日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CC 雪氷学・寒冷環境

[A-CC25] 雪氷学

2023年5月23日(火) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (6) (オンラインポスター)

コンビーナ:砂子 宗次朗(防災科学技術研究所)、谷川 朋範(気象庁気象研究所)、渡邊 達也(北見工業大学)、大沼 友貴彦(宇宙航空研究開発機構)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/22 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[ACC25-P06] グリーンランド北西部カナック氷河における近年の流動変化

*今津 拓郎1,2杉山 慎1 (1.北海道大学低温科学研究所、2.北海道大学環境科学院)


キーワード:雪氷学、氷河、流動モデル

近年,グリーンランド周縁部に分布する氷河氷帽の質量損失が著しい。氷河氷帽の質量変化は、表面質量収支だけでなく氷の流動にも影響を受ける。したがって、長期間にわたる流動速度観測は氷帽の質量変化のメカニズムを理解する上で重要である。そこで、著者らのグループではこれまで研究例の少ないグリーンランド北西部において、2012年からカナック氷河の流動速度観測を開始した。この氷河では、近年流出水量が増加した結果、2015年と2016年に洪水が観測され、道路が破壊されるなどの被害が出た。よって、災害対策の面でも氷河変動理解の重要性が高まっている。以上の背景に基づいて、本研究では、(1)過去10年間に観測された流動速度をまとめ、(2)数値実験によって10年間の氷河変動を再現することを目的とした。
研究対象地のカナック氷河は、グリーンランド北西部(77°28’N,69°13’W)に位置するカナック氷帽から南側に溢流する。この氷河では、2012年以降、流動速度のほかに表面質量収支や氷レーダーを用いた氷河底面の地形の探査などの現地観測が行われている。流動速度の観測は氷河上の標高243–968 m a.s.l.の6地点(低標高域から高標高域にかけてサイト1からサイト6と呼ぶ)にて行った。氷河上に埋設したアルミポールの先端にGNNSアンテナを固定し、スタティック干渉測位法によって3次元座標を取得した。この測量を2012年から2022年にかけて毎年7–8月に行い、ポールの座標位置から水平方向の年間流動速度を算出した。なお2021年はCOVID-19の影響を受けて欠測となった。
カナック氷河の中央流線に沿った縦断面において、有限要素法によって流動速度を計算する数値モデルを構築した。流動の計算に必要なパラメータは観測された水平方向の流動速度をもとに較正した。現地で観測された表面質量収支と計算された流動速度をもとに、1年の分解能で表面標高と末端位置の変動を再現した。
サイト1からサイト4で観測された流動速度は、期間中に減少傾向を示した。特にサイト3において変化が大きく、10年間で20.54 m a1から18.90 m a1に変化した。またサイト5及び6では、2016年以降わずかな増加傾向がみられた。この観測結果をもとに較正した流動モデルを使った数値実験の結果、10年間で末端位置が92 m 後退したと推定された。この結果は、同期間に実際に観測された後退距離を15 m 過小評価するものである。また、10年間の表面標高低下量は実際よりも大きく見積もられた。
今後は流動モデルを改良し、過去の氷河末端位置の再現と将来予測を行う。その結果から、近年の流動速度と氷河変動の関係を明らかにし、氷河変動が社会に与える影響の理解につなげる。