日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC31] 活動的⽕⼭

2022年5月25日(水) 09:00 〜 10:30 国際会議室 (IC) (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:前田 裕太(名古屋大学)、コンビーナ:前野 深(東京大学地震研究所)、松島 健(九州大学大学院理学研究院附属地震火山観測研究センター)、座長:田中 聡(国立研究開発法人海洋研究開発機構 海域地震火山部門 火山・地球内部研究センター)、前田 裕太(名古屋大学)

09:15 〜 09:30

[SVC31-02] 2014–2015年阿蘇火山活動期におけるマグマヘッドの深さ変化の推定

*石井 杏佳1横尾 亮彦1大倉 敬宏1 (1.京都大学大学院理学研究科)

キーワード:阿蘇火山、ストロンボリ式噴火、空振

数年〜数ヶ月程度の中長期的な噴火活動中には、マグマ供給率やガスフラックスの増減にともなって、表面現象が多様に変化する。噴火活動中の火山において、火孔内のマグマヘッドの深さは火道浅部へのマグマの供給率を表すひとつの指標となる。阿蘇火山では、2014年11月25日から約20年ぶりのマグマ噴火が発生した。約半年間にわたって活発なストロンボリ式噴火や火山灰の噴出がみられ、翌年5月に発生した火口底の陥没をもって噴火活動が終息した。この噴火活動中にはマグマヘッドが浅い位置に存在していたことが予想されるが、地形的制約によりマグマヘッドは火口縁から見えなかった。ストロンボリ式噴火時の地震・空振の到来時間差および火道内共鳴によって励起された空振の卓越周波数を用いて、2015年4月下旬には火口底から深さ40–200 m程度の位置にマグマヘッドが存在していたことが推定された(Ishii & Yokoo, 2021, EPS)。しかし、約半年間の噴火活動におけるマグマヘッドの深さの時間変化は明らかになっていない。そこで、本研究ではこの一連の噴火活動中のマグマヘッドの深さの時間変化を推定することを目的とする。また、推定された深さ変化にもとづいて、噴火活動とマグマ供給率の関係について議論する。使用したデータは、2014年11月28日〜2015年5月31日に、阿蘇火山中岳第一火口近傍で取得された短周期地震計記録および空振計記録である。STA/LTA法を適用して、地震と空振が連動して発生した爆発イベントを107,988個検出した。検出されたイベントの空振波形は、時期によってその周波数構造が変化しており、この変化をふまえて解析期間を6つに分けた。マグマヘッドの深さ推定には、既存の2つの深さ推定手法を組み合わせた手法(Ishii & Yokoo, 2021, EPS)を改良して使用した。この手法は、観測された地震・空振の到来時間差と空振の卓越周波数を同時に説明できるような、マグマヘッドの深さと火道内音速を推定する手法である。また、円錐台火道を仮定して、火道内共鳴の基本モードと高次モードの周波数比から、火道の上端(火孔)と下端(マグマヘッド)の半径比を制約する。観測された空振の周波数スペクトルには、0.5 Hz付近に基本モード、2 Hz付近に基本モードのピークがみられた(Yokoo et al., 2019, EPS)。これらの周波数比から、最初は円筒であった火道形状が深くなるほど径の広がる円錐台に変化したことがわかった。この形状変化をふまえてマグマヘッドの深さを推定したところ、マグマヘッドは活動開始直後(2014年11月〜12月)には深さ200 m付近に存在していたが、2015年1月10日ごろから1月下旬にかけて深さ120 m程度にまで上昇したことがわかった。この上昇に先立つ2015年1月5〜9日には、傾斜計や伸縮計記録に火山浅部の膨張を示す変動が捉えられている。気象庁(2015)および京都大学(2015)は火口直下深さ1–2 km程度に位置する球状圧力源の膨張によって、この変動を説明できることを示している。したがって、この時期に火山浅部に新しいマグマの貫入があり、これによってマグマヘッドが上昇したと考えられる。また、マグマヘッドが上昇した時期と火道形状が円筒から円錐台へと変化した時期はおおむね一致していた。上昇したマグマヘッドの熱でマグマヘッド近くの火道壁が劣化・崩落して、火孔内部に広い空間が形成されたと考えられる。噴火活動終息の数日前にはマグマヘッドは50 mほど低下した。このマグマのドレインバックと火道の形状不安定性が、活動の終息をもたらした火口底陥没を引き起こしたと考えられる。