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[AAS06-05] 四角い太陽を含む変形太陽の発生要因に関する考察
キーワード:蜃気楼、四角い太陽、疑似蜃気楼、再解析データ、天体の蜃気楼
天体の蜃気楼は,対象となる天体の歪んだ像や複数の像を生成することがある.最も一般的に観察されるのは日没と日の出の蜃気楼である(WMO,2023).特に太陽の形がさまざまに歪んでみえる現象を太陽の変形,変形太陽,四角い太陽(square sun),mock mirage of sunなどと呼ぶ例が見られる.国内では,北海道別海町における日の出の四角い太陽が観光資源として広報され,全国的にも有名である.一方,多数の発生事例を収集した上での詳細な発生条件や発生要因に関わる気象学的な研究はほとんど行われていない.そこで国内での発生事例についてインターネット上,報道,研究報告などの公開情報ならびに観察協力者の提供情報により169件を収集した.撮影場所,年月日または年月,撮影時の写真が確認できるもののみを対象とし,通常の大気差による変化の範囲内と見られる変形は除外した.対象事例の発生年は2005から2023年であった.撮影時期を月ごとに見ると,1月から12月まですべての月に事例があり,一番多いのは5月であった.季節ごとに見ると春(3月から5月)は61件,夏(6月から8月)は46件,秋(9月から11月)は21件,冬(12月から2月)は41件あった.撮影場所は長崎県,鳥取県,愛媛県,大阪府,千葉県,茨城県,山形県,富山県,北海道の9道府県に加え,富士山山頂の事例があった.撮影時が朝(日の出)か夕(日没)の別は朝:113件,夕:56件であった.後述する発生要因の検討に用いるため,写真により変化の大きさや特徴別の4パターンに分類し,169事例のうちA’:51件,A:27件,B:41件,C:50件とした.この分類は主観的なものであり,客観的な指標整備が課題である.なお,事例のほとんどが不定期観測によるものであり傾向の把握として捉えるには注意が必要である.
別海町ホームページでは四角い太陽について「『出現は厳冬期(2月頃)』と解説されることが多くありますが,必ずしも厳冬期とは限りません.」と紹介している(別海町,2023).上述の169件のうち別海町での撮影は96件あるが,8月以外のすべての月に撮影事例があり厳冬期以外にも発生していることが確認できる.このように別海町だけに絞っても厳冬期と限らず、実際は年間を通して全国に事例があるにもかかわらず,厳冬期に出現すると多く解説されてきたのはなぜだろうか.別海町の四角い太陽が知られるようになったのは1970年代ごろと言われ,後年,写真愛好家向けの雑誌などで取り上げられるようになった.この中でマイナス20℃以下,マイナス15℃以下など写真家らの経験則による撮影条件が紹介されるようになった(DENiM,1994;四季の写真,1997).別海町での撮影事例が知られるにつれ,同じ場所に撮影者が集まり,同じような条件で撮影され続けた結果,経験則による発生条件だけが知られるようになった可能性がある.加えて,撮影には望遠レンズを用いなければならず,日没や日の出時の太陽は刻々と明るさを変えるため短時間にカメラ設定を変更するなど工夫をしなければ明瞭な太陽の像は写らない.ある程度知識や経験がないと撮影できないため,予め名所として知られた場所や条件以外で撮影に挑み成功する機会は格段に少ないと考えられ,全国の他の場所でも撮影できるという認識は広がらなかった可能性がある.
このように冬の北海道での事例のみが有名となったせいか,四角い太陽の発生要因について放射冷却による気温低下が関係していると説明されることが多い.しかし実際には夏の日没時などにも観察されることから,それ以外のメカニズムが存在する可能性も十分考えられ,上空の逆転層が影響しているという説(日本蜃気楼協議会,2016)もある.この説を検討するため,北海道斜里町での撮影事例について以下の3事例に着目し温度構造を比較した:事例1)高さのある四角い太陽;事例2)高さのない四角い太陽;事例3)特異な変形のない通常の日没時.解析はECMWF再解析データERA5を利用し,撮影地点(43°54'55"N,144°41' 51"E)から日没方向の約400km先(45°50'53"N,140°25'31"E)について撮影時刻の鉛直温度断面図を作成した.事例1では,930hPa付近を中心に,撮影地点から400km先までほぼすべての間に広がる逆転層の存在が確認された.事例2については,950hPa付近を中心に範囲内の半分程度の水平スケールを占め途切れながら広がる逆転層が確認された.事例3については撮影地点から150km先までに970hPa付近を中心とした逆転層の存在が確認された.発表ではさらに解析ケースを増やし,上空の逆転層と四角い太陽・変形太陽の見え方に関連性があるのかを検討する.
別海町ホームページでは四角い太陽について「『出現は厳冬期(2月頃)』と解説されることが多くありますが,必ずしも厳冬期とは限りません.」と紹介している(別海町,2023).上述の169件のうち別海町での撮影は96件あるが,8月以外のすべての月に撮影事例があり厳冬期以外にも発生していることが確認できる.このように別海町だけに絞っても厳冬期と限らず、実際は年間を通して全国に事例があるにもかかわらず,厳冬期に出現すると多く解説されてきたのはなぜだろうか.別海町の四角い太陽が知られるようになったのは1970年代ごろと言われ,後年,写真愛好家向けの雑誌などで取り上げられるようになった.この中でマイナス20℃以下,マイナス15℃以下など写真家らの経験則による撮影条件が紹介されるようになった(DENiM,1994;四季の写真,1997).別海町での撮影事例が知られるにつれ,同じ場所に撮影者が集まり,同じような条件で撮影され続けた結果,経験則による発生条件だけが知られるようになった可能性がある.加えて,撮影には望遠レンズを用いなければならず,日没や日の出時の太陽は刻々と明るさを変えるため短時間にカメラ設定を変更するなど工夫をしなければ明瞭な太陽の像は写らない.ある程度知識や経験がないと撮影できないため,予め名所として知られた場所や条件以外で撮影に挑み成功する機会は格段に少ないと考えられ,全国の他の場所でも撮影できるという認識は広がらなかった可能性がある.
このように冬の北海道での事例のみが有名となったせいか,四角い太陽の発生要因について放射冷却による気温低下が関係していると説明されることが多い.しかし実際には夏の日没時などにも観察されることから,それ以外のメカニズムが存在する可能性も十分考えられ,上空の逆転層が影響しているという説(日本蜃気楼協議会,2016)もある.この説を検討するため,北海道斜里町での撮影事例について以下の3事例に着目し温度構造を比較した:事例1)高さのある四角い太陽;事例2)高さのない四角い太陽;事例3)特異な変形のない通常の日没時.解析はECMWF再解析データERA5を利用し,撮影地点(43°54'55"N,144°41' 51"E)から日没方向の約400km先(45°50'53"N,140°25'31"E)について撮影時刻の鉛直温度断面図を作成した.事例1では,930hPa付近を中心に,撮影地点から400km先までほぼすべての間に広がる逆転層の存在が確認された.事例2については,950hPa付近を中心に範囲内の半分程度の水平スケールを占め途切れながら広がる逆転層が確認された.事例3については撮影地点から150km先までに970hPa付近を中心とした逆転層の存在が確認された.発表ではさらに解析ケースを増やし,上空の逆転層と四角い太陽・変形太陽の見え方に関連性があるのかを検討する.