日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS07] 大気化学

2023年5月23日(火) 09:00 〜 10:30 オンラインポスターZoom会場 (3) (オンラインポスター)

コンビーナ:坂本 陽介(京都大学大学院地球環境学堂)、内田 里沙(一般財団法人 日本自動車研究所)、石戸谷 重之(産業技術総合研究所)、岩本 洋子(広島大学大学院統合生命科学研究科)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/22 17:15-18:45)

09:00 〜 10:30

[AAS07-P28] プロペン由来RO2ラジカルのNaCl粒子への取り込みにおける溶存イオンの効果

*三上 陸太1坂本 陽介1,2,3佐藤 圭3黎 珈汝2梶井 克純1,2,3 (1.京都大学大学院人間・環境学研究科、2.京都大学大学院地球環境学堂、3.国立環境研究所)


キーワード:対流圏オゾン、HOxサイクル、取り込み係数、RO2ラジカル

対流圏オゾン(以下オゾン)は光化学オキシダントの主成分であり、揮発性有機化合物(VOCs)と窒素酸化物(NOx=NO+NO2)を前駆物質として光化学反応によって生成する。日本では、これら前駆物質の減少にも関わらず、オゾン濃度は1980年代以降緩やかに増加傾向である。この原因の1つとして、大気質改善に伴うエアロゾル濃度減少によって、オゾン生成に関わる気体と粒子との不均一反応が減少したことが影響した可能性が考えられている。そのため、今後の大気質改善に向けて不均一反応を含めたオゾン生成機構の理解が重要である。オゾン生成機構の中核をなすHOxサイクルと呼ばれるラジカル連鎖反応(OH→RO2→HO2→OH)において、OHラジカルやHO2ラジカルのエアロゾル粒子との不均一反応による気相からの消失現象(以下取り込み)の研究報告は蓄積されてきている。エアロゾルへの取り込みによるオゾン生成抑制効果を定量的に評価するためには、物理化学的パラメータである、取り込み係数(以下γ)を用いる必要があるが、RO2ラジカルのγは技術的困難さゆえに十分に調べられていない。
本研究では新たなγ測定手法としてレーザー誘起蛍光法の1つであるLP-LIF(Laser Photolysis-Laser Induced Fluorescence)を用い、プロペン由来のRO2ラジカルについて、様々なイオン性化合物を添加したNaCl粒子への取り込みを測定し、γを実験的に決定すると同時に各イオンが取り込みに与える影響を調べた。実験では、γの決定に不可欠な粒子によるラジカルの気相からの消失速度測定にはLP-LIFシステムを、粒子密度粒径分布測定にはSMPS(Scanning Mobility Particle Sizer)を用いた。試料粒子は、NaCl水溶液、およびアスコルビン酸ナトリウム、塩化銅(II)四水和物もしくは塩化鉄(II)二水和物をNaCl重量の5%をそれぞれ添加したNaCl水溶液をネブライザーにより噴霧することで生成した。全ての実験は装置内部を室温、湿度85%程度の湿潤条件で実施した。アスコルビン酸イオンと鉄(II)イオンはRO2ラジカルの取り込みを促進する効果が確認された。銅(II)イオンの取り込み促進の効果は、本研究で用いた手法では判別困難であった。特に、鉄(II)イオンは大気中にも存在することから、鉄(II)イオンによる取り込み促進は大気中でも起きている可能性が示唆された。