日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS08] 高性能計算で拓く気象・気候・環境科学

2023年5月21日(日) 13:45 〜 15:00 304 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:八代 尚(国立研究開発法人国立環境研究所)、宮川 知己(東京大学 大気海洋研究所)、小玉 知央(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、大塚 成徳(国立研究開発法人理化学研究所計算科学研究センター)、座長:八代 尚(国立研究開発法人国立環境研究所)


14:45 〜 15:00

[AAS08-05] 全球気候モデルにおけるマイナーに見える取り扱いの重要性

*川合 秀明1吉田 康平1神代 剛1、行本 誠史1 (1.気象庁気象研究所)

キーワード:気候モデル、数値予報モデル、パラメタリゼーション

近年、全球気候モデルにおけるチューニングの重要性が深く認識され、それを文献等に明示的に記述することについても理解が進んでいる。しかし、モデルのパフォーマンスに大きく影響するのはパラメータチューニングだけではない。全球気候モデルで用いられているパラメタリゼーションにおける、様々な下限値やちょっとした取り扱いなど、一見マイナーな取り扱いと思われることが、モデルの振る舞いに非常に大きな影響を与えることは、モデル開発経験者にはよく知られていることである。これらの中には、パラメータの下限値、上限値、スキームやプロセスの閾値によるon/off、2つのスキームを並行して動かすか1つのみを排他的に動かすか、鉛直解像度、物理過程の詳細な数値計算法、バグなどが含まれる。パラメータチューニングが、曲がりなりにも観測データなどを参照にして、物理的な観点から行いうるのに対し、これらのマイナーに見える取り扱いは、必ずしも物理的な根拠に基づいて検証できないものも多い。そして、下限値や上限値の値などは、モデルのパフォーマンスを見ながら、試行錯誤で適当に決められていることも多い。

しかし、モデルのパラメタリゼーションにおけるそうした設定や扱いが、モデルにおける雲の表現や、全球平均気温の将来予測に極めて大きな影響を示すことがある。時として、こうした扱いのインパクトは、パラメタリゼーションの精緻化や新スキームの導入、新しい予報変数の追加などによるインパクトよりも大きいことがある。だが、一般に、そうした新スキームや精緻化の影響が詳細に議論される一方で、それと同様か時にはそれ以上のインパクトを持つこともある、マイナーに見える取り扱いの議論はそれほど詳細には行われないことが多い。また、そのインパクトが認識されずに見過ごされていることもあるように見受けられる。

本発表では、マイナーに見える取り扱いが大きな影響を与える例を、できるだけ包括的に紹介する(Kawai et al. 2022, JAMES)。こうしたマイナーに見える取り扱いの影響をより深く認識し、気候モデル開発、及び気候モデル解析コミュニティにおいて透明性を持って議論することは極めて重要であると思われる。なお、マイナーに見える取り扱いは、全球気候モデルに限らず、数値予報モデルや領域気候モデルなどにおいても、共通するものも多く、そうしたモデルにおいても重要性が高いのは同様である。