日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC34] 火山の監視と活動評価

2022年5月27日(金) 13:45 〜 15:15 203 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:高木 朗充(気象庁気象研究所)、コンビーナ:宗包 浩志(国土地理院)、大湊 隆雄(東京大学地震研究所)、座長:高木 朗充(気象庁気象研究所)、萬年 一剛(神奈川県温泉地学研究所)

14:00 〜 14:20

[SVC34-08] 箱根火山の活動監視と評価

★招待講演

*萬年 一剛1安部 祐希1、代田 寧2道家 涼介1藤松 淳1原田 昌武1本多 亮1行竹 洋平3 (1.神奈川県温泉地学研究所、2.神奈川県環境科学センター、3.東京大学地震研究所)

キーワード:箱根火山、活発化、熱水系

箱根火山は21世紀に入ってから、火山活動の顕著な活発化(以下、unrest)が数年に1度の頻度で発生している。こうしたunrestは、山体をまたぐ基線長や深部低周波地震の増加に始まり、火山構造性地震の活発化や噴気中のガス比の変化が続く。また、噴気地帯で掘削されている蒸気井からの激しい蒸気噴出(暴噴)を伴う場合もある。こうした経験を踏まえ、2009年から、気象庁は箱根火山で地震活動、地殻変動、噴気異常の3つが基準を超えた場合、噴火警戒レベル2が発表することとした。2015年の噴火は、噴火警戒レベル2が発表されている中で発生し、噴火警戒レベルがある程度機能することを示した。このように、箱根火山ではunrestに明瞭なパターンが認められ、それに基づく火山活動評価が定着しているようにも見える。しかし、これまでの知見を検討すると、課題が多い事は明らかである。本講演では、これまでのunrestや噴火の解析から得られた、箱根火山のマグマ熱水系プロセスを概観するとともに、今後の課題を整理する。

 これまでの知見を整理すると、箱根火山におけるunrestは、深部からのマグマ性流体の上昇と、脆性・塑性境界直下での蓄積、これに刺激された熱水系内での間隙水圧上昇で説明が出来る。噴気中のガス比は、unrest中にマグマ性ガスとされるSO2, HCl, Heの増加が観測されるが、SO2の放出総量は顕著な増加が認められないなど、浅部へのマグマ貫入がおきている可能性は高くない。また、噴火後のunrestでは噴気温度が変化せず、地下の気液共存系の気相温度に規制されているように見える。このことや、火山ガスの変化が地殻変動開始とほぼ同時に見られるなど化学種の移動が高速であることから、箱根火山の熱水系浅部は、気相卓越系である可能性が指摘できる。箱根火山の2015年噴火が小規模なものに終わったのは、気相卓越系の存在により、爆発が深部に伝搬しなかったためかも知れない。

 箱根火山の活動は以上のモデリングでおおよそ説明可能だが、地質学的には全く異なるモードの噴火がある。箱根火山の2015年噴火は大涌谷で局所的に開口した火口による、ごく小規模なものであったが、箱根火山では過去の水蒸気噴火によるものと見られる、最大で全長1 km以上におよぶ割れ目火口列が認識されている。その一部は2015年の噴火当日に地下で形成されたクラックの直上に分布することは注目に値する。長大な複数の割れ目火口列からの水蒸気噴火は草津白根火山(本白根山)2018年噴火でも観察されているが、これは脆性・塑性境界直下の流体が、浅部に急速に供給されたことが引き金とされている (Tseng et al., 2020; Terada et al., 2021)。このような急速な火山活動の進展は、箱根火山では想定されていない。また、想定火口域は大涌谷のみに設定されており、ほかの噴気地帯や過去の噴火による火口列については検討されてこなかった。

 大涌谷以外での噴火可能性については、InSARや電磁探査による潜在的な熱水だまりの検出や、熱水系シミュレーションによる相分布の解析により評価を進めていく必要がある。一方、噴火による災害実績がないため、対応を求める積極的な理由が現時点では乏しい。したがって、過去の噴火事例を踏まえた評価基準の作成や、噴石シミュレーションなどを踏まえた災害可能性の確率論的評価についても検討を進めていく必要があるだろう。