日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CC 雪氷学・寒冷環境

[A-CC25] 雪氷学

2023年5月22日(月) 09:00 〜 10:15 103 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:砂子 宗次朗(防災科学技術研究所)、谷川 朋範(気象庁気象研究所)、渡邊 達也(北見工業大学)、大沼 友貴彦(宇宙航空研究開発機構)、座長:砂子 宗次朗(防災科学技術研究所)

09:30 〜 09:45

[ACC25-03] 飛驒山脈の小規模氷河の維持メカニズム

*有江 賢志朗1奈良間 千之2 (1.新潟大学大学院自然科学研究科、2.新潟大学理学部)

キーワード:氷河、多年性雪渓、飛騨山脈、質量収支

2012年以降,飛驒山脈の七つの雪崩涵養型の多年性雪渓が小規模氷河であることが確認されたが(福井・飯田,2012;福井ら,2018;有江ら,2019),その維持メカニズムについては明らかでない.Arie et al. (2022) は,飛驒山脈の5つの小規模氷河において2015年~2022年の涵養深,消耗深,年間質量収支を算出した.その結果,飛驒山脈の小規模氷河の涵養深,消耗深は20m を超え,その質量収支振幅は,世界で観測されている氷河(WGMS氷河)の中で最大であることが示された.しかしながら,年間の質量収支観測の結果では,飛驒山脈の氷河は上流部に涵養域,下流部に消耗域,それらを分ける氷河平衡線が定義できず,飛驒山脈の小規模氷河の維持メカニズムは明らかでない.一般的な氷河では,重力によって上流部の氷体が流動によって下流部へ移動する.このため,氷河がその形態を維持するには,上流部に表面質量収支が正の涵養域,下流部に表面質量収支が負の消耗域が必要である.
 そこで本研究では,実測された氷厚と流動速度,イメージマッチング解析による岩屑堆積域の水平移動および氷河流動の連続の式から,氷河であると考えられる杓子沢雪渓(有江ら,2022)の定常状態の場合の年間表面質量収支の高度プロファイルを算出した.
 その結果,杓子沢雪渓(氷河)では,上流部に質量収支が正の涵養域,下流部に質量収支が負の消耗域となる年間表面質量収支の高度プロファイル(長期平均)が示された.これは,飛驒山脈の小規模氷河は,気候的な氷河平衡線高度以下に存在するが,雪崩の地形効果によって長期の平均表面質量収支が正となる涵養域を局所的に作ることで形成・維持していることを示唆する.

引用文献
1:Arie K, Narama C, Yamamoto R, Fukui K and Iida H (2022) Characteristics of mountain glaciers in the northern Japanese Alps. The cryosphere 16(3), 1091–1106.
2:有江賢志朗, 奈良間千之, 福井幸太郎, 飯田肇, 高橋一徳 (2019) 飛驒山脈北部,唐松沢雪渓の氷厚と流動. 雪氷 81(6), 283–295.
3:有江賢志朗,奈良間千之,福井幸太郎,飯田肇(2022)白馬連山における3つの多年性雪渓の氷厚,日本地球惑星科学連合2022年大会 MIS15-12.
4:福井幸太郎, 飯田肇 (2012) 飛驒山脈, 立山・剱山域の3つの多年性雪渓の氷厚と流動 : 日本に現存する氷河の可能性について. 雪氷74(3), 213–222.
5:福井幸太郎, 飯田肇, 小坂共栄 (2018) 飛驒山脈で新たに見出された現存氷河とその特性. 地理学評論 91(1), 43–61.