日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS06] 気象学一般

2023年5月21日(日) 13:45 〜 15:00 103 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:那須野 智江(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、久保田 尚之(北海道大学)、佐藤 正樹(東京大学大気海洋研究所)、佐藤 薫(東京大学 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻)、座長:那須野 智江(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、久保田 尚之(北海道大学)

14:15 〜 14:30

[AAS06-03] GNSS観測に基づく中部日本の可降水量分布の推定による降雪期の事例解析

*重嶋 悠佑1伊藤 武男2 (1.名古屋大学大学院環境学研究科、2.名古屋大学大学院環境学研究科附属 地震火山研究センター)

キーワード:GNSS気象学、JPCZ

1.はじめに
ユーラシア大陸からの季節風と日本海を流れる対馬海流によって、冬季には日本海側で大雪となることがある。一方、季節風が日本の脊梁山脈を越える際に水分を失うため、日本海側と比較して太平洋側は乾燥するが、濃尾平野は他の太平洋側地域より雪が降りやすいことが指摘されている。この理由として日本海との距離が短いことや山地部が比較的低いことが挙げられる。Uehara et al. (2008) は濃尾平野周辺の冬季の可降水量が他の太平洋側よりも大きいことを指摘し、その原因として前述した地理的要因以外にもあることを示唆している。本研究では中部日本における冬型の気圧配置時の可降水量(PWV)の時空間分布をGNSS観測により推定し、濃尾平野においてPWVが大きくなる原因の解明を試みる。

2. データおよび手法
本研究では、電磁波が湿潤大気を通過する際に遅延する現象を利用してGNSS観測によりPWVを推定する。使用したデータは2021年12月25日から28日に国土地理院のGEONETとソフトバンクの独自基準点で得られたGNSS観測データ(全国のGEONET:1313点、中部地方のソフトバンク:498点)を5分間ごとにリサンプリングしてRTKLIB ver2.4.3を用いて解析を行なった。なお、この解析期間では滋賀県彦根市などで記録的な大雪となり名古屋市でも積雪を観測した期間である。

3.結果と議論
PWV解析をした結果、日本海側の方が太平洋側に比べてPWVが高く、また太平洋側でも濃尾平野周辺では他の太平洋側の地域と比べてPWVが大きくなっており、多くの降雪地域のPWVの上昇も確認できた。若狭地域と濃尾平野周辺のPWVの時間変化を解析した結果、濃尾平野での降雪時間帯(12月27日)では若狭地域と濃尾平野周辺のPWVの差がほぼ無くなっていた。このことは、若狭湾から濃尾平野にかけて降雪しているにも関わらず、濃尾平野のPWVは減少していないため、濃尾平野への水蒸気の供給システムが必要であることを示唆している。これらを検証するために、PWVの空間2回微分により算出されるWVC Indexにて水蒸気の収束と発散について解析した結果、若狭湾から濃尾平野かけて水蒸気の収束帯(若狭-濃尾水蒸気収束帯)が確認された。若狭-濃尾水蒸気収束帯の東側の伊吹山地に定常的な発散地域があることから、地形が大きく寄与していることがわかる。一方、西側には比較的広範囲に発散地域が広がっていることから、日本寒帯気団収束帯(JPCZ)による広域的な水蒸気の収束が関与していること予想された。
謝辞:本研究で使用したソフトバンクの独自基準点の後処理解析用データは、「ソフトバンク独自基準点データの宇宙地球科学用途利活用コンソーシアム」の枠組みを通じて、ソフトバンク株式会社およびALES株式会社より提供を受けたものを使用しました。