日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC31] 活動的⽕⼭

2022年5月25日(水) 13:45 〜 15:15 国際会議室 (IC) (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:前田 裕太(名古屋大学)、コンビーナ:前野 深(東京大学地震研究所)、松島 健(九州大学大学院理学研究院附属地震火山観測研究センター)、座長:東宮 昭彦(産業技術総合研究所地質調査総合センター)、森 俊哉(東京大学大学院理学系研究科)

14:00 〜 14:15

[SVC31-12] 浅間火山の大規模珪長質火砕噴火における噴出マグマの特徴と推移

*図子田 和典1 (1.東京大学)


キーワード:大規模火砕噴火、珪長質マグマ

大量の火砕物を爆発的に噴出する噴火は一般に珪長質マグマによって駆動され,しばしば火砕流などの危険な現象を引き起こす.そのため,このような大規模火砕噴火を生じる珪長質マグマの特徴やその時間変化を理解することは防災上の観点から極めて重要である.
浅間火山では,約16,000年前に珪長質マグマによる大規模な火砕噴火が起きたことが知られている.この噴火における主な噴出物として,下位から板鼻黄色(YP)降下軽石,小諸第1火砕流,草津あるいは嬬恋(YPk)降下軽石がある.それぞれの体積は1.28 DRE km3,1.58 DRE km3,1.52 DRE km3とされ(山元,2014),この一連の噴火は浅間火山の活動史の中では最大級である.しかしこの噴火の研究は噴出物の分布や年代,全岩化学組成などに留まっており,未解明な点が多い.本研究では,浅間火山が約16,000年前に起こした噴火について,主な噴出物から噴出マグマの特徴を推定し,噴火期間でのマグマの変化について考察する.
浅間火山周辺に点在する露頭において,噴出物の層序・層相の調査および試料採取を行った.一部の露頭で採取された炭からは約16300‒17000年前の14 C年代が得られ(暦年較正年代計算はIntCal20較正曲線,OxCalv4.4較正プログラムにもとづく),山元(2014)の15688‒16031年前(暦年較正にはCalib7を使用)よりやや古い年代を示す.またYPk降下軽石の下位に認められる火砕密度流堆積物のサブユニット間で数百年程度の差があり,この噴火における主な噴出物の間にも年代差がある可能性が示唆される.
YP降下軽石,小諸第1火砕流堆積物,YPk降下軽石について,層序を細分化しサブユニット毎の軽石粒子の物性および化学分析を行った.まずYP降下軽石,YPk降下軽石の各サブユニットの平均見かけ密度はそれぞれ0.47‒0.49 g/cm3,0.70‒0.83 g/cm3であり,堆積物全体として粒子物性に有意な差がある.偏光顕微鏡観察およびEPMAによる鉱物組成分析によると,いずれの試料も主な構成鉱物として斜長石,直方輝石,単斜輝石,磁鉄鉱,チタン鉄鉱を含む.小諸第1火砕流堆積物はこれに加えて微量の石英とかんらん石を含む.
斜長石斑晶のコアおよびリム部分のAn値は,3試料のいずれについてもコア・リム共に約50を示すものが多い.ただしコア部分のAn値の範囲は40-90と,リム部分の40-60に対して比較的広い.また小諸第1火砕流堆積物に含まれる縞状軽石の苦鉄質部分では,斜長石が約70のAn値を示した.なお一部の斜長石はコアからリムに向かってAn値が増加する逆累帯構造を示す.
直方輝石および単斜輝石のMg値については,3試料いずれについてもそれぞれコア,リム共に約67と約75にピークを持つ.ただしYP降下軽石に含まれる単斜輝石は少量であり,約75のピークは明瞭でない.対して小諸第1火砕流堆積物,YPk降下軽石は約75のデータ数が比較的多く,約67のピークと併せてバイモーダルになる.
共存または近接する斑晶鉱物の組成を用い,両輝石温度計と磁鉄鉱-チタン鉄鉱温度計でマグマ溜まりの温度推定を試みた.2つの温度計の結果には10℃程度の差があった.各温度計のデータについて平均値を取るとYP降下軽石,YPk降下軽石が約860‒870℃に対し,小諸第1火砕流堆積物が約880‒890℃であった.さらに両輝石圧力計を用いた結果,3試料のマグマ溜まり圧力はいずれも約4‒6 kbarであった.
斜長石斑晶とメルトインクルージョンの組成,マグマ溜まり温度および圧力を用いて,2種類の含水量計でマグマの含水量を求めた.含水量計によって0.5%程の差が出るものの,YP降下軽石とYPk降下軽石は概ね4-5.5%,小諸第1火砕流堆積物は主に3.5-5.0%の値を示した.
YP降下軽石,小諸第1火砕流,YPk降下軽石が斑晶構成鉱物,鉱物組成分布,温度,圧力,含水量でわずかな違いはあるものの概ね一致することから,これらの噴火は同様のマグマ溜まり条件であったと考えられる.またこの噴火の噴出マグマについて,高橋ほか(2008)は主な噴出物の全岩化学組成に2種類のトレンドを見出し,異なるエンドメンバーを持つ複数のマグマ供給系が活動したと推察した.これを考慮すると,本研究の結果は同程度の組成・温度圧力条件を持つ複数のマグマ供給系の可能性を示している.さらに興味深い結果として,YP降下軽石とYPk降下軽石のみかけ密度等の粒子物性の特徴は有意に異なることがわかった.両者のマグマ溜まり条件がほぼ等しいことから,この差は火道など別の噴出条件の変化を反映している可能性がある.