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[SVC32-P02] 伊豆大島1986年B噴火の石英を含む深成岩捕獲岩:マッシュ状マグマ溜まりプロセスへの示唆
キーワード:伊豆大島火山、クリスタルマッシュ、マグマ溜まり、深成岩捕獲岩、石英
本研究では,伊豆大島1986年B噴火噴出物に含まれる,粒間ガラスをもつ深成岩捕獲岩について岩石学的記載・組織観察及び構成鉱物・ガラスの化学分析を行い,伊豆大島火山の浅部マグマ溜まりプロセスを検討した.本研究で調べた全ての捕獲岩試料には斜長石・単斜輝石・斜方輝石・粒間ガラスが含まれており,Fe-Ti酸化物,かんらん石を含む試料もあった.モード組成から深成岩の分類を行うと,本研究試料は7割がガブロ〜ガブロノーライトに分類され,3割はアノーソサイトに分類される.このうち,ひとつの試料には粗粒な石英が~16vol.%含まれていた.伊豆大島の噴出物中に石英が含まれることは極めて稀であるが,1986年B噴火(OSNXe-3B)で少量噴出したデイサイト中に記載がある.そこで,この試料についてEPMAとFE-EPMAによる分析を行った.
本試料(OSNXe-3B)には,輝石・Fe-Ti酸化物と斜長石から主に構成される斑レイ岩質の領域(領域Mとする)の中に,石英・斜長石と粒間ガラスから構成されるトーナライト質の領域(領域Sとする)がパッチ状に分布しているのが確認できた.領域Mでは斑レイ岩質マッシュの粒間は,石英とガラスによって埋められていた.粒間ガラスはデイサイト~流紋岩質で,領域MとSの間で大きな組成差は見られなかった.ガラスの組成バリエーションは,大まかには1986Bマグマの組成範囲の延長線上にあり,また1986年B噴火のデイサイトがガラスの組成範囲に含まれることから,このマグマとの成因的な関係が示唆される.斜長石のAn# [=100Ca/(Ca+Na)]は,領域Mでは~60-82,領域Sでは~27-47の範囲を示し,領域MとSの境界ではAn#が急激に変化した.領域Mの斜長石のAn#は,伊豆大島1986年B噴火噴出物中の斜長石斑晶と近い値を示す一方,領域Sの斜長石は伊豆弧の他の火山にみられる流紋岩質メルトと共存できる斜長石よりも低いAn#を示した.輝石には細かい離溶組織が発達し,粒間ガラスとの間に単斜輝石,斜長石,メルトからなるシンプレクタイトを形成していた.Fe-Ti酸化物にも離溶組織が発達していたが,磁鉄鉱に1粒内での組成不均一が見られ,クラック周辺でTi含有量が増加していた.
輝石・Fe-Ti酸化物にみられる離溶組織と斜長石組成は,領域Mの鉱物が苦鉄質メルトから晶出・沈積した後に比較的緩慢な冷却を経験したことを示唆する(ステージ1と呼ぶ).斜長石組成の空間分布や輝石‐粒間ガラス間での反応組織から,その後にトーナライト質メルトが粒間に流入し,冷却され石英とAb-richな斜長石が晶出したと考えられる(ステージ2と呼ぶ).そして,磁鉄鉱にみられるTiの不均質は,マグマに捕獲されたあとの過熱によるものである(ステージ3と呼ぶ).この加熱に伴う構成鉱物の溶融は,粒間メルトの化学組成不均一の原因となった可能性がある.以上の3ステージで,この深成岩捕獲岩は形成された.ステージ2でのトーナライト質メルトの流入は,クリスタルマッシュの底部やその下部に形成した低密度のトーナライト質メルトが,浮力を駆動力とする浸透流によって,上部のクリスタルマッシュ中を上昇したものと考えられる.このクリスタルマッシュの底部からの分化したメルトの移動は,マッシュ内部のメルトだまりの冷却・分化を引き起こす素過程のひとつと考えられる.
本試料(OSNXe-3B)には,輝石・Fe-Ti酸化物と斜長石から主に構成される斑レイ岩質の領域(領域Mとする)の中に,石英・斜長石と粒間ガラスから構成されるトーナライト質の領域(領域Sとする)がパッチ状に分布しているのが確認できた.領域Mでは斑レイ岩質マッシュの粒間は,石英とガラスによって埋められていた.粒間ガラスはデイサイト~流紋岩質で,領域MとSの間で大きな組成差は見られなかった.ガラスの組成バリエーションは,大まかには1986Bマグマの組成範囲の延長線上にあり,また1986年B噴火のデイサイトがガラスの組成範囲に含まれることから,このマグマとの成因的な関係が示唆される.斜長石のAn# [=100Ca/(Ca+Na)]は,領域Mでは~60-82,領域Sでは~27-47の範囲を示し,領域MとSの境界ではAn#が急激に変化した.領域Mの斜長石のAn#は,伊豆大島1986年B噴火噴出物中の斜長石斑晶と近い値を示す一方,領域Sの斜長石は伊豆弧の他の火山にみられる流紋岩質メルトと共存できる斜長石よりも低いAn#を示した.輝石には細かい離溶組織が発達し,粒間ガラスとの間に単斜輝石,斜長石,メルトからなるシンプレクタイトを形成していた.Fe-Ti酸化物にも離溶組織が発達していたが,磁鉄鉱に1粒内での組成不均一が見られ,クラック周辺でTi含有量が増加していた.
輝石・Fe-Ti酸化物にみられる離溶組織と斜長石組成は,領域Mの鉱物が苦鉄質メルトから晶出・沈積した後に比較的緩慢な冷却を経験したことを示唆する(ステージ1と呼ぶ).斜長石組成の空間分布や輝石‐粒間ガラス間での反応組織から,その後にトーナライト質メルトが粒間に流入し,冷却され石英とAb-richな斜長石が晶出したと考えられる(ステージ2と呼ぶ).そして,磁鉄鉱にみられるTiの不均質は,マグマに捕獲されたあとの過熱によるものである(ステージ3と呼ぶ).この加熱に伴う構成鉱物の溶融は,粒間メルトの化学組成不均一の原因となった可能性がある.以上の3ステージで,この深成岩捕獲岩は形成された.ステージ2でのトーナライト質メルトの流入は,クリスタルマッシュの底部やその下部に形成した低密度のトーナライト質メルトが,浮力を駆動力とする浸透流によって,上部のクリスタルマッシュ中を上昇したものと考えられる.このクリスタルマッシュの底部からの分化したメルトの移動は,マッシュ内部のメルトだまりの冷却・分化を引き起こす素過程のひとつと考えられる.