日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS06] 気象学一般

2023年5月21日(日) 15:30 〜 17:00 オンラインポスターZoom会場 (4) (オンラインポスター)

コンビーナ:那須野 智江(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、久保田 尚之(北海道大学)、佐藤 正樹(東京大学大気海洋研究所)、佐藤 薫(東京大学 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/21 17:15-18:45)

15:30 〜 17:00

[AAS06-P07] 大気再解析データの海上気温バイアス補正によるJ-OFURO3衛星海面熱収支の改善

*中村 充喜1、藤本 海2富田 裕之2,3 (1.北海道大学理学部地球惑星科学科、2.北海道大学大学院環境科学院、3.北海道大学大学院地球環境科学研究院)

キーワード:大気再解析、海上気温、海面熱収支、衛星観測

大気再解析データは、大気大循環モデルによる数値シミュレーションの結果と、観測データをデータ同化手法によって融合したデータである。一般に、欠測が無い格子データとして提供され、これまでに様々な用途に利用されている。人工衛星観測に基づき海面熱フラックスを推定した第三世代のデータセット(Japanese Ocean Flux Data Sets with Use of Remote Sensing Observations, J-OFURO3) においても、海面熱フラックスの推定に必要となる海上気温の値としてNOAAが提供する大気再解析データ(以下NCEP)を使用している。しかしながら、NCEPの海上気温データには正のバイアスがあることが知られており、J-OFURO3における全球の熱収支にバイアスを生じさせる原因となっていることが指摘されている。
本研究は、現場観測データとの比較を通して、NCEPの海上気温データのバイアスの特徴について調査し、さらにそのバイアスの有効な補正方法を提案することを目的とした。さらに得られた補正方法を全球の海上気温データおよび海面顕熱フラックスの推定に適用し、その効果を調査する。また、関連してNCEPの海上気温バイアスが生じる要因について考察を行った。
ブイの現場観測データを使用してNCEPの海上気温のバイアスの特徴を調査した結果、バイアスは海上気温自体の変化と強く関係していることが明らかになった。具体的には、海上気温が低い場合に、正のバイアスが生じる傾向が明らかになった。このことは、過去の研究において指摘された緯度に依存したバイアスの存在と矛盾しないが、より実態に近いバイアスの特徴を示したことになる。そこで、現場観測データから得られる海上気温を基準に、NCEPの海上気温データのバイアスを補正する経験式を作成し、これにより補正を行った。経験式を作成する際に用いたデータと独立なデータを用いた検証を行った結果、全球域で生じていたバイアスの大部分を改善することに成功した。特に海上気温が15℃以下の温度帯では約+0.75℃の正のバイアスがあったが、補正によって+0.03℃まで軽減できることを示した。さらに、全球域の海上気温のバイアスを補正することでJ-OFURO3における海面顕熱フラックスの値も改善し、これまでの研究から指摘されていた全球熱収支のバイアスを軽減させる効果があることが示された。
海上気温のバイアスの原因については、数日の時間スケールに注目すると、気温のバイアスは海面顕熱フラックスの変化とよく対応すること、またNCEPの顕熱フラックスは現場観測から推定される顕熱フラックスと比べて大きいことから、顕熱フラックスのバイアスが気温のバイアスに関係していることが示唆された。
NCEP大気再解析データは1996年に発表されてから現在に至るまで解析とデータ提供を続けているデータセットの1つである。また、同様の気温バイアスの傾向は他のより新しい世代の大気再解析データセットにも見られる。本研究の成果は、NCEPのユーザーのみならず、他の大気再解析データのユーザーにとって有益な情報を提供するとともに、将来の数値モデル, データ同化, 大気再解析データの開発に資する。さらにJ-OFURO3などの観測的な海面熱収支の推定に対して、より良い基礎データを提供することに貢献する。