日本地球惑星科学連合2022年大会

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[U-06] 日本の学術出版とオープンサイエンス、オープンデータ

2022年5月25日(水) 09:00 〜 10:30 105 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:小田 啓邦(産業技術総合研究所地質情報研究部門)、コンビーナ:川幡 穂高(東京大学 大気海洋研究所)、座長:小田 啓邦(産業技術総合研究所地質情報研究部門)、川幡 穂高(東京大学 大気海洋研究所)

09:30 〜 10:00

[U06-03] 世界で初めて日本語によるオープンリサーチ出版を可能にした筑波大学ゲートウェイ

★招待講演

*森本 行人1 (1.国立大学法人 筑波大学)

キーワード:学術誌、多様性、公開査読、iMD、筑波大学ゲートウェイ、F1000 Research model

導入の経緯
筑波大学人文社会系では、独自の取組として、人文社会系分野の見える化に取り組んできました。1つはiMD (index for Measuring Diversity)、もう1つが筑波大学ゲートウェイです。iMDは学術誌の著者所属の多様性を図る指標として私たちが提案した手法で、筑波大学の人文社会分野では初となる特許取得となりました。もう一方の筑波大学ゲートウェイは、F1000 Research社長のレベッカ・ローレンスさんからオファーをいただいたことから始まります。ローレンスさんとは、私たちが主催した研究評価に関するシンポジウムに登壇いただいたのをきっかけに意見交換を開始しました。F1000 Research社の「研究と学問、そして言語には壁があってはならない」という理念と、日本と世界の学術コミュニケーションに一石を投じたいという私たちの考えが共鳴した成果です。日本に代理店がなかったので契約手続きに手間と時間がかかりましたが、無事に契約を締結し、晴れて本学は日本で初めてF1000Research出版モデルを大学として活用し、このモデルでは世界初となる日本語の論文を世に送り出しました。

査読の仕組み
従来の学術誌の主流な査読モデルでは、匿名での査読と、査読を通過し、かつ投稿料を支払った論文だけが出版されます。このとき、論文の著作権は発行する学会や出版社に帰属するのが一般的です。
それに対して、F1000Researchモデルでは、論文の著作権は著者が有し、投稿時に行われるのは最低限のチェックのみで、投稿料の支払いが完了すれば約2週間程度で論文がウェブで公開されます。公開時は査読なし論文の扱いとなり、DOIがつきます。つまり出版扱いとなりますので、この時点から引用が可能となります。また公開後にオープンピアレビューが始まり、査読が終わるとScopus、PubMed、Google Scholar等の論文データベースに収録されます。

現在の投稿状況
2020年11月にローンチした筑波大学ゲートウェイは、2020年度は3本の論文が、2022年度は13本の論文が公開されました。そのほとんどの論文は公開後1-2か月で査読完了となり、2022年2月現在では、9本の論文がScopus等の論文データベースにindexされています。

研究者からの反応
これまで投稿した研究者からは、次のようなコメントをもらっています。
・rejectされない安心感と、自分が書いた論文を読んで欲しい方にレビューしてもらえるという2つのメリットは非常に大きかった。
・これまでの投稿では、数か月、長いときには数年、投稿しては査読者の評価を待つという受け身な姿勢を歯がゆく感じていた。筑波大学ゲートウェイでは、査読者のコメントも多様な研究者の意見の1つとなり、さらにこの分野の研究を深められる可能性を感じた。
・全く宣伝していなかったのだが、1週間で100 Viewを超えた。
・学生に論文執筆のプロセスを見せられるのもメリットだと感じた。
今後、筑波大学ゲートウェイが波及し、どの言語でも迅速且つオープンに研究成果を発信することが、ワールドスタンダードになれば良いと考えています。