15:45 〜 16:00
[SVC31-18] 福徳岡ノ場2021年噴火による軽石の漂着時期・漂着量・粒径分布
南硫黄島から約5 km北東に位置する福徳岡ノ場は,北福徳堆の南東に位置する北福徳カルデラ内の中央火口丘の一つである.福徳岡ノ場では過去100年に複数回噴火が発生したこと記録されている(海上保安庁海域火山DB).福徳岡ノ場2021年噴火(以後,2021年噴火)は8月13日6時頃に発生し,その後,連続的に噴煙を上げる噴火から間欠的な噴火に変化しながら,噴火発生から約58時間後の15日16時頃まで噴火が継続した(及川ほか,2021).この噴火のマグマ噴出量は0.11–0.26 km3(DRE),火山爆発指数(VEI)は4であったと算出されている(及川ほか,2021).2021年噴火の軽石の化学組成は,見た目の違いによらずトラカイト質で,過去の福徳岡ノ場噴火の噴出物と類似している(Yoshida et al., 2022).
海底火山や海岸近くの陸域火山が噴火し,大量に軽石が放出されると,それらの軽石は海域を長距離移動し,遠隔地に漂着することがある.日本周辺では,1924年西表島北北東海底火山噴火,1929年北海道駒ヶ岳噴火,1986年福徳岡ノ場噴火の際に,海域での軽石漂流が発生したことが記録されている(例えば,関,1927,1930;加藤,1988).漂着軽石は噴石などと異なり,直接命に関わるものではないが,ひとたび発生すると周辺の生態系や漁業,船舶の運航に長期的に影響を与える.漂着軽石による災害発生時に迅速かつ適切な対策・支援を行うためにも,漂着軽石の漂着時期や漂着量などの情報は重要である.本発表では,2021年噴火による軽石の漂着時期・漂着量・粒径分布について報告する.
本研究では,Twitterやニュースを参考に,個人や現地の行政機関,NPO法人などに直接連絡を取ることで,軽石の漂着時期,漂着箇所の聞き取りを行い,軽石と写真の提供を受けた.現地調査は,10月に喜界島,奄美大島,与論島,沖縄本島で,11月以降に関東周辺で現地調査を行った.現地では,その海岸で最大のものから20個程度の軽石と任意の区画を設定して軽石を採取した.採取した軽石は,粉砕後に超音波洗浄機を用いて洗浄し,63–120μmのガラス粒子を対象に屈折率測定と主成分化学組成分析(EPMA分析)を実施し,福徳岡ノ場の軽石であるか確認した.屈折率測定には,東京都立大学所有のRIMS2000(株式会社京都フィッション・トラック製)を使用した.EPMA分析には高知大学海洋コア総合研究センターの共同利用機器であるEPMA(日本電子株式会社製JXA-8200)を使用した.
2021年噴火の軽石は,8月13日に噴出した後,9月下旬から10月上旬にかけて南・北大東島や喜界島に漂着した.その後,奄美大島や沖縄本島など周辺の島に相次いで漂着した.11月中旬から12月上旬にかけて,先島諸島,台湾,フィリピンでも漂着が確認されている.関東周辺では,11月中旬頃から伊豆諸島に漂着しはじめ,東京湾内(船橋市三番瀬)や房総半島などにも漂着した.また,同時期に紀伊半島で,2022年1月上旬に薩摩半島や室戸半島にも漂着している.
軽石の海岸ごとの長径の平均は1.1–12.8 cm,1 m2あたりの漂着量は約2 g–約21 kg,ガラスビース法(佐々木・勝井,1981)による軽石の密度は0.3–0.8 g/cm3であった.軽石に含まれる火山ガラスの屈折率は,最も多く見出される灰色軽石でn = 1.508–1.511(モード:1.510)であったが,他の種類の軽石の中には高い屈折率を示すものもあった.各地域で採取した軽石の火山ガラスの主成分化学組成の平均値は,SiO2 = 63.5–66.1 wt.%,Na2O3 + K2O = 10.2–11.3 wt.%でトラカイトの組成を示し,海洋気象観測船「啓風丸」が8月22日に海洋上で採取し提供された,2021年噴火の軽石の値と同様であることを確認した.
海岸ごとの軽石の長径の平均と1 m2あたりの漂着量は,全体的な傾向として噴火からの時間経過に応じて小さくなる・減少する.これは,漂流中に破砕と摩耗が進むこと,海底に沈むこと,拡散すること,を示唆している.なお,軽石は海岸漂着物としてよく見られるものであるので,見た目だけでなく化学組成を加味して給源を推定することが肝要である.現在分析中であるため,発表までにデータを追加し,報告する予定である.
本研究は,気象庁海洋気象観測船「啓風丸」が採取した軽石をはじめ,多くの方に漂着情報や試料提供をいただいた.また,本研究は日本科学協会の笹川科学研究助成による助成を受け,一部は,高知大学海洋コア総合研究センターの共同利用(採択番号:20A033,20B030)による.
海底火山や海岸近くの陸域火山が噴火し,大量に軽石が放出されると,それらの軽石は海域を長距離移動し,遠隔地に漂着することがある.日本周辺では,1924年西表島北北東海底火山噴火,1929年北海道駒ヶ岳噴火,1986年福徳岡ノ場噴火の際に,海域での軽石漂流が発生したことが記録されている(例えば,関,1927,1930;加藤,1988).漂着軽石は噴石などと異なり,直接命に関わるものではないが,ひとたび発生すると周辺の生態系や漁業,船舶の運航に長期的に影響を与える.漂着軽石による災害発生時に迅速かつ適切な対策・支援を行うためにも,漂着軽石の漂着時期や漂着量などの情報は重要である.本発表では,2021年噴火による軽石の漂着時期・漂着量・粒径分布について報告する.
本研究では,Twitterやニュースを参考に,個人や現地の行政機関,NPO法人などに直接連絡を取ることで,軽石の漂着時期,漂着箇所の聞き取りを行い,軽石と写真の提供を受けた.現地調査は,10月に喜界島,奄美大島,与論島,沖縄本島で,11月以降に関東周辺で現地調査を行った.現地では,その海岸で最大のものから20個程度の軽石と任意の区画を設定して軽石を採取した.採取した軽石は,粉砕後に超音波洗浄機を用いて洗浄し,63–120μmのガラス粒子を対象に屈折率測定と主成分化学組成分析(EPMA分析)を実施し,福徳岡ノ場の軽石であるか確認した.屈折率測定には,東京都立大学所有のRIMS2000(株式会社京都フィッション・トラック製)を使用した.EPMA分析には高知大学海洋コア総合研究センターの共同利用機器であるEPMA(日本電子株式会社製JXA-8200)を使用した.
2021年噴火の軽石は,8月13日に噴出した後,9月下旬から10月上旬にかけて南・北大東島や喜界島に漂着した.その後,奄美大島や沖縄本島など周辺の島に相次いで漂着した.11月中旬から12月上旬にかけて,先島諸島,台湾,フィリピンでも漂着が確認されている.関東周辺では,11月中旬頃から伊豆諸島に漂着しはじめ,東京湾内(船橋市三番瀬)や房総半島などにも漂着した.また,同時期に紀伊半島で,2022年1月上旬に薩摩半島や室戸半島にも漂着している.
軽石の海岸ごとの長径の平均は1.1–12.8 cm,1 m2あたりの漂着量は約2 g–約21 kg,ガラスビース法(佐々木・勝井,1981)による軽石の密度は0.3–0.8 g/cm3であった.軽石に含まれる火山ガラスの屈折率は,最も多く見出される灰色軽石でn = 1.508–1.511(モード:1.510)であったが,他の種類の軽石の中には高い屈折率を示すものもあった.各地域で採取した軽石の火山ガラスの主成分化学組成の平均値は,SiO2 = 63.5–66.1 wt.%,Na2O3 + K2O = 10.2–11.3 wt.%でトラカイトの組成を示し,海洋気象観測船「啓風丸」が8月22日に海洋上で採取し提供された,2021年噴火の軽石の値と同様であることを確認した.
海岸ごとの軽石の長径の平均と1 m2あたりの漂着量は,全体的な傾向として噴火からの時間経過に応じて小さくなる・減少する.これは,漂流中に破砕と摩耗が進むこと,海底に沈むこと,拡散すること,を示唆している.なお,軽石は海岸漂着物としてよく見られるものであるので,見た目だけでなく化学組成を加味して給源を推定することが肝要である.現在分析中であるため,発表までにデータを追加し,報告する予定である.
本研究は,気象庁海洋気象観測船「啓風丸」が採取した軽石をはじめ,多くの方に漂着情報や試料提供をいただいた.また,本研究は日本科学協会の笹川科学研究助成による助成を受け,一部は,高知大学海洋コア総合研究センターの共同利用(採択番号:20A033,20B030)による.