14:15 〜 14:30
[SVC31-13] 箱根山火山ガスHe/CH4比の上昇速度と地震回数の関係
キーワード:水蒸気噴火、火山ガス、地震
【序】
箱根火山は,神奈川県西部に位置するカルデラで,中央火口丘神山の大涌谷では地熱地帯が発達している.大涌谷では観光客が常に火口近くに接近しており,観光客を噴火災害から守るためには,火山活動を常に監視し,短期間の活動予測を的確に実施する必要がある.地熱地帯で放出される火山ガス(噴気)には,マグマから脱ガスした成分(マグマ成分:CO2,He等)が含まれる.噴気にはマグマ成分以外に,熱水系で形成されたと考えられる成分(熱水系成分:H2S,CH4等)も含まれている.2015年に発生した水蒸気噴火の前後では,地震回数の増加とほぼ同期してマグマ成分の熱水系成分に対する比率が上昇した(Ohba et al., 2019).2021年7月から8月にかけて,2015年と類似した変化が観測されたが,地震回数は少なかった.本研究では,2021年の火山ガス組成の変化の焦点を当て,地震活動との関係を考察する.
【噴気の採取・分析】
大涌谷地熱地帯の二か所(n,c),北方に500m離れた上湯場地熱地帯の一か所(s)の噴気孔で,噴気を繰り返し直接採取・分析した.噴気nとsでは,2013年5月から2022年1月にかけて,ほぼ毎月採取・分析を実施した.噴気cは,2015年6月の小噴火の際に生じた噴気孔で,2019年1月から2022年1月にかけて採取・分析を行った.
【結果・考察】
噴気cでは2021年7月から8月にかけて,He/CH4比が急激に増加したが,その傾向は継続せず,2022年1月にかけて減少と増加を繰り返した.噴気nのHe/CH4比は,2021年8月から11月にかけて緩やかに上昇し,12月から減少した.sのHe/CH4比は,2021年8月から2022年1月にかけて緩やかに上昇した.噴気 cのCO2/H2S比は2021年7月から8月にかけて,急激に上昇し,その後は10月まで緩やか上昇したが,10月から11月にかけて低下し,再び2022年1月にかけて上昇した.噴気nのCO2/H2S比は10月から2022年1月にかけて緩やかに上昇した.噴気sのCO2/H2S比は10月から11月にかけて明瞭に上昇し2022年1月にかけて高い値が続いている.噴気cのSO2/H2S比は2021年7月から8月にかけて明瞭に上昇したがその傾向は継続しなかった.噴気cのSO2/H2S比は2022年1月まで比較的高い値が維持されている.
噴気nのHe/CH4比には2013年から現在までの期間で,周期的な増減が観測されている.He/CH4比は以下の4回の時期に極小が観測されている:2015年2月,2017年4月,2019年2月,2021年5月.それぞれの極小期を始点としたHe/CH4比の時間変化を求めた.極小期後のHe/CH4比の上昇速度は,以下の順で高かった:2021<2017<2019<2015年.気象庁の観測によると,2021,2017,2019,2015年の極小期後の半月当たりの地震回数の最高値は,それぞれ,19, 8,142,1303回であった.極小期後の活動期における地震回数は,He/CH4比の上昇速度と相関していると考えられる.He/CH4比の上昇速度は,活動期の初期段階で観測可能な指標であり,活動期における火山性地震の規模を推定する一つの手段として注目される.
【文献】
Ohba T, Yaguchi M, Nishino K, Numanami N, Daita Y, Sukigara C, Ito M, Tsunogai U (2019) Earth Planets Space, Doi: 10.1186/s40623-019-1027-5
箱根火山は,神奈川県西部に位置するカルデラで,中央火口丘神山の大涌谷では地熱地帯が発達している.大涌谷では観光客が常に火口近くに接近しており,観光客を噴火災害から守るためには,火山活動を常に監視し,短期間の活動予測を的確に実施する必要がある.地熱地帯で放出される火山ガス(噴気)には,マグマから脱ガスした成分(マグマ成分:CO2,He等)が含まれる.噴気にはマグマ成分以外に,熱水系で形成されたと考えられる成分(熱水系成分:H2S,CH4等)も含まれている.2015年に発生した水蒸気噴火の前後では,地震回数の増加とほぼ同期してマグマ成分の熱水系成分に対する比率が上昇した(Ohba et al., 2019).2021年7月から8月にかけて,2015年と類似した変化が観測されたが,地震回数は少なかった.本研究では,2021年の火山ガス組成の変化の焦点を当て,地震活動との関係を考察する.
【噴気の採取・分析】
大涌谷地熱地帯の二か所(n,c),北方に500m離れた上湯場地熱地帯の一か所(s)の噴気孔で,噴気を繰り返し直接採取・分析した.噴気nとsでは,2013年5月から2022年1月にかけて,ほぼ毎月採取・分析を実施した.噴気cは,2015年6月の小噴火の際に生じた噴気孔で,2019年1月から2022年1月にかけて採取・分析を行った.
【結果・考察】
噴気cでは2021年7月から8月にかけて,He/CH4比が急激に増加したが,その傾向は継続せず,2022年1月にかけて減少と増加を繰り返した.噴気nのHe/CH4比は,2021年8月から11月にかけて緩やかに上昇し,12月から減少した.sのHe/CH4比は,2021年8月から2022年1月にかけて緩やかに上昇した.噴気 cのCO2/H2S比は2021年7月から8月にかけて,急激に上昇し,その後は10月まで緩やか上昇したが,10月から11月にかけて低下し,再び2022年1月にかけて上昇した.噴気nのCO2/H2S比は10月から2022年1月にかけて緩やかに上昇した.噴気sのCO2/H2S比は10月から11月にかけて明瞭に上昇し2022年1月にかけて高い値が続いている.噴気cのSO2/H2S比は2021年7月から8月にかけて明瞭に上昇したがその傾向は継続しなかった.噴気cのSO2/H2S比は2022年1月まで比較的高い値が維持されている.
噴気nのHe/CH4比には2013年から現在までの期間で,周期的な増減が観測されている.He/CH4比は以下の4回の時期に極小が観測されている:2015年2月,2017年4月,2019年2月,2021年5月.それぞれの極小期を始点としたHe/CH4比の時間変化を求めた.極小期後のHe/CH4比の上昇速度は,以下の順で高かった:2021<2017<2019<2015年.気象庁の観測によると,2021,2017,2019,2015年の極小期後の半月当たりの地震回数の最高値は,それぞれ,19, 8,142,1303回であった.極小期後の活動期における地震回数は,He/CH4比の上昇速度と相関していると考えられる.He/CH4比の上昇速度は,活動期の初期段階で観測可能な指標であり,活動期における火山性地震の規模を推定する一つの手段として注目される.
【文献】
Ohba T, Yaguchi M, Nishino K, Numanami N, Daita Y, Sukigara C, Ito M, Tsunogai U (2019) Earth Planets Space, Doi: 10.1186/s40623-019-1027-5