日本地球惑星科学連合2022年大会

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[J] 口頭発表

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[U-08] 地球惑星科学の進むべき道11:地球惑星科学分野の大型研究計画

2022年5月23日(月) 13:45 〜 15:15 展示場特設会場 (2) (幕張メッセ国際展示場)

コンビーナ:中村 卓司(国立極地研究所)、コンビーナ:田近 英一(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、佐竹 健治(東京大学地震研究所)、コンビーナ:高橋 幸弘(北海道大学・大学院理学院・宇宙理学専攻)、座長:佐竹 健治(東京大学地震研究所)

14:53 〜 15:15

[U08-11] 惑星科学、生命圏科学、および天文学に向けた紫外線宇宙望遠鏡計画

*土屋 史紀1村上 豪2山崎 敦2木村 智樹3鍵谷 将人1古賀 亮一5木村 淳6成田 憲保4亀田 真吾7生駒 大洋8、大内 正己8,4、田中 雅臣4益永 圭2堺 正太朗1垰 千尋9桑原 正輝7鳥海 森2 (1.東北大学、2.宇宙科学研究所、3.東京理科大学、4.東京大学、5.名古屋大学、6.大阪大学、7.立教大学、8.国立天文台、9.情報通信研究機構)

宇宙における生命存在可能環境の探査は宇宙科学の根源的な課題の1つである。生命存在環境の第一条件は、液体の水の存在である。液体の水が安定的に存在する形態として、木星、土星の複数の氷衛星に存在するとされる地下海がある。現在、地下海の存在が実証されている天体は、土星の衛星エンセラダスのみであるが、木星の氷衛星においても表層に吹き出す水プルームが検出され、地下海の存在が実証されれば、地下海は普遍的な生命存在可能環境の形態となりうる。低温環境の氷衛星では、生命存在環境の第二の条件である化学エネルギーの供給を磁気圏のプラズマが担う可能性があり、磁気圏プラズマと衛星の表層・大気との相互作用の理解の重要性が高まっている。しかし、衛星周辺の宇宙環境に特化した観測は今まで存在せず、水プルームの存在や磁気圏プラズマと衛星の相互作用は未解明問題として残されている。表層に安定に水が存在する天体は、太陽系内では地球のみであるが、火星・金星には過去に大量の水を保有していた証拠が見つかっており、金星も過去に水を有していた可能性が示唆されている。水の消失先の有力候補は宇宙空間への散逸である。大気の広がりや散逸過程を明らかにすることは、地球型惑星の大気進化を明らかにし、地球が生命存在環境を持つに至った理由を知る鍵となる。太陽系の地球型惑星大気の知見は系外惑星へ拡張できる。惑星の超高層大気の広がりは大気の組成に関係しており、大気の広がりを観測できれば、系外惑星大気の組成や表層環境を特徴づけるマーカーとして利用できる可能性がある。大気の広がりを観測するためには紫外線によるトランジット観測が唯一の手段となるが、高精度観測が必要であり現時点では実現していない。トランジット観測を行うためには主星からの放射の特徴づけも必要となるが、紫外域での主星の観測も不足している。
上述した問題を解決するためには、惑星や氷天体の周りに広がった超高層大気やガスの空間分布を観測する必要がある。太陽からの放射に加え、火星や金星は太陽風、氷衛星は磁気圏プラズマに直接晒されており、惑星の大気散逸や天体周囲のガスの分布はこれらの影響を強く受ける。時々刻々と変化する宇宙環境に対する応答を明らかにすることは、平均的な描像を得る事に加え、現在とは異なる宇宙環境状態にあった過去の状況にさかのぼる観点からも必要となる。これらの科学課題に取り組む手段として、我々は高解像度・高感度の紫外線宇宙望遠鏡を提案する。紫外線波長域では、惑星・衛星の大気とその周りに分布する希薄なガスを高いコントラストで観測することが可能で、大気・ガスの物理的状態を俯瞰的に観測する唯一の手段である。我々が提案するLAPYUTA(惑星科学、生命圏科学、および天文学に向けた紫外線宇宙望遠鏡)は、2029年-2030年の打ち上げを目指す日本の紫外線望遠鏡計画で、上述した太陽系科学・系外惑星分野の生命存在環境の形成に関する課題に取り組む。紫外線天文学はハッブル宇宙望遠鏡により大きく進展したが、銀河形成論や時間領域天文学に関して未開拓の領域が残されている。広視野サーベイと、突発天体現象に対する機動的な観測を可能とすることで、宇宙論におけるミッシングサテライト問題と、マルチメッセンジャー・時間領域天文学に取り組む。2021年1月に宇宙科学研究所に公募型小型計画検討ワーキンググループが設置され、LAPYUTA計画の本格的な検討が開始されている。LAPYUTAでは、主鏡口径60cm級の望遠鏡と惑星分光観測衛星「ひさき」で培った紫外線分光観測技術を組み合わせるとともに、姿勢擾乱により生じる望遠望遠鏡の指向ブレ補正する独自のアイディアを採用することにより、ハッブル宇宙望遠鏡並みの高い感度・空間分解能を備えた宇宙望遠鏡の実現を目指す。先行して打ち上げられるロシア宇宙望遠鏡WSO-UVに搭載される紫外分光器UVSPEXとは、系外惑星大気観測の科学検討と技術開発の両面で協力する。LAPYUTAが観測開始目標とする2030年は欧州が主導し、日本も複数の搭載機器で参画する木星氷衛星探査計画JUICEや米国のEuropa clipperが木星系で観測を開始する見込みである。空間構造を俯瞰した観測が可能なLAPYUTAとこれらの探査機との協調観測を計画し、2030年台の国際的な氷衛星探査に臨む。