日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC31] 活動的⽕⼭

2022年6月2日(木) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (25) (Ch.25)

コンビーナ:前田 裕太(名古屋大学)、コンビーナ:前野 深(東京大学地震研究所)、松島 健(九州大学大学院理学研究院附属地震火山観測研究センター)

11:00 〜 13:00

[SVC31-P08] PALSAR-2とSentinel-1データによる吾妻山における間欠的膨張の検出と変動源推定

*姫松 裕志1小澤 拓1 (1.国立研究開発法人 防災科学技術研究所)

キーワード:衛星SAR、吾妻山、地殻変動、熱水系

吾妻山は福島県と山形県の県境に位置する活動的火山のひとつであり,数年間隔で火山活動が高まることが知られている.最近では2014-2015年と2018-2019年に火山性地震の発生数や火山ガスの放出量の増加を伴う火山活動の活発化が報告され,吾妻山の膨張を示唆するGNSS基線長の伸長が観測された.本研究では衛星SARデータにSAR時系列解析を適用することにより,2014-2020年における吾妻山を対象とした地殻変動の時空間変化を明らかにし,観測された地殻変動を駆動した圧力源の幾何推定の結果を報告する.本研究で使用した衛星SARデータは2014-2020年に撮像されたALOS-2/PALSAR-2データ (L-band) と,2017-2020年に撮像されたSentinel-1データ (C-band) を使用した.これらのSARデータに対してSAR時系列解析のひとつであるMulti-temporal InSAR (MTI) 法を適用し,衛星視線距離の時系列変化を推定した.PALSAR-2データは干渉性が保たれる限りは可能な限り長い時間基線長の干渉ペアを採用した.Sentinel-1データは24日の時間基線長の閾値を設定した.C-bandのマイクロ波で撮像するSentinel-1データは積雪などの地表における散乱特性の変化に伴う干渉性劣化が顕著であり,積雪期をはさんで衛星視線距離変化の時系列を推定することが困難である.したがってSentinel-1データを用いた衛星視線距離変化の時系列推定は非積雪期に限定される.
PALSAR-2データにMTI法を適用した結果は,大穴火口を中心に火山活動が高まった2014-2015年と2018-2019年に隆起を示唆する衛星視線距離の短縮が検出された.2014-2015年には東吾妻山から中吾妻山にかかるおよそ東西8km南北5 kmの範囲で衛星視線距離の短縮が検出された一方,2018-2019年には認められなかった.Path 125 (上昇軌道右向き観測) の衛星視線距離変化の時間推移は,2014-2015年の活動時に検出された衛星視線距離の短縮が2017年中頃におおむね元の水準にまで戻った.2014年を基準とした累積変化に注目すると,2019年に大穴火口で検出された衛星視線距離短縮の最大の位置は2015年と比較して300m程度北西方向にずれていることが認められる.Sentinel-1データにMTI法を適用した結果は,植生に覆われていない地熱地帯における非積雪期の衛星視線距離変化の時空間変化を明らかにした.変位の検出範囲は限定的であるものの,観測頻度が少ないPALSAR-2の衛星視線距離変化の時系列を補完した.
観測された吾妻山における地殻変動の駆動メカニズムを推定するために,等方点膨張源・回転楕円体の圧力変化と矩形開口に伴う地表変位の解析解を用いて最適な圧力源の幾何を推定した.圧力源の幾何の推定にはマルコフ連鎖モンテカルロ法に基づいたパラメータ推定を試みた.大穴火口直下における膨張の駆動源は,いずれも南東へ傾斜した楕円体の圧力増加に伴う地表変化でもっともよく再現し,おおむね地表から200-400 mの深さに求まった.2014-2015年に中吾妻山から東吾妻山にかけて検出された地殻変動は,地表から1500-2500 mの深さにほぼ水平に分布する駆動源の幾何が求まった.今回の解析で推定された圧力源について,2011年東北地方太平洋沖地震に伴う吾妻山の沈降の空間分布から推定された低粘性領域の幾何との比較を通して吾妻山における圧力源構造について議論する.