09:00 〜 10:30
[AAS07-P26] 対流圏化学における酸化エチレンの大気消失過程の要因分析
キーワード:酸化エチレン、量子化学計算、遷移状態理論、対流圏化学、全球大気質モデル
1.はじめに
有機合成材料や医療機関での滅菌剤として広く利用される酸化エチレン(EtO)は、揮発性有機化合物(VOC)の一つであり、発がん性のある物質として知られている。EtOの健康リスク評価を行うためには、EtO の排出メカニズムや詳細な化学反応などの大気化学を理解し、EtO の環境中濃度を管理することが必要である。EtO を含む大気汚染物質の大気中の安定性の指標となる大気寿命は、大気中の主要な酸化剤である OH ラジカル(OH)との反応によって定められるのが一般的である。OH 以外のラジカルと EtO の詳細な酸化経路は不明であるため、本研究では量子化学と遷移状態理論に基づく理論計算によって大気酸化剤(OH, NO3, Cl, ClO)と EtO の化学反応の速度定数を決定し、全球大気質モデルによりEtO の大気寿命を評価する。
2.手法
大気酸化剤としてOHラジカル(OH)、NO3ラジカル(NO3)、Cl原子(Cl)、ClOラジカル(ClO)とEtOとの反応を取り扱った。反応速度定数は遷移状態理論に基づく理論計算により求めた。反応物、遷移状態、生成物の構造及びそのポテンシャルエネルギーを量子化学計算ソフトGaussian16によりG4//M06-2X/aug-cc-pVTZレベルで求め、速度定数の計算にはGaussian Post Processor (GPOP)を用いた。大気酸化剤の全球濃度分布の計算にはthe Goddard Earth Observing System Chemistryモデル(GEOS-Chem v12.9.3)を利用した。計算期間は2019年1月1日~12月31日の一年間とし、スピンオフ計算期間は2018年の一年間とした。排出インベントリとして、人為起源排出及び船舶排出にCEDS、バイオマス燃焼にGFED、植物期限BVOCにMEGAN、火山由来 SO2にNASA/GMAOをそれぞれ採用した。また気象場としてMERRA2を採用し、格子解像度は緯度×経度で2×2.5とした。
3.結果と考察
理論計算により求めたEtOと大気酸化剤のポテンシャルダイアグラムをFig.1に示す。EtOとOH、Clとの反応速度定数はそれぞれ3.45×10-14 cm3molecule-1s-1、2.13×10-12 cm3molecule-1s-1となり、既往研究での反応速度定数の実測値を良好に再現した。EtOとNO3の反応速度定数は2.98×10-19 cm3molecule-1s-1であり、OHとの反応速度定数とはおよそ105程度の差があるが、これはエチレンなどの他のVOCと一致した。また、EtOとClOの反応速度定数は1.03×10-20 cm3molecule-1s-1となった。EtOとOHの付加反応も検討されたが反応定数が2.61×10-23cm3molecule-1s-1と非常に小さいため、無視できると考えられる。大気酸化剤の地表面の全球平均濃度に基づくEtOの大気寿命はOHとの反応に対する寿命が250日で最小であり、ついでClとの反応に対する寿命が34.3年であった。Clは海域や沿岸域ではOHより大きな濃度を示し、EtOとの反応速度が十分大きいことから、EtOの消失は主にOHによるもので、海域や沿岸域など局所的にはClによる消失も起こると考えられる。大気酸化剤の大気濃度分布と速度定数から、EtO濃度で規格化したEtOと大気酸化剤の反応速度を算出した。EtOと大気酸化剤の反応速度の算出結果をFig.2に示す。結果から、EtOの消失速度はは汚染物質の人為排出期限が大きい日本、中国、インド、中東、西ヨーロッパ、北米で特に大きくなった。人為排出源の小さい地域では化学反応に由来するEtOの消失反応はほぼ進行することはなく、大気中に蓄積されるか、または地表面に沈着して消失することが予想される。
4.謝辞
本研究は経済産業省の助成の下におこなわれた。ここに謝意を記す。
有機合成材料や医療機関での滅菌剤として広く利用される酸化エチレン(EtO)は、揮発性有機化合物(VOC)の一つであり、発がん性のある物質として知られている。EtOの健康リスク評価を行うためには、EtO の排出メカニズムや詳細な化学反応などの大気化学を理解し、EtO の環境中濃度を管理することが必要である。EtO を含む大気汚染物質の大気中の安定性の指標となる大気寿命は、大気中の主要な酸化剤である OH ラジカル(OH)との反応によって定められるのが一般的である。OH 以外のラジカルと EtO の詳細な酸化経路は不明であるため、本研究では量子化学と遷移状態理論に基づく理論計算によって大気酸化剤(OH, NO3, Cl, ClO)と EtO の化学反応の速度定数を決定し、全球大気質モデルによりEtO の大気寿命を評価する。
2.手法
大気酸化剤としてOHラジカル(OH)、NO3ラジカル(NO3)、Cl原子(Cl)、ClOラジカル(ClO)とEtOとの反応を取り扱った。反応速度定数は遷移状態理論に基づく理論計算により求めた。反応物、遷移状態、生成物の構造及びそのポテンシャルエネルギーを量子化学計算ソフトGaussian16によりG4//M06-2X/aug-cc-pVTZレベルで求め、速度定数の計算にはGaussian Post Processor (GPOP)を用いた。大気酸化剤の全球濃度分布の計算にはthe Goddard Earth Observing System Chemistryモデル(GEOS-Chem v12.9.3)を利用した。計算期間は2019年1月1日~12月31日の一年間とし、スピンオフ計算期間は2018年の一年間とした。排出インベントリとして、人為起源排出及び船舶排出にCEDS、バイオマス燃焼にGFED、植物期限BVOCにMEGAN、火山由来 SO2にNASA/GMAOをそれぞれ採用した。また気象場としてMERRA2を採用し、格子解像度は緯度×経度で2×2.5とした。
3.結果と考察
理論計算により求めたEtOと大気酸化剤のポテンシャルダイアグラムをFig.1に示す。EtOとOH、Clとの反応速度定数はそれぞれ3.45×10-14 cm3molecule-1s-1、2.13×10-12 cm3molecule-1s-1となり、既往研究での反応速度定数の実測値を良好に再現した。EtOとNO3の反応速度定数は2.98×10-19 cm3molecule-1s-1であり、OHとの反応速度定数とはおよそ105程度の差があるが、これはエチレンなどの他のVOCと一致した。また、EtOとClOの反応速度定数は1.03×10-20 cm3molecule-1s-1となった。EtOとOHの付加反応も検討されたが反応定数が2.61×10-23cm3molecule-1s-1と非常に小さいため、無視できると考えられる。大気酸化剤の地表面の全球平均濃度に基づくEtOの大気寿命はOHとの反応に対する寿命が250日で最小であり、ついでClとの反応に対する寿命が34.3年であった。Clは海域や沿岸域ではOHより大きな濃度を示し、EtOとの反応速度が十分大きいことから、EtOの消失は主にOHによるもので、海域や沿岸域など局所的にはClによる消失も起こると考えられる。大気酸化剤の大気濃度分布と速度定数から、EtO濃度で規格化したEtOと大気酸化剤の反応速度を算出した。EtOと大気酸化剤の反応速度の算出結果をFig.2に示す。結果から、EtOの消失速度はは汚染物質の人為排出期限が大きい日本、中国、インド、中東、西ヨーロッパ、北米で特に大きくなった。人為排出源の小さい地域では化学反応に由来するEtOの消失反応はほぼ進行することはなく、大気中に蓄積されるか、または地表面に沈着して消失することが予想される。
4.謝辞
本研究は経済産業省の助成の下におこなわれた。ここに謝意を記す。