日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS08] 高性能計算で拓く気象・気候・環境科学

2023年5月21日(日) 15:30 〜 17:00 304 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:八代 尚(国立研究開発法人国立環境研究所)、宮川 知己(東京大学 大気海洋研究所)、小玉 知央(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、大塚 成徳(国立研究開発法人理化学研究所計算科学研究センター)、座長:小玉 知央(国立研究開発法人海洋研究開発機構)


16:15 〜 16:30

[AAS08-09] 数百メートル解像度全球大気シミュレーション

*松岸 修平1、大野 知紀2伊藤 純至3佐藤 正樹1梶川 義幸4河合 佑太5中野 満寿男6高橋 洋7高須賀 大輔1、富田 浩文5八代 尚8 (1.東京大学 大気海洋研究所、2.気象庁 気象研究所、3.東北大学、4.神戸大学 都市安全研究センター、5.理化学研究所 計算科学研究センター、6.海洋研究開発機構、7.東京都立大学大学院 地理環境学域、8.国立研究開発法人国立環境研究所)


キーワード:雲解像モデル、富岳、乱流スキーム

気象・気候シミュレーションにおいて雲・対流の挙動は非常に重要な要素である。線状降水帯に伴う集中豪雨や猛烈な台風に代表される暴風雨等の極端気象は、狭い領域に上昇流が集中する積乱雲によって引き起こされている。したがって、上昇流、つまり鉛直風を数値モデル上で正確に表現する必要が再現性の向上に不可欠である。近年、数値モデルの高解像度化は進んでおり、全球をキロメートル(km)スケールのメッシュで覆う全球非静力学モデルが世界中の各機関で開発され、積乱雲を陽に計算するモデルとして次世代のモデルとして大いに期待されている(Slingo et al. 2022)。しかし、kmスケールでも積乱雲の表現が十分とは言えない。全球kmスケールモデルの限界を理解し、気象・気候に関わる様々な現象のさらなる精密なシミュレーションのためには、大気の鉛直運動をより正確に表現するsub-kmスケール解像度の全球シミュレーションとの比較が必要となる。
本研究では富岳の高いパフォーマンスを活用し、全球雲解像モデルNICAM(Satoh et al. 2014)を用いて、水平解像度数百m解像度の全球大気シミュレーションを行った。解像度間におけるシミュレーションの違い、対流表現の違いについて全球にわたって比較することを目指している。また、kmからsub-km解像度は大気シミュレーションで用いる乱流パラメタリゼーションにおいては、レイノルズ平均モデル(RANS)、Large Eddy Simulation(LES)モデルの双方の境界となる、グレーゾーン(Honnert et al. 2020)な解像度である。そこで、RANSスキームであるMYNN(Nakanishi and Nino 2004)、LESスキームであるSmagorinskyスキームを用いた実験をそれぞれ行い、比較した。富岳を最大限に活用することで、水平解像度220mの全球シミュレーションが可能となった。 220mシミュレーションには富岳の81920ノードを利用して行った。
平均場の解像度に対する依存性を調べた。緯度平均したような平均的な水蒸気場や降水分布は大きくは変わらない。解像度を増加させるについて下層雲量の減少が目立った。降水の分布は注目すると、1時間降水量1mm以下の霧雨のような非常に弱い雨は減少する。しかし、1時間降水量1mmの雨の分布に注目すると、弱い雨は解像度が高いほど増加し雨域は広がる。粗視化した場合においても、kmモデルに比べてsub-kmモデルは降水の分布が滑らかになる。
RANSスキームとLESスキームの結果の比較においても、下層雲量、および下層雲の表現が大きく異なった。LESスキームはRANSに比べて下層雲量が多くなる。また、RANSスキームよりも、下層雲の雲頂、雲底高度のばらつきが見られるようになった。