11:00 〜 13:00
[SVC32-P09] 桜島大正噴火における火道流のダイナミクスーマグマ物性と火道形状の影響ー
キーワード:火道流、桜島、結晶化実験
1914年の桜島大正噴火では、安山岩質マグマによるプリニー式噴火と溶岩流出噴火という2種類の噴火が生じた。この多様な噴火様式の発生要因を調べるうえで、火道流のダイナミクスを理解することが重要となる。一方、結晶化過程や粘性などの安山岩質マグマの物性が火道流に与える影響は十分に調べられていない。また、桜島ではダイク状の火道内におけるマグマ上昇が示唆されており、その効果も調べる必要がある。そこで本研究では、桜島のマグマ物性と火道形状の特徴を制約として与えた数値モデルにより、桜島大正噴火の火道流ダイナミクスを調べることを目的とした。
本研究では、桜島大正噴火における火道流を、1次元定常火道流としてモデル化した。桜島大正噴火に特化したマグマ物性として、(1)結晶化実験に基づいた平衡結晶度の圧力依存性及び結晶成長率と(2)マグマの化学組成に依存する液相粘性を考慮した。また、楕円形の火道断面を設定することでダイク状の火道を疑似的に考慮し、円筒火道とダイク状火道の比較が可能となった。そのうえで、火道内における物理過程を区別し、プリニー式噴火のモデル化では、気相の体積分率が臨界値を超えることによるマグマ破砕条件、溶岩流出噴火のモデル化では、鉛直方向・横方向へのガス分離による発泡度抑制の効果をそれぞれ考慮した。
以上のモデルに基づき、本研究では、火道流の巨視的なダイナミクスを記述するうえで重要な、定常火道流におけるマグマ溜まり圧力と噴出率の関係(pch-Q)を調べた。この関係に正の相関がある領域は、火道流が安定になる領域に相当し、プリニー式噴火や溶岩流出噴火などの各噴火フェーズに対応すると考えられる。プリニー式噴火を対象とした解析では、ダイク形状の火道流を考慮することで、実際の噴出率の推定値範囲でpch-Qの関係における安定領域が存在し得ることがわかった。溶岩流出噴火を対象とした解析では、pch-Qの関係の低噴出率側における安定領域を得るには、円筒火道とダイク状火道のどちらの場合でも、結晶化過程に関する定式化やパラメータが重要であることがわかった。具体的には、平衡結晶作用を表現する式として、今回新たに導入した結晶化実験に基づくものを適用した場合、低噴出率側の安定領域における噴出率の最大値Qmaxが、先行研究でのより珪長質なメルトに関する定式化を適用した場合と比較して小さくなることを示した。また、桜島の岩石学的データに基づいて初期結晶度(マグマ溜まりにおける結晶度)を25 vol.%としたとき、低噴出率の範囲における安定領域を得るには、マグマ粘性が急増する臨界結晶度を規定するパラメータを60 vol.%程度以下に設定する必要があることがわかった。以上の特徴は、安山岩質マグマが珪長質マグマより低粘性であるために、火道壁―液相間の粘性抵抗やマグマ過剰圧が小さくなり、それによってガス分離が抑制される効果を反映していると考えられる。一方で、求められたQmaxは、桜島大正噴火における溶岩流出噴火の実際の噴出率よりも小さいという問題点があり、今後、深さに依存して変化する火道形状などの付加的な効果を考慮する必要がある。
本研究では、桜島大正噴火における火道流を、1次元定常火道流としてモデル化した。桜島大正噴火に特化したマグマ物性として、(1)結晶化実験に基づいた平衡結晶度の圧力依存性及び結晶成長率と(2)マグマの化学組成に依存する液相粘性を考慮した。また、楕円形の火道断面を設定することでダイク状の火道を疑似的に考慮し、円筒火道とダイク状火道の比較が可能となった。そのうえで、火道内における物理過程を区別し、プリニー式噴火のモデル化では、気相の体積分率が臨界値を超えることによるマグマ破砕条件、溶岩流出噴火のモデル化では、鉛直方向・横方向へのガス分離による発泡度抑制の効果をそれぞれ考慮した。
以上のモデルに基づき、本研究では、火道流の巨視的なダイナミクスを記述するうえで重要な、定常火道流におけるマグマ溜まり圧力と噴出率の関係(pch-Q)を調べた。この関係に正の相関がある領域は、火道流が安定になる領域に相当し、プリニー式噴火や溶岩流出噴火などの各噴火フェーズに対応すると考えられる。プリニー式噴火を対象とした解析では、ダイク形状の火道流を考慮することで、実際の噴出率の推定値範囲でpch-Qの関係における安定領域が存在し得ることがわかった。溶岩流出噴火を対象とした解析では、pch-Qの関係の低噴出率側における安定領域を得るには、円筒火道とダイク状火道のどちらの場合でも、結晶化過程に関する定式化やパラメータが重要であることがわかった。具体的には、平衡結晶作用を表現する式として、今回新たに導入した結晶化実験に基づくものを適用した場合、低噴出率側の安定領域における噴出率の最大値Qmaxが、先行研究でのより珪長質なメルトに関する定式化を適用した場合と比較して小さくなることを示した。また、桜島の岩石学的データに基づいて初期結晶度(マグマ溜まりにおける結晶度)を25 vol.%としたとき、低噴出率の範囲における安定領域を得るには、マグマ粘性が急増する臨界結晶度を規定するパラメータを60 vol.%程度以下に設定する必要があることがわかった。以上の特徴は、安山岩質マグマが珪長質マグマより低粘性であるために、火道壁―液相間の粘性抵抗やマグマ過剰圧が小さくなり、それによってガス分離が抑制される効果を反映していると考えられる。一方で、求められたQmaxは、桜島大正噴火における溶岩流出噴火の実際の噴出率よりも小さいという問題点があり、今後、深さに依存して変化する火道形状などの付加的な効果を考慮する必要がある。