日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC31] 活動的⽕⼭

2022年5月25日(水) 15:30 〜 17:00 国際会議室 (IC) (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:前田 裕太(名古屋大学)、コンビーナ:前野 深(東京大学地震研究所)、松島 健(九州大学大学院理学研究院附属地震火山観測研究センター)、座長:吉田 健太(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、前野 深(東京大学地震研究所)

16:30 〜 16:45

[SVC31-21] S-net海底地震計を用いた福徳岡ノ場及びフンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ火山の噴火に伴う水中音響信号の観測

*岩瀬 良一1 (1.国立研究開発法人海洋研究開発機構)

日本の周辺海域に顕著な被害をもたらした福徳岡ノ場,及びフンガ・トンガ-フンガ・ハアパイにおける海底火山の噴火により発生した水中音響信号は,海中の深海サウンドチャネル(Sound Fixing and Ranging,SOFARチャネル)を伝搬して遠方まで到達する可能性があり,実際,海外のハイドロフォンネットワークでの検出例が報告されている(Metz, 2021).
今回,150の観測点で構成される海底ケーブル型観測網「日本海溝海底地震津波観測網」(S-net)を構成する海底地震計を用いて,これらの海底火山噴火に伴う水中音響信号の検出を試みた.
S-netでは,各観測点に地震計として速度計及び加速度計が同一要領で各3成分任意の方向に取り付けられている.今回は速度計を使用し, Iwase (2016)と同様の方法により,加速度計で計測される重力の方向を基に鉛直成分を算出して解析に用いた.具体的には,福徳岡ノ場については,2021年8月13日6時(JST)の1時間の加速度計データを時間平均して重力成分を求め,これに平行な単位ベクトルと速度計3成分の生データの内積を取ることにより鉛直成分を求めた.一方,フンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ火山については,2022年1月15日15時(JST)の1時間の加速度計データを時間平均して重力成分を求めた.なおサンプリング周波数は100 Hzである.
オリジナルの波形データには地震に伴う信号や船舶ノイズ等のバックグラウンドノイズが多数含まれており,一見しただけでは噴火に関係した信号は識別が困難である.このうち船舶ノイズは観測点近傍に音源があり,広範囲にわたる各観測点間の相関はないと考えられる.また地震に伴う信号は,主にP波やS波等の地動により構成される.一方,海底火山噴火に関係した音響信号はSOFARチャネルを音速で伝搬して観測点に到達するが,その伝搬速度は前記の地動に比べて遅い.そこで,SOFARチャネルを伝搬した音響信号を地動と区別する手段として,各火山と各観測点間の水平距離を音速(1500 m/s)で割って伝搬時間を求め,各観測点における観測波形について,時間軸を各観測点に対応する伝搬時間分ずらしてスペクトログラム(ランニング・スペクトル)を描画し,観測点間の差異を比較した.これにより,噴火に伴う音響信号は,観測点に依らず描画したスペクトログラムの同一位置に表示されるはずである.なお水平距離は,国土地理院の距離と方位角の計算サイトを使用して求めた.
その結果,S-netの40余りの観測点について,各噴火に起因すると考えられる音響信号を検出した.福徳岡ノ場の検出例に関して,Fig. 1,Fig,2にS-netのS1N08及びS4N13観測点のスペクトログラムをそれぞれ示す.また,フンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ火山に関して,Fig. 3,Fig,4にS-netのS1N12及びS2N15観測点のスペクトルグラムをそれぞれ示す.横軸は各記載時刻からの経過時間(秒)である.白塗り三角が噴火に伴うと考えられるイベントを,中抜き三角が噴火とは関係のない地震の地動をそれぞれ示している.地震に伴うT波と識別し難い信号も一部存在するが,今後詳細に検討する.

謝辞
本研究の実施にあたり,防災科学技術研究所の公開データを利用しました.また水平距離の計算には国土地理院のサイトを利用しました.ここに記して謝意を表します.

References
D.Metz (2021): http://www.jamstec.go.jp/j/jamstec_news/fukutokuokanoba/column03/.
R. Iwase (2016): JJAP, 55, 07KG01.
国土地理院の距離と方位角の計算サイト: https://vldb.gsi.go.jp/sokuchi/surveycalc/surveycalc/bl2stf.html.