日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CC 雪氷学・寒冷環境

[A-CC25] 雪氷学

2023年5月22日(月) 09:00 〜 10:15 103 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:砂子 宗次朗(防災科学技術研究所)、谷川 朋範(気象庁気象研究所)、渡邊 達也(北見工業大学)、大沼 友貴彦(宇宙航空研究開発機構)、座長:砂子 宗次朗(防災科学技術研究所)

09:00 〜 09:15

[ACC25-01] パタゴニア・Greve湖の決壊に伴う淡水性カービング氷河の短期変動

★招待講演

*波多 俊太郎1杉山 慎1 (1.北海道大学低温科学研究所)

キーワード:カービング氷河、氷河湖、氷河湖決壊洪水、氷河流動

氷河の急速な縮小は海水準上昇を引き起こしている。中でも、カービング氷河(海・湖に流れ込む氷河)の後退は急速で、カービング氷河の数多く分布するパタゴニアやアラスカなどの地域で氷質量損失が著しい。さらに、氷河後退によって世界各地で氷河湖の数・体積が増加しており、湖に流れ込む淡水性カービング氷河の変動メカニズムのさらなる理解が求められている。一方で氷河前縁湖は、氷河の流動速度や末端消耗、および淡水性カービング氷河の変動に大きな役割を果たしている。氷河の流れ込む湖としては世界4番目の面積を持つ南米パタゴニアのGreve湖では、2020年4–7月に決壊洪水が発生した。このイベントでは湖の水位は約18 m低下し,流入する淡水性カービング氷河の流動や変動に影響が予想される。そこで本研究では,淡水性カービング氷河の短期間の変動メカニズム解明を目的とし、Greve湖に流入する淡水性カービング氷河を対象として,2016–2021年の末端位置・表面標高・流動速度について解析を行った。

Pío XI氷河とGreve氷河は、南パタゴニア氷原の溢流氷河である。本研究では、Greve湖に流入する氷河末端のうち最大のPío XI氷河の北側末端およびGreve氷河の西側末端を対象とした。光学衛星画像(Sentinel-2, Landsat 8 and PlanetScope)を用いて氷河末端を目視で決定し、末端位置変化を測定した。氷河の流動速度はSentinel-2およびLandsat 8の光学衛星画像に画像相関法を適用して本研究で測定した。また、無償公開されているRETREATプロジェクトの流動速度プロダクトを併せて用いた。さらに、WorldView-1および SPOT-6/7衛星のステレオペア画像から構築した5 m空間分解能の数値標高モデルを解析して氷河の表面標高の変化を測定した。

Pío XI氷河の北側末端の流動速度は、イベント発生後2週間で60%, 4か月間で92%減速した.さらに、排水イベントを含む1年7か月間(2019年8月から2021年3月)で、Greve湖近傍の氷河表面は16.3 ± 0.4 mの急速な標高低下を示した.湖の排水によって、2016–2019年に観測されていた末端位置・流動速度の明瞭な季節変化は失われ,2000年以降の継続的な氷厚増加傾向が減少に転じたことが明らかとなった。Greve氷河では、1985年以降の後退傾向がイベント後に前進傾向に転じ,2020年4月から2021年12月までに113 m前進した。また排水イベントを含む2020年2–7月には,氷河末端から約1 kmの地点で20%の流動加速および11.9 ± 0.9 mの表面標高低下が観測された.Greve氷河の突発的な前進と末端における表面低下は、湖の水位低下に伴い流動方向の引張歪が促進されたことを示唆する。本研究によって、氷河湖の水位変化が流れ込む淡水性カービング氷河の変動に著しい影響を与えること、同じ氷河湖に流入する二つの氷河であってもその変動が大きく異なることが明らかとなった。