日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

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[U-09] 気象津波の発生を伴ったトンガ海底火山噴火

2022年5月22日(日) 09:00 〜 10:30 展示場特設会場 (1) (幕張メッセ国際展示場)

コンビーナ:日比谷 紀之(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、コンビーナ:前野 深(東京大学地震研究所)、コンビーナ:中島 健介(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、コンビーナ:田村 芳彦(海洋研究開発機構 海域地震火山部門)、座長:日比谷 紀之(東京海洋大学 海洋環境科学部門)、中島 健介(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)

09:15 〜 09:30

[U09-02] グローバル海底水圧観測網がとらえた2022年トンガ噴火による気圧波が励起した津波

*久保田 達矢1齊藤 竜彦1西田 究2 (1.国立研究開発法人防災科学技術研究所、2.東京大学地震研究所)

キーワード:フンガトンガ・フンガハアパイ、津波、大気圧波

2022年1月15日,トンガにあるフンガトンガ・フンガハアパイ火山が噴火した.この噴火に伴い,世界の海底に展開された海底水圧観測網により津波が観測されたが,その津波は理論的に予測されるよりも2–3 hrほど早く到達した.また,この噴火において,世界の大気圧観測網が~2 hPa程度の大気圧増加を観測した.これはLamb波と呼ばれる大気中を音速で伝わる大気波動の一種である (Lamb 1932).本研究では,このLamb波によりグローバルに励起され,世界中の水圧観測網で記録された津波の生じたメカニズムを考察した.
解析では,まずLamb波の伝播速度V0 = 300m/sを仮定して気圧波の伝播をシミュレーションした.続いて,その気圧波により駆動される津波をシミュレーションした.最後に,海底の水圧変動を,大気圧変動による寄与と海面波高変動による寄与を足し合わせることにより合成した (Kubota et al. 2021).
計算された水圧波形は,水圧観測波形の,理論走時よりも早く到達する部分をよく説明した.津波伝播のスナップショットからは,速度V0で伝播する海面隆起の波が確認された.移動する気圧波と津波の伝播速度が近い値をとるとき,「共振現象」により津波の振幅が増大することが知られている (Proudman 1929) が,この波は伝播と共に増大しないことから共振が原因ではなく,Lamb波 (海面気圧変化) が強制的に海面を変動させたものと解釈される.隆起の波に続いて,島嶼部を2次ソースとして励起されている海面の擾乱 (散乱波) も確認された.さらに続いて,津波の速度c0 = (g0h0)0.5 (g0: 重力か速度, h0: 水深) で伝播する海面沈降の波が確認された.この波は,Lamb波により強制的に励起された隆起の波が周囲に速度V0で伝播する際に体積保存のためにソース周辺で生じた海面沈降が,重力によって崩れ,津波の速度で伝播したものと解釈できる.
グローバルに展開された海底水圧観測網は,津波の予測に非常に有用な情報をもたらす.一般的な地震による津波では,海底水圧pp = ρ0g0ηの関係により海面波高ηに換算されてきた (ρ0: 海水密度).しかし,今回のケースにおいては,大気圧変動による寄与が海底水圧変動に含まれる (p = ρ0g0η + patmos) ため,Lamb波の寄与を適切に考慮しなければ海面波高を過大評価する可能性がある.また,グローバルな津波予測においては,噴火によって放射される大気重力波 (V0 ~200–220 m/s) による気圧変化の影響も考慮する必要がある.大気重力波は太平洋における津波の平均伝播速度と同程度の位相速度をもつため,気圧波と津波の共振の効果(e.g. Press & Harkrider 1966) により振幅が継続的に増幅され,一定の距離を伝播した後には,ソースでの海底地殻変動による津波よりも大きな振幅になりうる.なおかつ,この共振の効果によって波のエネルギーが継続的に供給され続けるため,長い時間津波の波高が高い状態が続く可能性もある.火山噴火による津波をグローバル海底水圧観測に基づいて適切に予測するには,Lamb波や大気重力波を含めた気圧波の発生と伝播を正確にモデル化することが不可欠である.