日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC34] 火山の監視と活動評価

2022年5月29日(日) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (17) (Ch.17)

コンビーナ:高木 朗充(気象庁気象研究所)、コンビーナ:宗包 浩志(国土地理院)、大湊 隆雄(東京大学地震研究所、SVC34_29PO1)

11:00 〜 13:00

[SVC34-P07] 雲仙溶岩ドームの変形速度場とその物理メカニズムについて:InSAR時系列解析の適用

泉谷 拓郎1、*高田 陽一郎2 (1.北海道大学大学院理学院、2.北海道大学大学院理学研究院)

キーワード:InSAR、雲仙、溶岩ドーム、有限要素法解析

雲仙は長崎県の島原半島中央部に位置する活火山である。1990年11月に始まった噴火に続いて1991年5月に最初の溶岩ドームが形成され、その成長は1995年2月まで続いた。溶岩ドームは頂上部と東斜面に形成された溶岩ローブからなる。この溶岩ドームについては崩落の危険性が指摘されている。現在の溶岩ドームの変形はGB-SAR、光波測距、GNSSなどによりモニターされているが、GB-SARや光波測距による観測は溶岩ローブの斜面下部の運動のみを計測し、GNSSによる観測は溶岩ドーム頂上部の運動のみを計測している。すなわち、こうした地上設置型の観測手法では現在の変形過程の全体像を面的に捉えることができない。そこで本研究では、ALOS-2データを用いたInSAR時系列解析により、溶岩ドーム全体の近年の変形速度場およびその時空間的な変遷を高い空間解像度で検出し、さらに踏み込んで溶岩ドームの現在の運動を説明する物理モデルを提示する。
  はじめに、ALOS-2が上昇軌道および下降軌道から右方向にレーダーを照射して撮像したSARデータを用いてInSAR画像を多数作成した。次に、対流圏や電離層の擾乱の影響を軽減するためにSBAS (Small Baseline Subset) 法を用いた時系列解析を上昇・下降双方の軌道から撮像したInSAR画像に適用した。両軌道で推定された衛星視線方向(LOS)の速度場は共通して衛星から遠ざかる地表の動きを示しており、また時間的にほぼ一定であった。また得られた変位時系列はドーム部のGNSSデータと整合的であった。
次に、得られた速度場を準上下・準東西成分に分解した。その結果は、溶岩ドームが全体的に東進しつつ沈降していることを示し、溶岩ドームの頂上部とその東側にある溶岩ローブの二つの地点で速度のピークを持つことがわかった。頂上部では沈降成分と東向き成分はそれぞれ10cm/yrおよび4cm/yr、溶岩ローブ部では沈降成分と東向き成分はそれぞれ8cm/yrおよび6cm/yrであった。すなわち、これら2か所のピークにおける運動は方向・大きさともに互いに異なることを明らかにした。
 最後に、有限要素法に基づく数値シミュレーションを用いて本研究で検出した溶岩ドームの運動を説明する物理モデルの構築を試みた。現実的な山体形状を考慮した上で媒質をMaxwell粘弾性体としてモデル化し、さらに噴火前の山体形状に伴うレオロジーの不均質性も考慮した。時刻0で媒質全体に重力を載貨して10,000日目(約27年後)、すなわち現在の速度場を計算した。計算結果は山頂部とローブ部の2か所において東西・鉛直それぞれの速度成分におけるピークを再現した。溶岩ドームの頂上部とローブ部の運動方向の違いは、溶岩ドーム内部の構造的な不均質に起因すると考えられる。また熱伝導方程式と運動方程式を連立させた計算も行い、熱応力の現在の沈降速度への影響は30%程度であるという暫定的な計算結果を得た。ただし、この結果は溶岩ドーム形成直後の深さ方向の温度分布に依存することも明らかになった。いずれにしろ、溶岩ドーム全体の東下方への運動は重力により駆動されているものであり、熱応力によるものではない。