日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS07] 大気化学

2023年5月23日(火) 09:00 〜 10:30 オンラインポスターZoom会場 (3) (オンラインポスター)

コンビーナ:坂本 陽介(京都大学大学院地球環境学堂)、内田 里沙(一般財団法人 日本自動車研究所)、石戸谷 重之(産業技術総合研究所)、岩本 洋子(広島大学大学院統合生命科学研究科)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/22 17:15-18:45)

09:00 〜 10:30

[AAS07-P27] 大気硫黄循環におけるOCS+O(1D)反応のOCS消滅過程への影響

*川崎 涼1冬月 世馬1Li Yuanzhe1 (1.上智大学)

キーワード:硫黄循環、OCS消失反応、大気エアロゾル

地球大気における成層圏には硫酸エアロゾルの層(以下SSA:Stratospheric Sulfur Aerosols)が形成されている。このSSAは太陽放射を散乱吸収する性質を持っており、地球表面に届く放射量を減少させる。また、大規模な火山噴火が起こることでSSA量は増加し、地表に届く太陽放射量はより減少する。そして、放射量が減少することで地球表面はより冷却される。このことを模倣し、SSA量を人工的に増加させることが地球温暖化の抑制につながるのではないかと期待されている。これがSSAによるジオエンジニアリングである。しかし、ここで増加させるSSA量を過小評価してしまうとジオエンジニアリングによる副作用が肥大化してしまう。そのため、正確なSSA量を定量的に計算できるモデルが必要になる。
 OCSはSSAの主要な生成源であり、SSAに至るためのOCS消失反応は主に成層圏下部で起こる。これまでこのOCS消失反応は光解離、OCS+OH反応、OCS+O(3P)反応の3つが主だと考えられてきた。そのため、現在の大気モデルにはOCS+O(1D)反応は考慮されていない。これはO(1D)の濃度がOH、O(3P)の濃度に比べて低いためである(成層圏で最低でも106 molecules cm-3程度の差がある)。しかし、Hsin-Tsung Chen et al.(2019)によって求められたOCS+O(1D)反応の速度定数はOH、O(3P)反応に比べて4~5桁レベルで大きい。これを踏まえると、OCS+O(1D)反応も大気モデルで考慮すべきなのではないかと考えることができる。そこで、Danielache et al.,が開発した一次元光化学モデルに新たにOCS+O(1D)反応を組み込み、シミュレーションを行うことで上記4つのOCS消失反応の反応速度レートの解析を行った。
 解析の結果、OCS+O(1D)反応はOCS消失のピークであり、SSAの生成に最も重要な高度20km付近(成層圏下部)で13%も寄与していることが示された。そのため、ジオエンジニアリング計画によって人工的にSSA量を増加させる際、OCS+O(1D)反応を考慮しないことでSSAを過剰に必要としてしまうという問題点が浮かび上がり、SSA量の定量化に見直しが必要であることが示唆された。