日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS09] 成層圏・対流圏過程とその気候への影響

2023年5月26日(金) 10:45 〜 12:00 201A (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:田口 正和(愛知教育大学)、江口 菜穂(九州大学 応用力学研究所)、高麗 正史(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、野口 峻佑(九州大学 理学研究院 地球惑星科学部門)、座長:高麗 正史(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)


11:15 〜 11:30

[AAS09-08] 冬季南半球成層圏昇温を起点とする南北両半球結合の解析

★招待講演

*小新 大1佐藤 薫1高麗 正史1 (1.東京大学 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻)


キーワード:中層大気、南北両半球結合、再解析

冬の成層圏での強い昇温が起こると、約2~10日後に夏極の上部中間圏の気温も高くなることが知られている。この現象は南北両半球結合(IHC)と呼ばれ、最初にモデル研究により指摘された (e.g., Becker & Schmitz, 2003)。北半球冬季では成層圏突然昇温(SSW)の発生頻度が高いため、IHCの解析がいくつか行われている (e.g., Körnich & Becker, 2010)。一方、南半球では大規模な成層圏突然昇温はまれであり、南半球の成層圏昇温に伴うIHCの解析はあまり行われていない。本研究では、地上から下部熱圏までカバーする長期再解析データ(JAGUAR-DAS; Koshin et al., 2020; 2022)を用いて、南半球冬季成層圏の極域に限らない昇温現象を起点とするIHCの全球構造及び力学的なメカニズムの解明を目的とする。
JAGUAR-DASは4次元局所アンサンブル変換カルマンフィルタ(4D-LETKF)を用いたデータ同化システムで、解析対象は地上から下部熱圏 (𝑧= ~115 km) までである。用いる予報モデルの解像度はT42L124で、総観規模以上のスケールの現象を表現できる。同化に用いたデータは地上及び対流圏・下部成層圏の観測データセットであるNCEP PREPBUFRと、衛星観測としてAura MLSおよびTIMED SABERの気温、DMSP SSMISの放射輝度である。まずJAGUAR-DASを用いて2004~2019年の15年間の再解析データを作成した。そして、北半球のSSWを対象としたIHCの研究を行ったYasui et al. (2021) の手法にならい、南半球冬季の成層圏昇温に伴う赤道域の低温偏差 (CES) を基準として抽出した事例についてIHCの解析を行った。
冬季南半球成層圏では大規模な昇温はまれであるものの、CESを伴う昇温は約2年に1回の頻度で発生していることがわかった。そして冬季南半球の成層圏昇温を起点とするIHCは、冬季北半球を起点とするものと定性的に同じメカニズムで説明できることが確認できた。しかしながら、南半球起点時と北半球起点時とでは大きく異なる特徴が2つあることがわかった。1つめは、北半球の成層圏昇温の極大は極域に位置するのに対し、南半球の成層圏昇温の極大は中緯度に現れることである。このとき、南半球極域中間圏にも高温偏差が現れていた。北半球冬季には対応する中間圏の高温偏差は存在しないこともわかった。この高温偏差は南半球成層圏昇温のおこる緯度の低さと関係していると考えられる。2つめは夏半球中間圏の準2日波の強さのIHCへの影響の違いについてである。準2日波の振幅は夏季の約1か月のみ大きく、それ以外の時期には非常に小さい。北半球で準2日波が活発となる7月には南半球を起点とするIHCに対する準2日波の寄与が大きく、またこれは北半球冬季の事例と同様である。一方、南半球では春季の8月後半や9月にも昇温が起きることがあり、この場合IHCに対する準2日波の寄与はほとんど見られなかった。これらの結果から、IHCに伴い夏極下部熱圏に現れる高温偏差の高度、強さ、タイムラグは準2日波の季節変化が影響することが示唆される。