日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CC 雪氷学・寒冷環境

[A-CC26] アイスコアと古環境モデリング

2023年5月22日(月) 15:30 〜 16:45 103 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:植村 立(名古屋大学 環境学研究科)、竹内 望(千葉大学)、川村 賢二(情報・システム研究機構 国立極地研究所)、齋藤 冬樹(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、座長:大藪 幾美(情報・システム研究機構 国立極地研究所)、植村 立(名古屋大学 環境学研究科)、竹内 望(千葉大学)、齋藤 冬樹(国立研究開発法人海洋研究開発機構)

15:45 〜 16:00

[ACC26-07] グリーンランド南東部SE-Dome II アイスコアを用いた過去220年間の涵養量と融解履歴の復元

★招待講演

*川上 薫1、飯塚 芳徳1捧 茉優1,2松本 真依1,2、斎藤 健1、堀 彰3石野 咲子4藤田 秀二5,6藤田 耕史7、高杉 啓太3、畠山 匠8、浜本 佐彩7、渡利 晃久、江刺 和音7、大塚 美侑、植村 立7堀内 一穂8箕輪 昌紘1服部 祥平9青木 輝夫5,6、平林 幹啓5川村 賢二5,6,10的場 澄人1 (1.北海道大学低温科学研究所、2.北海道大学大学院環境科学院、3.北見工業大学、4.金沢大学環日本海域環境研究センター、5.国立極地研究所、6.総合研究大学院大学、7.名古屋大学環境学研究科、8.弘前大学大学院理工学研究科、9.南京大学、10.海洋研究開発機構)

キーワード:グリーンランド、アイスコア、古環境、SE-DomeⅡアイスコア

近年の北極域の温暖化により、グリーンランド氷床の表面融解は加速している。気候変動と氷床の表面融解の関係を詳細に理解することは、温暖化による氷床質量損失の推定の精度向上に重要である。本研究では、グリーンランド氷床の他地域と比較して年涵養量が顕著に多く[1]、気候モデル間で復元された年涵養量に大きなばらつきのある[2]グリーンランド氷床南東部で掘削されたアイスコア(全長250 m; SE-Dome Ⅱコア)を分析した。層位観察、電気伝導度測定、H2O2濃度分析、トリチウム濃度分析から、1799–2020年に相当する深度-年代スケールを一年のずれもなく確立した。そしてSE-Dome Ⅱコアから得られた氷板の厚さと涵養量をERA5による再解析データ(1950–2020年)と比較した。その結果、氷板の厚さは過去220年間で増加し、北極域の気温変化と同調していた。他方で年涵養量(平均1.04 ± 0.20 m w.e. yr−1)は過去220年間において有意な傾向を示さなかった。SE-Dome Ⅱコアの1年あたりの氷板の厚さとERA5による夏季の積算温度には正の相関がみられた。また、SE-Dome Ⅱコアから得られた年涵養量はERA5による年涵養量と一致した。本研究の結果は、グリーンランド氷床南東部における涵養量が北極域の気候変動の影響を受けず過去220年間において一定であることを示し、SE-DomeⅡアイスコアは産業革命前から現在までの環境変動を一年のずれもなく復元しうることを示すものである。
[1] Iizuka et al., 2021: Bull. Glaciol. Res.,39, 1–12. [2] Fettweis et al., 2020: The Cryosphere, 14, 3935–3958.