日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

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[U-08] 地球惑星科学の進むべき道11:地球惑星科学分野の大型研究計画

2022年5月23日(月) 10:45 〜 12:15 展示場特設会場 (2) (幕張メッセ国際展示場)

コンビーナ:中村 卓司(国立極地研究所)、コンビーナ:田近 英一(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、佐竹 健治(東京大学地震研究所)、コンビーナ:高橋 幸弘(北海道大学・大学院理学院・宇宙理学専攻)、座長:田近 英一(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)

11:53 〜 12:15

[U08-07] 惑星科学コンソーシアム

*並木 則行1 (1.国立天文台 RISE月惑星探査プロジェクト)

キーワード:大型研究計画、惑星科学、コンソーシアム

日本の宇宙探査は構想段階から始まって,いわゆるフェーズA(概念検討),B(開発研究),C(開発),D(運用)を経た後に,獲得データを使った成果創出に至る.JAXAは『実行機関』として,フェーズA~Dに責任を持ってプロジェクトを実施するが,最初の構想段階と最後の成果創出は,原則として,個別の研究グループや個人研究者の自助に委ねられている.しかしながら,典型的な大型プロジェクトである宇宙探査では,多様なミッション提案,機器提案をJAXAがゼロから評価することはあり得ず,『コミュニティの合意』というフィルタを通して事前の選別を行うことが求められる.成果創出の段階においては,プロジェクト研究者のデータ利用優先と速やかなデータ公開のバランスをコミュニティが調整して科学成果の最大化を図らなければならない.このように,プロジェクトの入口と出口において,コミュニティは重い責任を負うているのであり,その責任を担うだけの体制が必要である.
コミュニティはミッション構想段階において,搭載機器の基礎開発を行い,ミッション案をブラッシュアップして,コミュニティ内での優先順位をつける責任がある.一方,この段階で組織されたリサーチグループ(RG)が,概念検討・プロジェクト化準備段階でワーキンググループ(WG) ⇒ プリプロジェクトと発展するにつれて,コミュニティと宇宙研メンバーが緊密に協力して搭載機器開発やミッション定義を行わなければならない.特に,ミッション構想~概念検討段階においては,宇宙研における機器開発の経験を人材交流を通して宇宙研所外の大学・研究機関へ還流させて,多種多様な搭載機器の萌芽を育てることが重要である.反対に,コミュニティは現実的なシミュレーション研究(一般には“研究成果”として認められ難い)によって,宇宙研による概念検討・プロジェクト化準備を支援する.現状では,惑星科学コミュニティにおける責任体制が無く,宇宙研との連携に重大な支障がある.千葉工業大学と宇宙研は小惑星フライバイミッションDESTINY+において,時限付きの連携拠点を設立し,この課題に取り組んでおり,そのような連携の活動を今後さらに拡充させる必要がある.

アルテミスに代表されるトップダウン型のプロジェクトでは,原則として,個別の研究グループが一本釣りで直接JAXAプロジェクトに組み込まれる.コミュニティが分野ごとに持っている将来計画やロードマップを反映させるためには,宇宙研(アルテミスでは国際宇宙探査専門員会)を通してJAXA(アルテミスでは国際宇宙探査センター)に働きかける必要があるが,そのような意思疎通のシステムの構築は現在模索中である.

安全保障や産業振興といった目的で実施されるトップダウンプロジェクトにおいて,惑星科学コミュニティが一貫した科学戦略を保つためには,多様な搭載機器の選択肢を常備していなければならない.そのためには惑星科学コミュニティに戦略的機器開発と情報流通を統括する指令塔が必要である.また,今後は宇宙理工学のみならず,医学や農学,人文社会学にわたる広い視野をもつ人材が求められる.学際的な人材の教育は宇宙技術に特化したJAXAよりも基礎教養を重んじる大学の務めであろう.
宇宙研とともに日本の惑星探査プロジェクを実現するにあたって,惑星科学コミュニティに以下のような役割を求められていることが分かる.(1) ミッション構想~概念検討段階において,宇宙研と連携しうる責任体制を構築する.搭載機器開発を育成し,ミッション提案のブラッシュアップを実行するとともに,シミュレーション研究を通して概念検討やプロジェクト化準備を支援する.また,宇宙研との人事交流を可能にする.(2) トップダウンのプロジェクトに即応できる体制を構築する.積極的な情報流通により,戦略的な機器開発を統括する.(3) 宇宙理工学の殻を破り,医学や農学,人文社会学にわたる広い視野をもつ人材を大学において育成する.(4) データの管理・公開に一定の責任を持つ体制を構築する.研究目的で開発されたオープンソフトウェア群と,それにより高次処理されたデータを維持する.(5) コミュニティ内の将来計画提案を具体的で実現性の高いロードマップへ蒸留する中核研究所を構築する.このような役割を担う体制として惑星科学コンソーシアムを提案する.