日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CC 雪氷学・寒冷環境

[A-CC26] アイスコアと古環境モデリング

2023年5月24日(水) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (6) (オンラインポスター)

コンビーナ:植村 立(名古屋大学 環境学研究科)、竹内 望(千葉大学)、川村 賢二(情報・システム研究機構 国立極地研究所)、齋藤 冬樹(国立研究開発法人海洋研究開発機構)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/22 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[ACC26-P06] 南極ドームふじ近傍の多地点の表層付近における密度と微細構造の発達

*井上 崚1藤田 秀二2,1川村 賢二2,1,3大藪 幾美2中澤 文男2,1、本山 秀明2,1 (1.総合研究大学院大学、2.国立極地研究所、3.海洋研究開発機構)


キーワード:フィルン、密度、微細構造、ドームふじ、表層過程、南極

極域のフィルン表層付近における密度の層構造や,氷と空隙がなす微細構造とその層構造は,フィルン全体にわたる圧密速度や気泡形成深度範囲の決定要因として重要である.そのため,表層付近における密度や微細構造,それらの層構造の形成や発達の過程を理解することが重要である.しかしながら,これまで低涵養地域(<~60 mm w.e. yr-1)の表層数メートルの範囲では,フィルンが構造的に弱いため,密度と微細構造を連続的かつ高解像度に調査した研究は限られている(例えば,ドームC(Calonne et al., 2017),コーネン基地(Moser et al., 2020)).そこで本研究では,ドームふじ周辺で掘削された,表層付近のサンプルの欠損が少ない6本のフィルンコア(表1,図1)を用いて,密度と微細構造を連続的かつ高分解能(2.5〜20 mm)に計測した.計測した項目は,(1)ガンマ線透過法による密度,(2)密度の指標となるマイクロ波誘電率ε,(3)氷と空隙がなす縦伸び構造の程度を指標する誘電異方性Δε,および(4)比表面積の指標となる近赤外光反射率である.
 その結果,ドームふじ周辺の傾向として、深度0~約2 mの密度は変動性が大きいが有意に増加しないことが明らかとなった.半経験的な圧密モデルによると,表層付近では上載荷重が小さいため圧密速度は小さいことが予想されるものの,モデルで推定される圧密速度は観測された圧密速度よりも大きいことが分かった.一方,0〜約2 mでは,温度勾配下での変態過程で一般にみられる,氷と空隙の縦伸び構造の発達と比表面積の低下がみられた.これらから,表層付近の大きな温度勾配にともなう変態過程がフィルンの微細構造と層構造の形成に重要であることと、フィルン内部で昇華した水蒸気の一部が大気へ散逸し質量損失(密度減少)が起こっている可能性が示唆される.さらに,低涵養のサイトほど,縦伸び構造が発達しSSAが低下することが明らかになった.このことから,表層付近における変態の度合いの決定要因として、フィルン各層の表層付近(温度勾配が大きい領域)での滞在期間が重要であることが考えられる.

参考文献:
Calonne, N. et al.: The layered evolution of fabric and microstructure of snow at Point Barnola, Central East Antarctica, Earth and Planetary Science Letters, 460, 293–301, 2017.
Moser, D. E. et al.: Microstructure of Snow and Its Link to Trace Elements and Isotopic Composition at Kohnen Station, Dronning Maud Land, Antarctica, Front. Earth Sci., 8, 23, 2020.
Oyabu, I. et al.: Temporal variations of surface mass balance over the last 5000 years around Dome Fuji, Dronning Maud Land, East Antarctica, Climate of the Past, 19, 293–321, 2023.