日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS09] 成層圏・対流圏過程とその気候への影響

2023年5月25日(木) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (3) (オンラインポスター)

コンビーナ:田口 正和(愛知教育大学)、江口 菜穂(九州大学 応用力学研究所)、高麗 正史(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、野口 峻佑(九州大学 理学研究院 地球惑星科学部門)


現地ポスター発表開催日時 (2023/5/26 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[AAS09-P11] 海陸風循環起源双方向重力波による赤道成層圏準二年周期振動(QBO)頑健化: 2. 沿岸日周期定在波が超年周期を励振する意義

*山中 大学1,2,3荻野 慎也3 (1.総合地球環境学研究所、2.神戸大学名誉教授、3.海洋研究開発機構)

キーワード:準二年周期振動、日周期海陸風循環、地球海洋大気相互作用

赤道域下部成層圏の準二年周期振動(QBO)を起こす波について,最初のLindzen and Holton [1]が漠然と考えた重力波は一般に小規模で, Holton and Lindzen [2]は全赤道域で一様かつ頑健に起こる現象を説明するにより説得的な惑星規模赤道(Kelvin, 混合Rossby重力)波で置き換えた.その後の観測・数値モデル両面の飛躍的進展で,赤道波だけでは運動量(加速)が不十分であることとともに,様々の(慣性)重力波や中緯度からの波動なども検出されてそれらが全体として起こしているという考えが有力となった.しかし数値予報モデルを用いたシミュレーションでは波動の与え方で結果は微妙に変わり,一方Plumb and McEwan [3]の室内実験およびその数値シミュレーションでは定在波つまり等振幅・等速の双方向波で再現でき,これを分岐理論的に論じたYoden and Holton [4]は平均流励振には波の強さに閾値がある(但し平均流振幅には頭打ちがある)ことを示した.従って現実に重力波などが関与するなら,かなり系統的・規則的な励起源があるべきと著者らは考えた.

近年のさらなる観測・モデル進展により,赤道域対流圏内では海陸風循環とこれに伴う雲や雨の海岸集中と日周期(CDC)卓越が明らかとなり,また客観(再)解析で未観測領域まで調べられるようになった.そこで前講演[5]では,JRA-55データから海陸風循環起源の海陸双方向重力波を解析し,これが成層圏QBO生成にかなり主導的役割を果たしていることを示した.赤道域では,洋上には季節内変動(Madden-Julian振動=MJOなど)があるが,Coriolis力が消失し台風など低気圧擾乱がないため,陸域周辺では言わば単純な海陸温度差によるCDCが卓越し,特に洋上を含む衛星観測の進展が客観解析向上に直結したと考えられる.

海陸風循環を強制する海陸温度差は,海側は経年変動(エルニーニョ南方振動=ENSOなど)による数年間に数℃しか変化しないのに対し,陸側は昼夜で10℃程度以上変化するため,海岸線を中心に双方向に位相伝播する成分と,これに伴う海側温度変化を抑える(海側だけが一斉に変わる)成分から成る(1).これらを境界条件として大気中には双方向重力波(CDC海陸風循環)と全球的な潮汐波が励起され,前者の位相速度と運動量束で決まる振幅と位相下降速度をもつQBOが励振される.潮汐はこれまで例えばSumatera西岸Hovmöller図でほぼ同時に現れる印度洋側雲・雨域[6]に相当し,赤道全域の各時刻の日周期成分の経度高度解析にも現れる(2)が,位相速度が速すぎて成層圏以下では平均風と相互作用しない(下部熱圏の強い粘性で減衰して西向き平均風を生む[7])ので,データ解析では経度30°ハイパスフィルタをかけて除去した[5].双方向重力波の強制は沿岸域に偏在している(3)ので松野Gill的な長波長の赤道波も励起され,これもQBOに貢献し得る(特に対流圏界面より上での運動量束の東西一様化に重要と考えられる).以上を通じて日周期のエネルギー注入が(定常的な下部熱圏の東風と)日周期より遥かに長い成層圏QBO(と恐らく成層圏界面および中間圏界面の半年振動)を励振していることになる.

上記で日周期はCoriolis力とは別の地球自転効果であり,QBOの振幅と周期を決めるCDC重力波の位相速度と運動量束は,海陸温度差つまり日射による陸面加熱効率で自転速度と関係する.海岸線など地形は地球史的時間スケールで変化し,これに伴って特に赤道域ではCDCによる降雨と重力波,後者を通じて大気東西循環変動も変わる.中緯度では地形起源停滞性重力波(山岳波)による中部成層圏弱風層[8],そこで吸収されない東西双方向重力波による中間圏界面上下の年周期平均東西風逆転として,自転地球が大気を同期回転(相対速度0)させている.これらは何れも地球表面による大気圏コントロールであり,逆に大気や気候の変化は浸食などを通じて地形を変える可能性がある.

引用文献
[1] Lindzen and Holton, 1968: J. Atmos. Sci., 25, 1095–1107.
[2] Holton and Lindzen, 1972: J. Atmos. Sci., 29, 1076–1080.
[3] Plumb and McEwan, 1978: J. Atmos. Sci., 35, 1827–1839.
[4] Yoden and Holton, 1988: J. Atmos. Sci., 45, 2703–2717.
[5] 荻野・山中, 2023: (当学会の前の講演).
[6] Mori et al., 2004: Mon. Wea. Rev., 132, 2021-2039.
[7] Miyahara, 1978: J. Meteor. Soc. Japan, 56, 86–97.
[8] Tanaka and Yamanaka, 1985: J. Meteor. Soc. Japan, 63, 1047–1054.