11:00 〜 13:00
[U09-P26] 海底水圧記録を用いた2022年トンガ火山噴火に関連した初期水位体積の概算
キーワード:2022年トンガ火山噴火、海面変位、初期水位
背景
2022年1月15日4時頃(世界標準時),フンガ・トンガ=フンガ・ハアパイ海底火山が噴火した.世界各地で気圧変化と海面変動が観測され,噴火に伴う気圧波が,その伝播過程で,大気・海洋の共鳴によって海面変位を励起した可能性について検討されている(たとえば,高野・他,本大会; Kubota et al., 2022, EarthArXiv).また,噴火後には火山島の大半が消失しており,火山島で地盤変動等の固体地球現象が生じ,津波が発生した可能性がある.各地で観測された海面変位には,気圧変化由来の海面変位と固体地球現象由来の津波が混在していると考えられる.本研究では,日本沖合の海底観測網S-net, DONETの海底水圧記録を用いて,以下2つに関して,火山位置での初期水位の体積を算出し,現象としての規模を概算する:(1) 火山位置において火山島の水平スケールで生じた固体地球現象,(2)海底水圧記録において卓越した水圧変化を生じさせた変動源の規模.
データ
海底観測網S-net, DONETの海底水圧記録を用いた.バンドパスフィルタで周期2-180分の波を抽出後,4つの帯域に分けた(bpf1: 2-6分,bpf2: 6-20分,bpf3: 20-60分,bpf4: 60-180分).本研究では,走時の観点で海洋長波(津波)として説明可能な水圧変化に着目し,その変動源としての初期水位を概算する.このため,海洋長波の理論到着時以降の観測記録を解析に用いた.具体的には,S-netは噴火後10時間,DONETは噴火後10時間45分を開始時刻とする5時間の記録を用いた.
手法
初期水位の推定は,観測水圧波形と理論水圧波形の振幅の比較に基づいて行った.まず,各観測点の各周期帯の時系列について,上述した窓幅の二乗平均平方根振幅(RMS振幅)を算出する.この処理を観測波形と理論波形それぞれについて行う.そして,各観測点・各周期帯のRMS振幅を独立なデータとみなして観測値と理論値の残差二乗和を最小にする初期水位量を推定する.固体地球現象が起きていたとしても,その時刻は現時点で不明のため,時系列ではなく時間平均したRMS振幅を用いた.このとき,現象の空間スケールに関わる周期の情報が失われるため,それを低減するため,上述した周期別のRMS振幅を用いた.
理論水圧波形は,津波数値計算で算出した.津波数値モデルJAGURS(Baba et al., 2015)を用い,線形長波理論に基づいて津波伝播を計算した.火山位置の海面に,ガウス関数の形状を持つ単一の要素波源(初期水位1 m)を仮定し,ライズタイム は10秒とした(ガウス関数の特徴的スケールは後述).計算された津波波形に,観測波形と同様のフィルタを適用し,理論水圧波形とした.
結果と考察
まず,火山位置において火山島スケールで生じた固体地球現象について考える.海底地形データを参考に,火山島の特徴的スケールを5 kmと仮定した.このスケールと火山島周辺の水深から期待される津波の周期は2-3分程度であるため,2-6分の周期帯(bpf1)のRMS振幅を用いて,初期水位を推定した.その結果,初期水位としては約160 m,体積として約3 km3が求まった.陥没などで島の大部分が消失したと仮定すると,この推定値は,おおよその規模としては妥当かもしれない.
次に,海底水圧記録で卓越した水圧変化の変動源について考える.観測記録では,上述の解析に用いたbpf1よりも,長周期側(bpf2-4)の振幅がはるかに大きい.また,上述で得た変動源では,長周期の水圧変化の振幅は過小評価になる.Lamb波の伝播過程で生じた津波散乱波等が,津波到達時以降の観測水圧でも支配的なのかもしれない.ここでは,それら気圧波由来の海面変位もすべて火山島での初期水位で生じたと仮定して,その体積を概算した.すなわち,今回の海面変位現象の規模を,初期水位体積という特徴量(等価波源)で表現することを試みる.60 kmのガウス関数を仮定し,bpf2-4のRMS振幅から初期水位を推定した結果,約30 km3が求まった.この体積は,前段落の推定で得られた体積よりも1桁大きく,火山島のスケールで起きた現象は,観測された海面変位への寄与としては小さいと考えられる.
本研究の一部は,JSPS科研費JP21K21353の助成を受けたものです.
2022年1月15日4時頃(世界標準時),フンガ・トンガ=フンガ・ハアパイ海底火山が噴火した.世界各地で気圧変化と海面変動が観測され,噴火に伴う気圧波が,その伝播過程で,大気・海洋の共鳴によって海面変位を励起した可能性について検討されている(たとえば,高野・他,本大会; Kubota et al., 2022, EarthArXiv).また,噴火後には火山島の大半が消失しており,火山島で地盤変動等の固体地球現象が生じ,津波が発生した可能性がある.各地で観測された海面変位には,気圧変化由来の海面変位と固体地球現象由来の津波が混在していると考えられる.本研究では,日本沖合の海底観測網S-net, DONETの海底水圧記録を用いて,以下2つに関して,火山位置での初期水位の体積を算出し,現象としての規模を概算する:(1) 火山位置において火山島の水平スケールで生じた固体地球現象,(2)海底水圧記録において卓越した水圧変化を生じさせた変動源の規模.
データ
海底観測網S-net, DONETの海底水圧記録を用いた.バンドパスフィルタで周期2-180分の波を抽出後,4つの帯域に分けた(bpf1: 2-6分,bpf2: 6-20分,bpf3: 20-60分,bpf4: 60-180分).本研究では,走時の観点で海洋長波(津波)として説明可能な水圧変化に着目し,その変動源としての初期水位を概算する.このため,海洋長波の理論到着時以降の観測記録を解析に用いた.具体的には,S-netは噴火後10時間,DONETは噴火後10時間45分を開始時刻とする5時間の記録を用いた.
手法
初期水位の推定は,観測水圧波形と理論水圧波形の振幅の比較に基づいて行った.まず,各観測点の各周期帯の時系列について,上述した窓幅の二乗平均平方根振幅(RMS振幅)を算出する.この処理を観測波形と理論波形それぞれについて行う.そして,各観測点・各周期帯のRMS振幅を独立なデータとみなして観測値と理論値の残差二乗和を最小にする初期水位量を推定する.固体地球現象が起きていたとしても,その時刻は現時点で不明のため,時系列ではなく時間平均したRMS振幅を用いた.このとき,現象の空間スケールに関わる周期の情報が失われるため,それを低減するため,上述した周期別のRMS振幅を用いた.
理論水圧波形は,津波数値計算で算出した.津波数値モデルJAGURS(Baba et al., 2015)を用い,線形長波理論に基づいて津波伝播を計算した.火山位置の海面に,ガウス関数の形状を持つ単一の要素波源(初期水位1 m)を仮定し,ライズタイム は10秒とした(ガウス関数の特徴的スケールは後述).計算された津波波形に,観測波形と同様のフィルタを適用し,理論水圧波形とした.
結果と考察
まず,火山位置において火山島スケールで生じた固体地球現象について考える.海底地形データを参考に,火山島の特徴的スケールを5 kmと仮定した.このスケールと火山島周辺の水深から期待される津波の周期は2-3分程度であるため,2-6分の周期帯(bpf1)のRMS振幅を用いて,初期水位を推定した.その結果,初期水位としては約160 m,体積として約3 km3が求まった.陥没などで島の大部分が消失したと仮定すると,この推定値は,おおよその規模としては妥当かもしれない.
次に,海底水圧記録で卓越した水圧変化の変動源について考える.観測記録では,上述の解析に用いたbpf1よりも,長周期側(bpf2-4)の振幅がはるかに大きい.また,上述で得た変動源では,長周期の水圧変化の振幅は過小評価になる.Lamb波の伝播過程で生じた津波散乱波等が,津波到達時以降の観測水圧でも支配的なのかもしれない.ここでは,それら気圧波由来の海面変位もすべて火山島での初期水位で生じたと仮定して,その体積を概算した.すなわち,今回の海面変位現象の規模を,初期水位体積という特徴量(等価波源)で表現することを試みる.60 kmのガウス関数を仮定し,bpf2-4のRMS振幅から初期水位を推定した結果,約30 km3が求まった.この体積は,前段落の推定で得られた体積よりも1桁大きく,火山島のスケールで起きた現象は,観測された海面変位への寄与としては小さいと考えられる.
本研究の一部は,JSPS科研費JP21K21353の助成を受けたものです.