09:00 〜 10:30
[AAS07-P25] 高分解能衝突誘起解離質量分析(HR-CID-MS)法を用いたα―pinene気相酸化体の官能基解析:酸化剤の影響
キーワード:モノテルペン、酸化反応、官能基、高分解能衝突誘起解離質量分析
研究背景
植物の二次代謝産物として森林から大気中に放出されるモノテルペン(C10H16)は、大気中に存在するオゾンやOHラジカルなどの酸化剤と反応し、酸素原子を6個以上持つような高酸化分子(Highly oxygenated molecules : HOM)を形成する。これらは気候変動や地球温暖化などの環境問題を引き起こす大気汚染物質である二次有機エアロゾル(Secondary organic aerosols : SOA)の発生源となることが知られている(Ehn et al., Nature, 2014)。モノテルペンには約400種類の構造異性体が存在し、その構造によって酸化反応の進行度合や生成する酸化体の有する官能基が異なるため、SOA生成効率はモノテルペン酸化体の持つ官能基の種類と量に依存する(Atkinson et al., Atmos. Environ., 1995)。大気中に放出されるモノテルペンの約半分を占めるα-pineneの酸化体の推定構造は、質量分析等を用いてこれまでにいくつか報告されているが、そのほとんどは「整数質量」による分析であった。そのため、整数質量が同じでも元素組成の違う酸化体(例えば、整数質量170のC9H14O3とC10H18O2) を区別して測定、解析することは困難であった。
そこで本研究では、On-line分析が可能な大気圧化学イオン化法の一つである大気圧コロナ放電イオン化(Atmospheric pressure corona discharge ionization : APCDI)法(Sekimoto et al., Eur. Phys. J. D., 2010)と、対象のイオンを解離して生成する中性種から構造情報を得る解析手法である高分解能衝突誘起解離質量分析(High-resolution collision-induced dissociation mass spectrometry : HR-CID-MS)法を組み合わせて、α-pinene酸化体の官能基の精密解析を行った。
α-Pinene酸化体標準品を用いたHR-CID-MSでの官能基と中性脱離種の関連性
本研究ではまず、α-pineneの酸化体標準品を脱プロトン化し、CID法によって酸化体イオンから脱離する中性種と酸化体の有する官能基の関連性を調べた。一例として、α-pineneの主な酸化体として知られ、アセチル基とカルボキシル基を持つpinonic acidの測定例を示す(Figure 1)。Pinonic acidの脱プロトン分子を解離させると、H2OとCO2、C2H2Oの脱離が検出された。これらの脱離はそれぞれの官能基に由来しており、CO2脱離はカルボキシル基を、H2O脱離はカルボキシル基の中のヒドロキシ基を、C2H2O脱離はアセチル基を反映していた。その他の酸化体標品も同様に実験した結果、官能基と中性脱離種の間にはパターンがあることを見出した(Figure 2)。
酸化剤に依存して生成するα-pinene酸化体の官能基解析
上記で示した酸化体の官能基と中性脱離種の関連性(Figure 2)を実際の構造未知のα-pinene酸化体の官能基解析に応用した。本研究では、テフロンバッグにα-pineneとオゾンまたはOHラジカルを注入し反応させた場合とAPCDI法での放電によって生成するNO3ラジカル/オゾン/OHラジカルと反応させた場合を用いた。生成した種々の酸化体の脱プロトン分子をCIDし、得られた中性種脱離から構造未知の酸化体の官能基を予測した。例えば、m/z 199で検出されたC10H16O4の脱プロトン分子を解離させると、3つの条件で官能基の存在を示唆する中性脱離種とその割合が異なった(Figure 3)。オゾンを酸化剤として用いた場合はアセチル基の存在を示唆するC2H2Oの脱離が検出されたが、その他の条件では検出されなかった。一方、オゾンを酸化剤として用いた場合はペロキシ基の存在を示唆するH2O2の脱離は検出されなかった。このことからオゾンはアセチル基を持つ酸化体を生成しやすく、ペロキシ基を持つ酸化体を生成しづらいことが示唆された。これらの結果から、どの酸化剤がどの官能基の形成に寄与するかを検討した。
植物の二次代謝産物として森林から大気中に放出されるモノテルペン(C10H16)は、大気中に存在するオゾンやOHラジカルなどの酸化剤と反応し、酸素原子を6個以上持つような高酸化分子(Highly oxygenated molecules : HOM)を形成する。これらは気候変動や地球温暖化などの環境問題を引き起こす大気汚染物質である二次有機エアロゾル(Secondary organic aerosols : SOA)の発生源となることが知られている(Ehn et al., Nature, 2014)。モノテルペンには約400種類の構造異性体が存在し、その構造によって酸化反応の進行度合や生成する酸化体の有する官能基が異なるため、SOA生成効率はモノテルペン酸化体の持つ官能基の種類と量に依存する(Atkinson et al., Atmos. Environ., 1995)。大気中に放出されるモノテルペンの約半分を占めるα-pineneの酸化体の推定構造は、質量分析等を用いてこれまでにいくつか報告されているが、そのほとんどは「整数質量」による分析であった。そのため、整数質量が同じでも元素組成の違う酸化体(例えば、整数質量170のC9H14O3とC10H18O2) を区別して測定、解析することは困難であった。
そこで本研究では、On-line分析が可能な大気圧化学イオン化法の一つである大気圧コロナ放電イオン化(Atmospheric pressure corona discharge ionization : APCDI)法(Sekimoto et al., Eur. Phys. J. D., 2010)と、対象のイオンを解離して生成する中性種から構造情報を得る解析手法である高分解能衝突誘起解離質量分析(High-resolution collision-induced dissociation mass spectrometry : HR-CID-MS)法を組み合わせて、α-pinene酸化体の官能基の精密解析を行った。
α-Pinene酸化体標準品を用いたHR-CID-MSでの官能基と中性脱離種の関連性
本研究ではまず、α-pineneの酸化体標準品を脱プロトン化し、CID法によって酸化体イオンから脱離する中性種と酸化体の有する官能基の関連性を調べた。一例として、α-pineneの主な酸化体として知られ、アセチル基とカルボキシル基を持つpinonic acidの測定例を示す(Figure 1)。Pinonic acidの脱プロトン分子を解離させると、H2OとCO2、C2H2Oの脱離が検出された。これらの脱離はそれぞれの官能基に由来しており、CO2脱離はカルボキシル基を、H2O脱離はカルボキシル基の中のヒドロキシ基を、C2H2O脱離はアセチル基を反映していた。その他の酸化体標品も同様に実験した結果、官能基と中性脱離種の間にはパターンがあることを見出した(Figure 2)。
酸化剤に依存して生成するα-pinene酸化体の官能基解析
上記で示した酸化体の官能基と中性脱離種の関連性(Figure 2)を実際の構造未知のα-pinene酸化体の官能基解析に応用した。本研究では、テフロンバッグにα-pineneとオゾンまたはOHラジカルを注入し反応させた場合とAPCDI法での放電によって生成するNO3ラジカル/オゾン/OHラジカルと反応させた場合を用いた。生成した種々の酸化体の脱プロトン分子をCIDし、得られた中性種脱離から構造未知の酸化体の官能基を予測した。例えば、m/z 199で検出されたC10H16O4の脱プロトン分子を解離させると、3つの条件で官能基の存在を示唆する中性脱離種とその割合が異なった(Figure 3)。オゾンを酸化剤として用いた場合はアセチル基の存在を示唆するC2H2Oの脱離が検出されたが、その他の条件では検出されなかった。一方、オゾンを酸化剤として用いた場合はペロキシ基の存在を示唆するH2O2の脱離は検出されなかった。このことからオゾンはアセチル基を持つ酸化体を生成しやすく、ペロキシ基を持つ酸化体を生成しづらいことが示唆された。これらの結果から、どの酸化剤がどの官能基の形成に寄与するかを検討した。