11:00 〜 13:00
[U09-P25] 2022年1月15日トンガ海底火山噴火により発生した傘型噴煙のひまわり8号による解析
キーワード:静止気象衛星、ひまわり8号、フンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ火山、過冷却、大気重力波、ブラスト・クラウド
静止気象衛星ひまわり8号(Himawari-8, 例えば,Hayashi et al., 2016, 2018)では,2022年1月15日フンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ(HTHH)火山の海底噴火に伴う傘型噴煙・火山灰雲が観測された(例えば,Smart, 2022).前報告(Shimbori et al., 2022)では,風で流された後の灰雲について解析した.本発表では,Smart (2022) と同様に,風で流される前の噴煙の特徴について報告する.
HTHH火山噴火で発生した傘型噴煙を撮像したHimawari-8画像の主な解析結果は下記のとおり(表示時刻は,Himawari-8によるHTHH火山付近の撮像時刻):
(i) 傘型噴煙の元となる噴火は,15日04:07 UTCの可視画像で確認(Fig. 1 (a)).
(ii) 04:07~04:17 UTCの10分間における最初の噴煙は指向性があり,その水平移動速度は火口の東南東方向に平均64 m/s以上(Figs. 1 (a), (b)).
(iii) 傘型噴煙の形成開始は,04:27 UTCの可視および赤外画像で確認.赤外(10.4 μm)では,火口の東南東47 km地点上空で噴火期間中の最低輝度温度−96.9℃を観測(Fig. 1 (c)).
(iv) 04:27~04:37 UTCの衛星画像で,最低輝度温度の観測地点から円形に広がる波動を確認(Figs. 1 (c), (d)).
(v) 04:47 UTCの衛星画像で,傘型噴煙の中心が火口直上に近づき,その付近(火口の南東12 km地点上空)で最高輝度温度+2.0℃を観測(Fig. 1 (e)).
(vi) 赤外差分(10.4−12.4 μm)の画像では,傘型噴煙の輪郭を明瞭に検出(例えば,Fig. 1 (e′)).これから傘型噴煙の面積を計測したところ,円相当半径rは噴火開始時刻(仮定)からの経過時間tとともに,Fig. 2左図のように変化.
上記の各解析結果 (i)-(vi) について,以下に考察する:
(i) Himawari-8の撮像時間間隔から,噴火発生は03:57~04:07 UTCの間と推定される.
(ii) この間,赤外輝度温度の低下から噴煙は上昇を伴っていた可能性があり,瞬間移動速度はさらに大きいと推測される.気象庁全球解析によればそのような強い偏西風は吹いていないため(Shimbori et al. (2022) の第2図右),大気風で主に輸送されたものとは考えられない.
(iii) 観測された最低輝度温度は,同解析による対流圏界面付近の気温(同図左)より16℃以上低く,断熱膨張による噴煙頂部の過冷却(undercooling, Woods and Self, 1992; Sparks et al., 1997)と考えられる.
(iv) 傘型噴煙を伝搬する波動は,1991年6月15日ピナツボ火山噴火などで観測されており(例えば,Tokuno, 1991),大気重力波と考えられる.
(v) 輝度温度の大きな変化が観測された背景には,衛星観測の時空間分解能が上がり,Himawari-8画像(赤外)の空間解像度(衛星直下点)が2 kmになったことがある.
(vi) 経過時間tのベキ指数は,始点をどこに取るかに依存する.tの始点を傘型域の形成開始付近(Fig. 1 (c))に取れば,半径rのt-依存性はFig. 2左図に示したベキ指数より小さくなり,軸対称の傘型になった後は,非圧縮かつ非粘性重力流の傘型噴煙モデル(例えば,Woods and Kienle, 1994; Sparks et al., 1997; Koyaguchi, 2008)で予測されるベキ乗則に従っていた可能性がある.その後の時間変化率の低下(Fig. 2右図)から,傘型域への注入継続時間は40~60分より短いと推測される.
HTHH火山の海底噴火による傘型噴煙の形成過程で衛星観測されたものの特徴は1980年5月18日セント・へレンズ火山噴火の事例(Sparks et al., 1986; Holasek and Self, 1995)と似ており,今次噴火の直後に発生したもの(Fig. 1 (b))は爆風による雲(blast cloud, Lipman and Mullineaux, eds., 1981; Woods and Wohletz, 1991)といえるかも知れない.なお,気象庁の火山灰予報業務においては,undercoolingされた雲頂高度を昼夜問わず即時推定することが必要であり,ひまわり赤外画像と1次元噴煙モデル(例えば,Ishii et al., 2021)の組合せが有用である.
謝 辞
気象衛星画像の解析には気象衛星センターで作成された「SATAID」を使用した.
References
Hayashi, Y., H. Ishimoto and T. Inazawa, 2018: Kishou Kenkyuu Note, 238, 99-113 (in Japanese).
Hayashi, Y., D. Uesawa and K. Bessho, 2016: Proc. JpGU Meeting, MIS26-06 (in Japanese).
Holasek, R. E. and S. Self, 1995: J. Geophys. Res., 100, 8469-8487.
Ishii, K., A. Nishijo and T. Koyaguchi, 2021: Proc. Volcanol. Soc. Japan, 35 (in Japanese).
Koyaguchi, T., 2008: Modeling of Volcanic Phenomena. Univ. of Tokyo Press, pp. 489-492 (in Japanese).
Lipman, P. W. and D. R. Mullineaux, editors, 1981: USGS Prof. Pap., 1250, 844 p.
Shimbori, T., M. Hayashi and H. Ishimoto, 2022: Proc. Meteor. Soc. Japan, OB-22 (in Japanese).
Smart, D., 2022: Weather, 77, 81-82.
Sparks, R. S. J., M. I. Bursik, S. N. Carey, J. S. Gilbert, L. S. Glaze, H. Sigurdsson and A. W. Woods, 1997: Volcanic Plumes. Wiley, pp. 280-284, 321-323.
Sparks, R. S. J., J. G. Moore and C. J. Rice, 1986: J. Volcanol. Geotherm. Res., 28, 257-274.
Tokuno, M., 1991: MSC Tech. Note, 23, 1-14.
Woods, A. W. and J. Kienle, 1994: J. Volcanol. Geotherm. Res., 62, 273-299.
Woods, A. W. and S. Self, 1992: Nature, 355, 628-630.
Woods, A. W. and K. Wohletz, 1991: Nature, 350, 225-227.
HTHH火山噴火で発生した傘型噴煙を撮像したHimawari-8画像の主な解析結果は下記のとおり(表示時刻は,Himawari-8によるHTHH火山付近の撮像時刻):
(i) 傘型噴煙の元となる噴火は,15日04:07 UTCの可視画像で確認(Fig. 1 (a)).
(ii) 04:07~04:17 UTCの10分間における最初の噴煙は指向性があり,その水平移動速度は火口の東南東方向に平均64 m/s以上(Figs. 1 (a), (b)).
(iii) 傘型噴煙の形成開始は,04:27 UTCの可視および赤外画像で確認.赤外(10.4 μm)では,火口の東南東47 km地点上空で噴火期間中の最低輝度温度−96.9℃を観測(Fig. 1 (c)).
(iv) 04:27~04:37 UTCの衛星画像で,最低輝度温度の観測地点から円形に広がる波動を確認(Figs. 1 (c), (d)).
(v) 04:47 UTCの衛星画像で,傘型噴煙の中心が火口直上に近づき,その付近(火口の南東12 km地点上空)で最高輝度温度+2.0℃を観測(Fig. 1 (e)).
(vi) 赤外差分(10.4−12.4 μm)の画像では,傘型噴煙の輪郭を明瞭に検出(例えば,Fig. 1 (e′)).これから傘型噴煙の面積を計測したところ,円相当半径rは噴火開始時刻(仮定)からの経過時間tとともに,Fig. 2左図のように変化.
上記の各解析結果 (i)-(vi) について,以下に考察する:
(i) Himawari-8の撮像時間間隔から,噴火発生は03:57~04:07 UTCの間と推定される.
(ii) この間,赤外輝度温度の低下から噴煙は上昇を伴っていた可能性があり,瞬間移動速度はさらに大きいと推測される.気象庁全球解析によればそのような強い偏西風は吹いていないため(Shimbori et al. (2022) の第2図右),大気風で主に輸送されたものとは考えられない.
(iii) 観測された最低輝度温度は,同解析による対流圏界面付近の気温(同図左)より16℃以上低く,断熱膨張による噴煙頂部の過冷却(undercooling, Woods and Self, 1992; Sparks et al., 1997)と考えられる.
(iv) 傘型噴煙を伝搬する波動は,1991年6月15日ピナツボ火山噴火などで観測されており(例えば,Tokuno, 1991),大気重力波と考えられる.
(v) 輝度温度の大きな変化が観測された背景には,衛星観測の時空間分解能が上がり,Himawari-8画像(赤外)の空間解像度(衛星直下点)が2 kmになったことがある.
(vi) 経過時間tのベキ指数は,始点をどこに取るかに依存する.tの始点を傘型域の形成開始付近(Fig. 1 (c))に取れば,半径rのt-依存性はFig. 2左図に示したベキ指数より小さくなり,軸対称の傘型になった後は,非圧縮かつ非粘性重力流の傘型噴煙モデル(例えば,Woods and Kienle, 1994; Sparks et al., 1997; Koyaguchi, 2008)で予測されるベキ乗則に従っていた可能性がある.その後の時間変化率の低下(Fig. 2右図)から,傘型域への注入継続時間は40~60分より短いと推測される.
HTHH火山の海底噴火による傘型噴煙の形成過程で衛星観測されたものの特徴は1980年5月18日セント・へレンズ火山噴火の事例(Sparks et al., 1986; Holasek and Self, 1995)と似ており,今次噴火の直後に発生したもの(Fig. 1 (b))は爆風による雲(blast cloud, Lipman and Mullineaux, eds., 1981; Woods and Wohletz, 1991)といえるかも知れない.なお,気象庁の火山灰予報業務においては,undercoolingされた雲頂高度を昼夜問わず即時推定することが必要であり,ひまわり赤外画像と1次元噴煙モデル(例えば,Ishii et al., 2021)の組合せが有用である.
謝 辞
気象衛星画像の解析には気象衛星センターで作成された「SATAID」を使用した.
References
Hayashi, Y., H. Ishimoto and T. Inazawa, 2018: Kishou Kenkyuu Note, 238, 99-113 (in Japanese).
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Lipman, P. W. and D. R. Mullineaux, editors, 1981: USGS Prof. Pap., 1250, 844 p.
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Woods, A. W. and S. Self, 1992: Nature, 355, 628-630.
Woods, A. W. and K. Wohletz, 1991: Nature, 350, 225-227.