日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS07] 大気化学

2023年5月23日(火) 09:00 〜 10:30 オンラインポスターZoom会場 (3) (オンラインポスター)

コンビーナ:坂本 陽介(京都大学大学院地球環境学堂)、内田 里沙(一般財団法人 日本自動車研究所)、石戸谷 重之(産業技術総合研究所)、岩本 洋子(広島大学大学院統合生命科学研究科)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/22 17:15-18:45)

09:00 〜 10:30

[AAS07-P09] GOSAT-GW衛星NO2観測データ処理におけるエアマス因子計算最適化

*中村 綾乃1佐藤 知紘1、藤縄 環2笠井 康子1 (1.国立研究開発法人情報通信研究機構、2.国立研究開発法人国立環境研究所)

キーワード:GOSAT-GW、AMF

背景・目的
温室効果ガス・水循環観測技術衛星(GOSAT-GW)は、GOSAT-1、GOSAT-2の温室効果ガス観測ミッションの後継機として、2024年に打ち上げられる予定である。GOSAT-GWは、温室効果ガスと主要な大気汚染物質である二酸化窒素(NO2)の同時観測をする。また、回折格子型分光器を搭載し、1日あたり300万点以上の観測を行う。
エアマス因子(AMF)は、NO2の傾斜カラムを鉛直カラムへ補正する際に用いられ、観測スペクトルからNO2鉛直カラムを求める際の最大誤差要因の一つである。GOSAT-GWは観測点数が多いため、AMFの計算を高速化が必要である。AMFは放射伝達モデルにより計算されるが、一般に放射伝達モデルは計算コストが高く、GOSAT-GWのように豊富な観測点を持つ衛星観測のデータ処理では、想定されうる全ての観測ケースについて事前にAMFを計算し、ルックアップテーブル(LUT)として保存する手法が用いられる。従来、LUTに格納する観測条件は経験的に設定され、定量的な議論は不十分である。本発表では、AMFをより高精度に導出するためには、LUTに格納する入力変数及びそのノードの最適化について議論する。
手法
ここでは、雲やエアロゾルが存在しないClear skyを想定した。考慮する入力変数(x)は、太陽天頂角(SZA)、衛星天頂角(VZA)、相対方位角(RAA)、地表面アルベド、地表面高度の5つとした。これら入力変数に対して、以下に示す方法でノードを決定した。なお、放射伝達モデルにはSCIATRAN V4.6.1を用いた。
1.各入力変数(x)に対するTotal AMFの1次微分(=V(x))を計算
2.V(x)を積分値が等しくなるように、入力変数(x)に対するノードを設定
結果・考察
本手法を用いて、2401通りの組み合わせのLUT(LUT2401)から50625通りの組み合わせのLUT(LUT50625)を作成した。各入力変数に対して、GOSAT-GWの観測パターンを想定した密度分布に沿ってランダムに100x100通りのテストケースを計算し、LUTに格納した計算結果からテストケースの場合に合わせて補間したAMFと、放射伝達モデルで直接計算したAMFを比較した。補間方法はPython の scipy モジュールに組み込まれている Regular Grid Interpolator (RGI) を用いた。精度評価には、RMSEとRMSPEを用いた。LUT2401からLUT50625とLUTに格納するパターン数を増やすにつれて、RMSEとRMSPEは0.0279(1.286%)から0.0194(0.971%)まで減少した。従来のように保守的に35000通りの組み合わせでノードを設定したLUT(LUT35000)では、RMSEとRMSPEは0.0609(2.505%)であり、本手法により、RMSE、RMSPEが0.0415、38%だけ減少した。一方、計算時間はLUT2401では0.59687秒、LUT50625では0.5359秒であり、格納するパターン数に対する有意な差は確認されなかった。
結論
本アルゴリズムを用いてLUTに格納するパターンを最適化することで、従来の保守的に作成したLUTと比較して、RMSEとRMSPEはそれぞれ0.0415と38%だけ減少した。一方、本アルゴリズムを用いた場合、格納数に応じた計算時間の有意な差は確認されなかった。