日本地球惑星科学連合2022年大会

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[U-02] 地球規模環境変化の予測と検出

2022年5月30日(月) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (1) (Ch.01)

コンビーナ:河宮 未知生(海洋研究開発機構)、コンビーナ:立入 郁(海洋研究開発機構)、建部 洋晶(海洋研究開発機構)、コンビーナ:Ramaswamy V(NOAA GFDL)、座長:河宮 未知生(海洋研究開発機構)

11:00 〜 13:00

[U02-P01] 気候フィードバックにおける強制・非強制パターン効果

*嵯峨 知樹1渡部 雅浩1建部 洋晶2塩竈 秀夫3 (1.東京大学大気海洋研究所、2.国立研究開発法人海洋研究開発機構、3.国立研究開発法人国立環境研究所)

キーワード:気候フィードバック、平衡気候感度、放射強制力、パターン効果、海洋熱吸収、内部変動

大気中のCO2濃度上昇による放射強制力が気候システムに加えられると、その一部が海洋に吸収され、残りのエネルギーが温度上昇を通して宇宙空間に捨てられる。これが温暖化の最もシンプルなメカニズムである。大気の鉛直温度変化を均一と仮定して地表温度のみで決まるエネルギーの射出をプランク応答と呼ぶが、実際には、地表気温上昇に伴って、水蒸気・温度減率・雲・地表アルベドなどが変化することで、1Kの気温上昇あたりどれだけのエネルギーが射出されるかという気候フィードバックパラメータ(λ)が決まる。大気中のCO2濃度を倍にして十分時間が経過し、システムが平衡に達した時の全球地表気温の変化量は平衡気候感度(ECS)と呼ばれ、温暖化の基本的な指標として用いられている。ECSは放射強制力とλの比で定義されるため、気候フィードバックの理解は温暖化のメカニズムにおいて本質的に重要である。従来、λは一定であると仮定されてきたが、実際には地表気温変化パターンに依存して変化することが、最近の研究から明らかになってきた。このプロセスをパターン効果と呼ぶが、過去から将来の温暖化応答において、パターン効果がどのように生じているのかはよくわかっていない。本研究では、単一の気候モデルによる大規模アンサンブルシミュレーションを用いて、放射強制に対する応答が変化する強制パターン効果(forced pattern effect)と、気候システムの内部変動により生じる非強制パターン効果(unforced pattern effect)を分けることを目的とする。さらに、両者の相対的重要性を過去から今世紀末までの気候変化について調べることで、将来の気候変化予測の不確実性理解に役立つ知見を得ることを目標とする。
 第6期結合モデル相互比較プロジェクト(CMIP6)に参加した全球気候モデルMIROC6で実施した、50メンバーのhistorical実験(1850~2014年)および中位の排出シナリオであるSSP2-4.5の温暖化シナリオ実験(2015~2100年)のデータを解析した。強制応答はアンサンブル平均で定義し、各メンバーのアンサンブル平均からのずれを内部変動成分とする。1850~2100年の放射強制力は、放射強制力モデル相互比較プロジェクト (RFMIP) における同モデルの計算結果から求める。各メンバーに全球エネルギー収支式を当てはめることで気候フィードバックパラメータを求める一方、アンサンブル平均の応答にエネルギー収支式を当てはめることで気候フィードバックの強制成分を推定した。内部変動によるフィードバックは、それらの差として得られる。historical期間における観測された海面水温で駆動した大気モデル実験amip-piForcingから得られるλを参照時系列として用いた。
 1970~2014年で、amip-piForcingから求めた有効気候感度は1.92℃と、MIROC6のCO2濃度瞬時4倍増実験(abrupt4xCO2)から推定される値(2.57℃)よりも低い。過去の研究から、この期間のパターン効果が負の気候フィードバックを強めていたという報告と整合的である。50メンバーのhistorical実験から求めたλを用いると、有効気候感度に大きな幅が生じ、どちらもアンサンブル範囲内に含まれることが分かった(図1)。amip-piForcingからの有効気候感度がアンサンブルの縁辺に位置する点には注意が必要だが、この結果は、観測海面水温にもとづく気候フィードバックの変化は初期値アンサンブル内で生じ得ることを意味する。1850~2100年の全期間で気候フィードバックの強制成分をabrupt4xCO2実験から得られるλと比較すると、1980年代以降は両者がほぼ一致することが分かった。このことは、amip-piForcingなどで気候フィードバックを推定する場合、最近のデータを利用する方がより信頼できることを示唆する。また、内部変動による気候フィードバックは温暖化が進むとともに寄与が小さくなった。
 1860~1879年平均に対する2014年の全球年平均地表気温偏差およびその要因を調べた。HadCRUT5の観測値は+0.99℃であるが、MIROC6では+0.83±0.17℃(範囲は1標準偏差)であった。アンサンブル平均の気温偏差に対する放射強制力、海洋熱吸収、気候フィードバックの寄与は各々+0.52℃、−0.18℃、+0.43℃だが、メンバー間のばらつきに対しては、海洋熱吸収とフィードバックの寄与に正相関(r = 0.58)があることで、気温偏差の幅が大きくなっていることが分かった。これは、内部変動による非強制パターン効果が海洋熱吸収と密接に関連して生じることを意味する。