日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

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[U-08] 地球惑星科学の進むべき道11:地球惑星科学分野の大型研究計画

2022年5月23日(月) 10:45 〜 12:15 展示場特設会場 (2) (幕張メッセ国際展示場)

コンビーナ:中村 卓司(国立極地研究所)、コンビーナ:田近 英一(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、佐竹 健治(東京大学地震研究所)、コンビーナ:高橋 幸弘(北海道大学・大学院理学院・宇宙理学専攻)、座長:田近 英一(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)

10:45 〜 11:08

[U08-04] 大気水圏科学データの蓄積・解析基盤形成

*榎本 剛1 (1.京都大学防災研究所)

キーワード:気象庁データ、学際研究、初等中等教育

「気象研究コンソーシアム」はわが国における気象研究の発展、大学等における気象研究分野の人材育成、気象庁の気象業務の予測精度の向上を目的とした気象庁と(公社)日本気象学会の包括的な共同研究契約「気象庁データを利用した気象に関する研究」に基づく枠組みである。気象庁気象研究所に設置されたサーバから気象庁データが提供されており,これを利用した研究が盛んに行われている。この共同研究は,一定の成果を上げているものの,ツール開発,人材育成,教育への展開などに課題がある。

これらの課題について,日本気象学会学術委員会データ利用部会及び気象研究コンソーシアム運営委員会において,2019年頃から意見交換を重ね,学術側が気象庁データを提供するための組織やハードウェアを整備すること,関連分野の研究者にもデータを提供し学際研究を推進すること,高等教育だけでなく初等中等教育にも活用すること,オープンサイエンス推進のためにデータにDOIを付与すること,データ構築を業績として評価すべきであることについて認識が共有された。

以上の議論を具現化するため,「気象研究コンソーシアム」の取組を大幅に拡充した「大気水圏科学データ蓄積基盤」(AHSAP)の構築を提案する。「気象研究コンソーシアム」は容量の制約のため,古いデータを蓄積していない。これに対し,AHSAPでは災害をもたらす気象のメカニズム・予測可能性研究及び防災リテラシーの向上・防災教育充実を目的として,気象データを蓄積する。AHSAPでは,「気象研究コンソーシアム」ではされていないアーカイブに加えて,データ解析やデータ同化,機械学習,可視化等のツールを開発・整備・提供することにより,地球惑星科学に有用な研究基盤とするだけではなく,当該分野でのデータ科学の人材育成や,地学教育への活用を図ると共に,気象・気候データを幅広く提供するサービスを実施することにより,防災から環境問題に至る諸問題に対応する社会の活動にも貢献する。

これまでも気象・気候データの蓄積・解析が試みられている。京大生存圏研究所グローバル大気観測データでは気象庁データや使いやすい形に変換して提供している。この経験をAHSAPにも活かして,小中学校等の教育現場でも利用しやすい提供体制を構築する。交通政策審議会気象分科会の提言に基づき,気象庁は令和4年度から産官学連携のためのクラウドを整備することとしており,学術に対しても応分の負担を求めている。AHSAPは気象庁クラウドに対する学術側のカウンターパートとして計画する。AHSAPは,研究や教育のニーズに密着した「市立図書館」としてのニーズに応えるものである。気候データに対しては,データ蓄積・解析のためのデータ統合解析システム(DIAS)が構築され,気候データを中心に多様なデータとアプリケーションを提供している。また,東大大気海洋研「水と気候プロジェクト」では,DIAS/東大Oakbridge/HPCIを基盤として気候データを収集蓄積し解析を行っている。これらの取組とも連携しつつ,AHSAPは気象庁の気象観測データや数値天気予報データに特化し,災害気象研究や教育に重点を置いて運用する。

AHSAPが実現すれば,初等中等教育において気象データを入り口として地球惑星科学に対する関心が高まり,防災リテラシーの向上や地学教育の推進,地球惑星科学分野の人材育成につながることが期待される。