,降灰予報で運用実績があるSuzuki (1983) およびSIP第2期の協力機関である気象研究所で開発された気象庁移流拡散モデル(新堀・石井, 2021)を使用し,実行結果をCSVで出力する.
本シミュレーションにより推定される広域降灰量分布は,降灰予報とは異なり事後解析であり,留意点や課題が多い.SAR解析の降灰等層厚線に複数の噴火による影響が重畳している場合は個々の等層厚線に分離しておく必要があり,また海域の噴火に対して適用するのは困難である.SAR解析の降灰等層厚線が火口近傍に限られる場合,現在用いているESPにはその分解能がないため,面積比の算出にはバイアス調整をしており,また分布形状は比較していない.大気場については,解析値に相当する初期時刻のGPVを入力するため,その作成には実況から数時間の遅れがあり,また輸送過程における鉛直移流および湿性沈着は考慮できない.したがって,本シミュレーションによる推定は,SAR解析の降灰等層厚線をもとに,おおよその降灰量の広域分布を把握するに留まるものである.特に初期値に大きな誤差要因が含まれており,ESPをNIKS (Nishijo-Ishii-Koyaguchi-Suzuki)-1Dモデル(石井・他, 2021)のような各種保存則や大気との相互作用を考慮した力学的モデルに更新することや大気場にSIP第1期で作成されているGPV (Shimose et al., 2017) を使用することは将来の課題である.
参考文献
石井憲介, 西條 祥, 小屋口剛博, 2021: 気象庁の火山灰予測業務で用いる一次元噴煙モデルの開発. 日本火山学会講演予稿集, 35.
小澤 拓, 藤田英輔, 2019: 衛星SARを用いた降灰量分布推定手法の研究(序論). 日本地球惑星科学連合大会予稿集, SVC35-P04.
小澤 拓, 藤田英輔, 2020: 衛星SARを用いた降灰量分布推定手法の研究:降灰による干渉性劣化成分の定量的抽出. 日本地球惑星科学連合大会予稿集, SVC46-P01.
新堀敏基, 石井憲介, 2021: 気象庁移流拡散モデル設計書. 気象研究所技術報告, 84, 146 p.
Shimose, K., S. Shimizu, R. Kato and K. Iwanami, 2017: Analysis of the 6 September 2015 tornadic storm around the Tokyo Metropolitan area using coupled 3DVAR and incremental analysis updates. J. Disaster Res., 12, 956-966.
Suzuki, T., 1983: A theoretical model for dispersion of tephra: Arc Volcanism. TERRAPUB, pp. 95-113.
本手法においては,まずATMの初期値を作成するために,噴火規模の異なるパラメータを仮定した供給源(ESP)から複数の狭域・短時間の降灰シミュレーションを仮実行する.この仮結果とSAR解析されたあるしきい値の降灰等層厚線から,そのしきい値以上の面積比がもっとも小さくなる場合のESPを最適値として選択する.そして,このESPからより広域・長時間の降灰シミュレーションを本実行する.シミュレーションの実行に必要な大気場は,気象庁局地モデル(LFM)の毎時初期時刻の格子点値(GPV)で,同じくSIP第2期のテーマV「線状降水帯観測・予測システム開発」でNetCDF化されたGPVを利用する.またESPおよびATMは,降灰予報で運用実績があるSuzuki (1983) およびSIP第2期の協力機関である気象研究所で開発された気象庁移流拡散モデル(新堀・石井, 2021)を使用し,実行結果をCSVで出力する.
本シミュレーションにより推定される広域降灰量分布は,降灰予報とは異なり事後解析であり,留意点や課題が多い.SAR解析の降灰等層厚線に複数の噴火による影響が重畳している場合は個々の等層厚線に分離しておく必要があり,また海域の噴火に対して適用するのは困難である.SAR解析の降灰等層厚線が火口近傍に限られる場合,現在用いているESPにはその分解能がないため,面積比の算出にはバイアス調整をしており,また分布形状は比較していない.大気場については,解析値に相当する初期時刻のGPVを入力するため,その作成には実況から数時間の遅れがあり,また輸送過程における鉛直移流および湿性沈着は考慮できない.したがって,本シミュレーションによる推定は,SAR解析の降灰等層厚線をもとに,おおよその降灰量の広域分布を把握するに留まるものである.特に初期値に大きな誤差要因が含まれており,ESPをNIKS (Nishijo-Ishii-Koyaguchi-Suzuki)-1Dモデル(石井・他, 2021)のような各種保存則や大気との相互作用を考慮した力学的モデルに更新することや大気場にSIP第1期で作成されているGPV (Shimose et al., 2017) を使用することは将来の課題である.
参考文献
石井憲介, 西條 祥, 小屋口剛博, 2021: 気象庁の火山灰予測業務で用いる一次元噴煙モデルの開発. 日本火山学会講演予稿集, 35.
小澤 拓, 藤田英輔, 2019: 衛星SARを用いた降灰量分布推定手法の研究(序論). 日本地球惑星科学連合大会予稿集, SVC35-P04.
小澤 拓, 藤田英輔, 2020: 衛星SARを用いた降灰量分布推定手法の研究:降灰による干渉性劣化成分の定量的抽出. 日本地球惑星科学連合大会予稿集, SVC46-P01.
新堀敏基, 石井憲介, 2021: 気象庁移流拡散モデル設計書. 気象研究所技術報告, 84, 146 p.
Shimose, K., S. Shimizu, R. Kato and K. Iwanami, 2017: Analysis of the 6 September 2015 tornadic storm around the Tokyo Metropolitan area using coupled 3DVAR and incremental analysis updates. J. Disaster Res., 12, 956-966.
Suzuki, T., 1983: A theoretical model for dispersion of tephra: Arc Volcanism. TERRAPUB, pp. 95-113.