日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC31] 活動的⽕⼭

2022年6月2日(木) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (25) (Ch.25)

コンビーナ:前田 裕太(名古屋大学)、コンビーナ:前野 深(東京大学地震研究所)、松島 健(九州大学大学院理学研究院附属地震火山観測研究センター)

11:00 〜 13:00

[SVC31-P02] 地上観測と衛星観測による⼗勝岳の⼆酸化硫⻩放出率の推定

*山口 健介1田中 良2森田 雅明3、森 俊哉4 (1.北海道大学大学院理学院自然史科学専攻、2.北海道大学大学院理学研究院附属地震火山研究観測センター、3.産業技術総合研究所活断層・火山研究部門、4.東京大学大学院理学系研究科地殻化学実験施設)

キーワード:火山ガス、十勝岳、衛星観測

火山の地下に存在するマグマの情報を含んでいる火山ガス放出率を定量化することは、火山の活動メカニズムを理解する上で重要である。火山ガス放出率観測では、二酸化硫黄放出率の定量化が1970年代より行われてきた。近年では、地上観測のみならず、人工衛星による観測も行われている。人工衛星観測は、噴火噴煙などの規模の大きな噴煙では多数の観測事例がある。しかし、非噴火期の低い火山ガス放出率の場合は、観測事例が少なく地上観測との比較や検証が十分に行われていないなどの問題がある。
北海道中央部に位置する十勝岳は、最近では1988年にマグマ噴火を起こした活火山である。2005年頃からは、火口直下浅部の膨張を示唆する地盤変動や、蓄熱を示唆する全磁力変化、噴気域や地温異常域の拡大、最も噴気活動が盛んな62-2火口における、噴気高度の上昇や火口が明るく見える現象が観測されている。十勝岳での火山ガス放出率の定量化は、地下浅部の膨張量や蓄熱量と比較し、現在の十勝岳の非噴火期の活動メカニズムを明らかにするために重要である。先行研究において十勝岳は、2014-2015年には400-500 t/dayの高い二酸化硫黄放出率が得られており、日本では浅間山に次ぐ継続的噴煙活動を行う火山であるとされている。また、十勝岳からの噴気は二酸化硫黄に富んでおり、衛星観測による非噴火期の火山ガス放出率測定の検証の場として適している。
本研究では、十勝岳において、地上観測と衛星観測を比較することで、非噴火期の二酸化硫黄放出率に対する衛星観測の検証を行うことを目的とする。地上観測では、車両によるトラバース法を実施した。まず、十勝岳から放出されている噴気の下を、小型紫外分光計を搭載した車両で横断した。これにより噴気の鉛直断面の二酸化硫黄カラム濃度(vertical column density, VCD)を測定した。この和に風速を乗じることで、二酸化硫黄放出率を推定した。衛星観測のデータとして、人工衛星S5-P(Sentinel 5-Precursor)に搭載されたセンサーであるTROPOMI(Tropospheric Monitoring Instrument)が観測したデータを用いた。TROPOMIは2018年からデータを提供しており、1日1回VCDを高い空間分解能(直下視で3.5×7.0 km2)で観測する。風速から噴気の移動距離を推定し、1時間の時間窓でVCDを積算し、放出率を推定した。推定のための風速には、京都大学生存圏研究所にて提供されている、気象庁のGrid Point Valueの解析値を用いた。
その結果、地上観測では2021年6月から12月までの観測で、80-1250 t/day、衛星観測では2019年8月から2022年1月末までのデータ解析で、50-3635 t/day の二酸化硫黄放出率を推定した。衛星観測では、冬季に二酸化硫黄放出率が大きくなる傾向が現れた。地上観測との比較では、夏季には衛星観測と良い一致が見られるのに対し、冬季には地上観測に対して衛星観測が過大評価となった。この原因として、積雪による地表面の反射率の変化の影響により、TROPOMIで観測したVCDが過大に評価された可能性が考えられる。
本研究では、実施した地上観測が5回であり、衛星観測と比較するには実施回数が少ない。今後、冬季の地上観測回数を増やすとともに、ドローンを用いたトラバースを実施し、地上観測の回数を増やすことが必要である。 また、衛星観測データの解析の際には、風向を考慮しておらず、推定の誤差要因となっている可能性がある。これを改善するために、衛星データの解析手法を高度化する必要がある。