日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS07] 大気化学

2023年5月22日(月) 13:45 〜 15:00 展示場特設会場 (2) (幕張メッセ国際展示場)

コンビーナ:坂本 陽介(京都大学大学院地球環境学堂)、内田 里沙(一般財団法人 日本自動車研究所)、石戸谷 重之(産業技術総合研究所)、岩本 洋子(広島大学大学院統合生命科学研究科)、座長:岩本 洋子(広島大学大学院統合生命科学研究科)、内田 里沙(一般財団法人 日本自動車研究所)、坂本 陽介(京都大学大学院地球環境学堂)

14:45 〜 15:00

[AAS07-15] アラスカ内陸部でのBC及びCOの長期観測:森林火災の影響について

*木名瀬 健1滝川 雅之1竹谷 文一1朱 春茂1金  龍沅2金谷 有剛1 (1.海洋研究開発機構、2.アラスカ大学フェアバンクス校)

キーワード:ブラックカーボン、一酸化炭素、北極、アラスカ、森林火災、気候変動

近年北極域で進む気候変動は全球平均に比べてより加速的で深刻なものとなっている。黒色炭素質エアロゾル(Black carbon; BC)は短寿命気候変動因子(Short lived climate forcers; SLCFs)の一つであり、不完全燃焼により大気中に放出され太陽放射を強く吸収し気候変動に寄与する。さらにBCは雪氷表面に沈着した後も雪氷表面のアルベドを低下して温暖化に寄与することが知られており、それにより北極域の融雪を加速する。しかし、北極域におけるBCの時空間分布はまだ未解明のためインベントリ間のばらつきが大きく、その結果モデル間でのばらつきが大きいため、より詳細な北極域BCの時空間分布の定量的把握が重要である。
北米に位置するアラスカは広大な北方林を有し、そこで発生する森林火災は北極やその周辺域、特にアラスカ内陸部において重要なBCの供給源である。しかし、アラスカ内陸でのBC観測例は不足している。本発表では、我々がアラスカ内陸部で観測したBC及びCOの5年間に及ぶ長期データを紹介し、森林火災強度とBC/ΔCOの関係性について報告する。
BC及びCOの観測はPorker Flat Research Range観測所(PFRR; 65.12 N, 147.43 W)にて2016年4月より開始した。PFRRはアラスカの中心付近に位置しており、その周辺を北方針葉樹林に囲まれている。夏季にはたびたび森林火災が発生し、PFRRにおけるBC及びCO濃度に大きな影響を及ぼしている。全観測期間中におけるBC濃度の中央値は15.2ng/m3で明確な季節変動は見られなかったが、夏季に激しい濃度上昇がたびたび観測された。アラスカ内にある他の観測所のDenali (63.72 N, 149.0 W)、Trapper creek (62.32 W, 153.15 W)、及びBarrow (71.32 N, 156.61 W)でのBC観測値と比較したところ、PFRR観測値とDenali観測値では弱い相関(r2=0.3)がみられたものの、Trapper creek及びBarrowとは相関は見られなかった。これはPFRRと他の観測所が高い山脈により区切られており、異なる空気隗の輸送パターンがBC濃度変動に影響していることを示唆している。CO混合比は明確な季節変動を示し、春に極大、夏に極小値を取った(全観測期間の中央値は124.7ppb)。しかし、夏季に見られたBCの高濃度イベント時にはCOも同様に高濃度となっており、これらのピーク時に観測されたBCとCOのソースは同じものであることが示唆された。BC及びCOのソースや気塊が受けた湿性沈着の影響を反映するBC/ΔCOは明確な季節変動を示さず、全観測期間の中央値では1.6 (ng/m3/ppb)となった。
次にGFEDv4.1インベントリを使用してFLEXPART-WRFモデルによりBC時空間分布を計算し、観測と比較した。その結果、モデルは観測を比較的よく表現しており(r2=0.54)特にBC高濃度イベントのタイミングをよく再現したが、17%程度の過小評価をしていることが分かった。モデルによる排出源推定では、下記に観測されたBC高濃度イベント時には周辺での森林火災が強く影響していることが示唆された。
最後にBC/ΔCOとMODISが観測した燃焼強度を示すFire radiative power(FRP)を比較し、周辺で起きた森林火災の強度とBC/ΔCOの関係性について調べた。その結果、FRPの増大とともにBC/ΔCOも大きくなる傾向にあることが分かった。本研究の結果は燃焼強度の変化によってBCとCOの放出効率も異なるレートで変化することを示しており、北方林地帯におけるBCインベントリをより正確なものにするためには、燃焼強度の違いによるBCの放出速度の変化を考慮する必要性があることを示唆している。