日本地球惑星科学連合2022年大会

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[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC31] 活動的⽕⼭

2022年5月25日(水) 13:45 〜 15:15 国際会議室 (IC) (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:前田 裕太(名古屋大学)、コンビーナ:前野 深(東京大学地震研究所)、松島 健(九州大学大学院理学研究院附属地震火山観測研究センター)、座長:東宮 昭彦(産業技術総合研究所地質調査総合センター)、森 俊哉(東京大学大学院理学系研究科)

13:45 〜 14:00

[SVC31-11] 有珠火山2000年噴火はなぜ準プリニー式噴火になり損なったか?

*東宮 昭彦1 (1.産業技術総合研究所地質調査総合センター)

キーワード:有珠火山、磁鉄鉱、噴火、累帯構造、拡散、タイムスケール

1.はじめに:
有珠火山は日本有数の活火山であり,1663年以来数十年おきに噴火を繰り返している (曽屋・他, 2007).多くの噴火では準プリニー式噴火(1663年はプリニー式)が発生し,しばしば火砕流も伴う.
最新の噴火である2000年噴火は,準プリニー式にはならずマグマ水蒸気噴火(小規模な水蒸気プリニー式噴火?)であった.噴火の発生自体は的確に予測され住民の事前避難に成功した一方で,噴火の様式や推移の予測は必ずしもうまくいっていない.一つ前の1977年噴火では準プリニー式噴火が起きているが,両者でマグマの性質はほとんど同一であり,地下のマグマ供給系も共通だったと考えられている(e.g., 東宮・宮城, 2002).このため,マグマ上昇中に何らかの要因によって噴火事象の分岐があって,2000年では準プリニー式に“なり損なった”(東宮・他, 2001)と考えることもできる.そこで有珠2000年噴出物の岩石学的解析によって,マグマ上昇中に何が起きていたかを解読することを試みている.

2.有珠2000年噴出物,特に磁鉄鉱:
今回,噴出物中の結晶の中でも特に磁鉄鉱に着目する.磁鉄鉱は元素拡散が速く,その拡散プロファイルを解析することで,数ヶ月から数日以下という短いタイムスケールのマグマプロセスを読み取れる特長を持つ.たとえばTomiya et al. (2013)では新燃岳2011年の準プリニー式噴火の磁鉄鉱に見られる加熱の証拠(リムでMgが増加)に着目し,高温マグマの混合が数日前に起きたこと,マグマの上昇開始は数時間前であること,などを推定している.
有珠2000年噴火の磁鉄鉱は,リムでMgがむしろ低下する特徴が指摘されている(e.g., 東宮・宮城, 2002).今回,磁鉄鉱のゾーニングの追加分析(EPMAによる化学組成分析および元素マップ取得等)と再検討を行った.
有珠2000年の磁鉄鉱は,化学組成的には非常に均質であるが,その組織の特徴からいくつかのタイプに分けられる.しかし,そうしたタイプの違いにかかわらず,リム付近の20-30μmにおいてMgが顕著に低下する特徴は共通であった.このことは,リム付近のMgの低下がマグマ上昇中に起きたことを示す.磁鉄鉱中のMgの元素拡散係数を考慮すると,マグマ上昇中の短いタイムスケールでMgの低下,おそらく温度の低下を伴うイベントがあったと推定される.

3.マグマ上昇過程:
有珠2000年噴火のマグマ上昇過程に関しては,様々な地球物理学的観測も含め,多くの研究がある.Suzuki et al. (2007) は,マグマの減圧結晶化実験に基づき,地震・地殻変動観測結果も踏まえて,深さ2km程度においてマグマの上昇が24時間程度停滞した,これが山頂直下から火口域である西山山麓へのマグマの水平移動期間に対応する,と推定した.これを考慮すると,マグマの温度低下イベントはこの停滞に対応する可能性が挙げられる.
マグマの温度については,磁鉄鉱のMg/Mnの温度依存性や高温高圧岩石相平衡実験によって,2000年噴火直前のマグマ溜まりにおいて約900-930℃と推定されている(Tomiya and Takahashi, 2005; Ohnishi and Tomiya, 2018).また,磁鉄鉱リムにおけるMg/Mnの低下が温度低下によるものであれば,温度低下量は50-100℃程度と推定される.さらに,900℃における磁鉄鉱中のMgの拡散係数からリム付近20-30μmのMg拡散時間を見積もると,数時間〜1日以下程度と算出される.
以上から,2000年噴火では山頂直下から山麓直下への水平移動の間にマグマの冷却や脱ガスが進み,また山麓火口域の豊富な地下水との接触も相まって,準プリニー式になり損なったと考えられる.有珠火山には,山頂噴火では準プリニー式やプリニー式,山麓噴火ではマグマ水蒸気噴火や水蒸気噴火,という傾向があるので,この事象分岐過程を理解することは将来の噴火における効果的な防災対策等にも有用であろう.

本研究の一部に次世代火山研究・人材育成総合プロジェクト課題C予算を使用しました.