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[SVC31-P15] 阿蘇2021年マグマ噴火前の地下比抵抗分布の推移
キーワード:阿蘇火山、水蒸気噴火、比抵抗構造、時間変化、ACTIVE観測
1.背景
火山の地下熱水系についての知見を得ることは、水蒸気爆発のメカニズムを理解する上で重要である。阿蘇火山では、2014年11月にマグマ噴火が発生し、ストロンボリ式噴火が2015年5月頃まで継続した。その後、2015年9月、2016年10月にマグマ水蒸気噴火が起きている。2019年4月には灰噴出を伴うマグマ性噴火が開始し、2020年6月まで断続的に活動が継続した。この噴火活動は一度静穏となったが、2021年10月に2度の水蒸気噴火が発生した。この水蒸気噴火の発生については火口直下の熱水系が大きく寄与していると考えられる。特に2021年には10月の水蒸気噴火に先立って火口底に陥没孔が形成され、その孔内が熱水で満たされごく小規模な噴騰が継続的に発生する、といった現象が観察されており、噴火前に火口底直下のごく浅部において熱水系の分布が変化した事が示唆される。京都大学では、地下熱水系を含めた阿蘇火山地下構造の監視のため、中岳火口周辺において能動的電磁探査手法であるACTIVE観測(Utada et al.,2007)を実施してきた。本研究では、2021年5月から10月噴火の直前期にかけての地下熱水系の状態変化の推定を目的とし、中岳火口地下の比抵抗変化を推定した。
2.使用データ
本研究では、2021年水蒸気噴火(2021年10月14日、20日)の前の期間である2021年5月、2021年8月、2021年9月に実施されたACTIVE繰り返し観測の観測結果を用いて中岳火口地下の比抵抗構造を推定した。ACTIVE観測では観測対象域内に電流送信点を設置し、ここから矩形状の人工電流を大地に送信する。そしてこれによる誘導磁場を受信点で観測して地下比抵抗の情報を得る。本研究では中岳第一火口の南東に位置する砂千里ヶ浜に電流の送信点を設置し、第一火口周辺に受信点を設置した。これまでの観測ではアクセスのし易さから火口西側のみに4点の受信点を設置し観測を行っていたが(図1)、インバージョンから得られる地下比抵抗モデルの解像度や信頼度を向上させるため東側に新たに2点の受信点を増設した(図2)。
この観測結果から得られたデータを検討した結果、2021年10月の噴火前に、送信電流に対する大地の応答が時間変化していたことが分かった。図3に第一火口南側の観測点A03(図2)で得られた観測データを示す。この図は、誘導磁場と送信電流の周波数領域での振幅を表しており、この値が地下浅部(高周波)から深部(低周波)にかけての比抵抗分布の情報を持つ。図3の結果から2021年5月から9月にかけてこの振幅が有意に時間変化していることが見て取れ、このことから地下比抵抗が2021年水蒸気噴火前に継時変化したことが示唆される。
3.解析方法
本研究では、(Minami et al.2018)のインバージョンコードを用いて上記3回の観測から得られたデータを使用し、各々の観測を行った時期における3次元地下比抵抗構造を推定した。このインバージョンによる比抵抗構造解析では、地形を考慮しつつ地下空間を微細な四面体メッシュで分割した。この際、砂千里の電流送信点及び新たに東側に増設した2点を含めた6点の受信点周辺でより細かくメッシュ分割を行った。ただし、実際の解析ではデータ数と未知変数の数のバランスを取るため地下領域を同一の比抵抗値を持つブロックに分割した。即ち地下空間を上記の四面体メッシュの分割より粗いブロックに分割し、各々のブロック内に重心が含まれる四面体メッシュは同一の比抵抗値を持つと仮定した。さらに、火口より約2km以上離れた外側の領域は一定比抵抗値をもつ統合されたブロックとし、実質的な未知変数の数を更に減らした。インバージョン計算では、残差項とモデルの荒さを表すラフネス項の和を目的関数とし、これを逐次計算で最小化した。その逐次計算における比抵抗構造の初期値としてAMTデータを用いた3次元インバージョンによる比抵抗モデル(Kanda et al.,2018)を用いた。また、上述した火口から2km以上離れた外側領域のブロックの比抵抗値も可変とし、その最適値も逐次計算で求めた。
本発表では、上記の2021年水蒸気噴火前に行われた3回の観測から得られたデータを示すとともに、各観測時期における地下構造のスナップショットを示す。また、この期間における地下比抵抗の時間変化から、2021年水蒸気噴火の発生場の状態変化について議論する予定である。
火山の地下熱水系についての知見を得ることは、水蒸気爆発のメカニズムを理解する上で重要である。阿蘇火山では、2014年11月にマグマ噴火が発生し、ストロンボリ式噴火が2015年5月頃まで継続した。その後、2015年9月、2016年10月にマグマ水蒸気噴火が起きている。2019年4月には灰噴出を伴うマグマ性噴火が開始し、2020年6月まで断続的に活動が継続した。この噴火活動は一度静穏となったが、2021年10月に2度の水蒸気噴火が発生した。この水蒸気噴火の発生については火口直下の熱水系が大きく寄与していると考えられる。特に2021年には10月の水蒸気噴火に先立って火口底に陥没孔が形成され、その孔内が熱水で満たされごく小規模な噴騰が継続的に発生する、といった現象が観察されており、噴火前に火口底直下のごく浅部において熱水系の分布が変化した事が示唆される。京都大学では、地下熱水系を含めた阿蘇火山地下構造の監視のため、中岳火口周辺において能動的電磁探査手法であるACTIVE観測(Utada et al.,2007)を実施してきた。本研究では、2021年5月から10月噴火の直前期にかけての地下熱水系の状態変化の推定を目的とし、中岳火口地下の比抵抗変化を推定した。
2.使用データ
本研究では、2021年水蒸気噴火(2021年10月14日、20日)の前の期間である2021年5月、2021年8月、2021年9月に実施されたACTIVE繰り返し観測の観測結果を用いて中岳火口地下の比抵抗構造を推定した。ACTIVE観測では観測対象域内に電流送信点を設置し、ここから矩形状の人工電流を大地に送信する。そしてこれによる誘導磁場を受信点で観測して地下比抵抗の情報を得る。本研究では中岳第一火口の南東に位置する砂千里ヶ浜に電流の送信点を設置し、第一火口周辺に受信点を設置した。これまでの観測ではアクセスのし易さから火口西側のみに4点の受信点を設置し観測を行っていたが(図1)、インバージョンから得られる地下比抵抗モデルの解像度や信頼度を向上させるため東側に新たに2点の受信点を増設した(図2)。
この観測結果から得られたデータを検討した結果、2021年10月の噴火前に、送信電流に対する大地の応答が時間変化していたことが分かった。図3に第一火口南側の観測点A03(図2)で得られた観測データを示す。この図は、誘導磁場と送信電流の周波数領域での振幅を表しており、この値が地下浅部(高周波)から深部(低周波)にかけての比抵抗分布の情報を持つ。図3の結果から2021年5月から9月にかけてこの振幅が有意に時間変化していることが見て取れ、このことから地下比抵抗が2021年水蒸気噴火前に継時変化したことが示唆される。
3.解析方法
本研究では、(Minami et al.2018)のインバージョンコードを用いて上記3回の観測から得られたデータを使用し、各々の観測を行った時期における3次元地下比抵抗構造を推定した。このインバージョンによる比抵抗構造解析では、地形を考慮しつつ地下空間を微細な四面体メッシュで分割した。この際、砂千里の電流送信点及び新たに東側に増設した2点を含めた6点の受信点周辺でより細かくメッシュ分割を行った。ただし、実際の解析ではデータ数と未知変数の数のバランスを取るため地下領域を同一の比抵抗値を持つブロックに分割した。即ち地下空間を上記の四面体メッシュの分割より粗いブロックに分割し、各々のブロック内に重心が含まれる四面体メッシュは同一の比抵抗値を持つと仮定した。さらに、火口より約2km以上離れた外側の領域は一定比抵抗値をもつ統合されたブロックとし、実質的な未知変数の数を更に減らした。インバージョン計算では、残差項とモデルの荒さを表すラフネス項の和を目的関数とし、これを逐次計算で最小化した。その逐次計算における比抵抗構造の初期値としてAMTデータを用いた3次元インバージョンによる比抵抗モデル(Kanda et al.,2018)を用いた。また、上述した火口から2km以上離れた外側領域のブロックの比抵抗値も可変とし、その最適値も逐次計算で求めた。
本発表では、上記の2021年水蒸気噴火前に行われた3回の観測から得られたデータを示すとともに、各観測時期における地下構造のスナップショットを示す。また、この期間における地下比抵抗の時間変化から、2021年水蒸気噴火の発生場の状態変化について議論する予定である。